身の上話にお付き合いいただきたい。
私は電子回路工作が好きだったので学部では電子工学を専攻したが、学問としての電子工学はまた別の世界で、やむなく生物学科に学士入学しなおした。すると水があっていたのか、夢中で実験に明け暮れているうちに博士になっていた。そこで助手の公募にあちこち応募したが全滅。つてを頼ってアメリカでポスドクをすることにした。恐る恐る行ってみると素晴らしい先生と仲間に恵まれ本当に楽しく、あっという間に5年が過ぎた。そこで再び大学の公募に応募したが連戦連敗。たまたま先生の代理として日本国内の国立研究所(国研)主催の研究会で発表したところ、縁があったのかそこの主任研究員に採用していただくことになった。入ってみると当時の国研は研究費が潤沢で雑用が少なく、またもや夢中で研究をしていたら20数年が経過していた。最初に電子工学を学んだことが生物物理学に進む礎ともなった。ただ国研は定年が早いし、もともと大学で教えながら研究したかったのだという初志を思い出し、いくつかの大学の公募に応募していたところ、本学に採用していただけることになった。自分の限界まで若い皆さんと一緒に研究に打ち込めるとはなんたる幸せか。
このように私の人生は、当初希望していなかった方向に進むことばかりであったが、結果的にそれが次々と思いがけず良い展開につながってきた。単に幸運だっただけかもしれないが、どの環境でも楽しく研究に没頭したことが良かったのかもしれない。社会に巣立っていく諸君の中には不本意な進路の人もいるかもしれないが、こんなケースもあったというご参考までに。
(QP)
第1091回