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歴史のレンズを通して経済思想家の世界を発見

History of Economic Thought I・Ⅱ(経済思想史)
【政治経済学部設置科目】

政治経済学部 4年 柴 思原(さい・しげん)

私が履修した「History of Economic Thought I」(2019年度秋学期)、「History of Economic Thought Ⅱ」(2020年度春学期)の2科目の授業では、アダム・スミス以降のフランスやスコットランドの啓蒙(けいもう)主義の時代から、第2次世界大戦後までの著名な哲学者の経済社会思想の諸制度の歴史的展開について、英語で幅広く学びました。

担当の坂本達哉先生(政治経済学術院教授)は思想史全般に精通しておられ、オープンな質疑応答の時間を設けてくださるなど、授業も大変面白いです。授業後、学生がWaseda Moodle上で自分の考えや質問を自由に述べるのですが、次の授業の開始時にその中から興味深い質問を選び回答してくださいました。2020年度春学期の授業はオンライン授業となりましたが、先生のおかげで双方向の議論が活発に行われました。

授業は、ロバート・ハイルブローナー著『The Worldly Philosophers(世俗の思想家たち)』(1953年)を用い、経済思想史の学習過程における次の三つの側面に焦点を当てて進みました。

1:経済学の社会的・政治的性質

まず、坂本先生は、マインドマップなどの分かりやすい図を使って、各哲学者の焦点となる概念のつながりを説明してくださいました。これらは授業内容のフォローアップや復習の際に役立ちました。

これまでデヴィッド・リカードやジョン・スチュアート・ミル、ジョセフ・シュンペーター、F.A.ハイエクなどに至るまで、資本主義や社会主義を中心とした社会の構造や体制、市民の役割について研究がなされる中で、平等、正義、政策立案と社会福祉、外交と国際貿易、植民地主義と帝国主義、フェミニズムと個人の自由など、人間の存在と活動の中心にあるとされる倫理問題も論じられてきました。

そのため、この授業では経済学そのものだけでなく、「経済学」や「政治経済学」という大枠の下に、社会的・政治的制度や関係性、力学が絡み合っているさまざまな状況も言及されました。哲学者が社会で取り組もうとした問題を理解しなければ、彼らの分析を理解することはできないのです。

(左から)経済思想史と他の経済学の関係(授業のレジュメより)と、使用したテキスト

2:人間としての思想家

この授業では、哲学者たちが示した仮説や理論について、彼らの伝記や自伝を参照しながら解説がなされました。そのおかげで、彼らの学問的動機や意図が、歴史上の社会的・政治的環境に基づいていることを理解しました。思想家の作品には、彼らが見たり住んだりした世界や、接した文化が反映されています。つまり、彼らの「道徳的哲学」には、私的領域と公的なキャリアの両面における自身の成長が映し出されているのです。

彼らの経験を知ると、彼らの命題は知的「欲求」の源や家庭環境、教育、社会的ネットワーク、仕事、結婚などの影響を受け、発展・変化していったことが分かります。ジョン・スチュアート・ミルの家庭教育や精神的危機、ケインズの性的指向やブルームズベリー・グループ(※)への参加などは、若い頃の経験が後の社会生活に影響を与えることを示す一例です。そのため、この授業では思想家の知識面だけでなく、個人としての側面や人間的側面に焦点を当てています。

(※)1905年から第2次世界大戦期まで存在した、英国の芸術家や学者からなる組織

授業で学んだ哲学者たちの肖像(授業のレジュメより)

3:思想の家系図

坂本先生は授業内で既に取り上げた学者について再び言及することがよくあり、先人と後世の知的探求との間には歴史的に密接なつながりがあることを、家系図のような形で概念化してくださいました。著名な先人たちは革新的なアイデアを展開してきましたが、彼らはアダム・スミスのような偉人によるところがあり、互いの言説は似たような根源をたどることができます。

私にとって特定の哲学者の思想体系を理解するのは簡単でした。一方で後世の哲学者が唱える、異なる思想にも納得できました。そこで、どちらの哲学者がより現実的で公平なのかという問題をもっと深く掘り下げようとしたのですが、最終的には、問題に対する視点や基準、優先順位や前提条件によって変わってくるという答えに至りました。この授業を通じ、経済学とは主に「社会科学」であり、少なくとも主観や個人的信念といった要素を含んでいるものだと気付きました。絶対的な答えも、厳密で固定的な解釈も恐らく存在しないのです。

経済思想の知的システムの「家系図」(レジュメより)

~冷静な頭脳、温かい心~

「History of Economic Thought I ・ Ⅱ」では、経済学そのものの難しさや奥深さを学びました。坂本先生からは、論理的思考の本質、思考の多様性や独自性の尊重、歴史的視点から知的発展を分析するアプローチ手法などを教わりました。経済問題は、社会の現実や課題と切り離すことはできません。経済理論は、その背後にある思想家の「温かい」情熱と、思考のレンズを通して捉えた独特な世界を理解すると、決して「冷たい」知の表象ではないのです。坂本先生は、彼らの魅力ある個性的で知的な言葉の世界に、私たちを導いてくださいました。

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