Waseda Weekly早稲田ウィークリー

“クレイジージャーニー”を継ぐ者たち 「学生だからこそできる」ソマリアギャングと創る未来

国際協力に全く興味のなかった女子高生が、大学に入って“本気”になった

テロリスト予備軍とされる“ギャング”になってしまった、ソマリア人の若者の社会復帰プロジェクトなどを行う「日本ソマリア青年機構」。毎週水曜日の夜に行われるミーティングには、28名いる日本側メンバーのほとんどが毎回参加する。場所は新宿区高田馬場の「新宿NPO協働推進センター」で午後6時半から3時間半、休憩もなく熱気を帯びた議論が続く。全体代表の永井陽右さんは、海外活動中でもインターネット通話を通じて参加する。同機構には役職者に加え、「広報ユニット」「会計ユニット」「調査班」などの役割分担があり、各責任者が抱えている課題を報告して解決策を練る。創設から5年目を迎えた「日本ソマリア青年機構」は、日本側・ソマリア側と合わせて総勢58名となり、企業などの組織運営ノウハウも取り入れながら大きく成長した。徒手空拳の状態で、早稲田大学の早稲田キャンパス11号館前から始まった“クレイジージャーニー”を継ぐ学生たち。永井さんからバトンを受け取り、現在、運営実務を担っている学生は何を思って活動をしているのか。日本側代表の関口詩織さん(文化構想学部4年)、広報担当の松田梨紗子さん(社会科学部2年)と、富岡俊行さん(法学部1年)に話を聞いた。

2016年7月、永井陽右さんが撮影したソマリアの首都・モガディシュの日常。子供たちが手にしている物に注目。ソマリアから多くの難民がケニア・ナイロビに逃れ、行き場のない若者たちはギャングとなっていった

ソマリアの首都モガディシュの街並み。銃撃戦などで損傷した建物が痛々しい

――皆さんはなぜ、日本ソマリア青年機構に参加したのですか?

関口詩織(日本ソマリア青年機構日本メンバー代表)。早稲田大学文化構想学部4年。神奈川県出身。2013年6月からメンバー入り。2015年春から日本メンバー代表を務めている。Twitter:@chgchigu

関口
高校3年生のときにシリア内戦の報道を見て、誰にも助けてもらえない孤独感や、死に直面している極限の状況にある人々を助けたいと思ったのが最初のきっかけです。大学に入り、紛争地に行く方法を模索していたとき、友人にこの団体の存在を聞き、「紛争地に対して、学生という立場であっても、今、この瞬間にできることをやるべきだ」という永井さんの言葉に共感して加入を決意しました。

松田梨紗子(同機構広報)。早稲田大学社会科学部2年。神奈川県出身。2015年4月にメンバー入り。2016年度より広報を担当。Twitter:@matudy_17

松田
私が高校生のときに通っていた塾で、永井さんは講師としてアルバイトをしていました。そこで永井さんからソマリアの話を聞いたことが大きな転機になりました。そもそも私は国際協力活動には全く興味のない女子高生だったのですが、当時は大学受験を控えてこれからの人生を考えてみて、このまま適当に生きていっていいのだろうか、と疑問を感じるようになりました。国際協力活動というのは、“意識の高い人”が行うことだと思っていたのですが、永井さんの「学生だからこそできること」という話を聞いて、「私にもできることはある」ということに気付かされました。「取りあえずやってみよう」と思ったことが始まりですね。

富岡俊行(同機構メンバー)。早稲田大学法学部1年。岩手県出身。2016年4月にメンバー入り。Twitter:@tmok_tsyk

富岡
僕は中学生のころ、アフリカで水の確保の支援をしている非政府組織(NGO)の講演会に出席し、初めて自分と全く違う状況にいる人々の存在を知り、漠然とそういう人たちを支援する活動をしたいと考えるようになりました。ただ、学生という立場では何をやっても自己満足で終わってしまうのではないか、という思いもありました。大学入学を機に「日本ソマリア青年機構」を知り、今までマイナスポイントだと思っていた「学生である」ということを、むしろ自分たちの活動の軸にしていることに衝撃を受けました。

――日本ソマリア青年機構へ参加して、どのような思いが芽生えましたか?

関口
日本ソマリア青年機構は日本では珍しい、紛争地に特化して活動しているNGOです。紛争地はそもそも投資する経済的なメリットがなく、劣悪な治安によりビジネスや公務においても国際社会全体が介入をためらう中で、経済的な後ろ盾も政治力も何も無い学生がそこに入っていく際には「純粋に困っている人を支援したい」という思いと責任感が問われます。この団体を代表という立場で引っ張っていく責任感は当然持っていますし、相応に活動を向上させて行く努力を継続するという意味でのプロ意識を持ち、一つ一つのことに当たるようになりました。
松田
学生の自分だからできることがある。できることがあるなら、人に手を差し伸べたいという気持ちです。
富岡
自分たちの活動は現地の人にとって人生の方向性を変えてしまう契機になる可能性があります。一人の人生を左右するということに対して強い責任を感じています。

――みなさんが考える学生団体「日本ソマリア青年機構」の特長は?

毎週水曜日に行われるミーティングの様子

関口
「学生の立場から」「紛争地支援を行っている」。この2つに集約されると考えています。活動を通じてギャングに「自分は社会を変えられるユースリーダーである」という意識をもってもらいます。紛争地支援というと国際機関や国際NGO、外務省など限られた一部の人々が四苦八苦しながら活動している印象が強く、学生には無縁の世界のように思われがちです。そんな中で、利害に左右されず、普通の学生である自分たちに何ができるのか常に考えて活動する姿勢が特長だと考えています。
松田
「本気」というのが大きな特長だと私は思っています。授業があり、アルバイトもあり、友達もたくさん作りたいという学生生活の中で、ギャングを社会復帰させるという私たちの活動は、かなり覚悟を持って臨まないといけません。メンバーは少しの妥協もしていないし、「本気」という点ではどの組織にも負けていないと思っています。
富岡
学年に関係なく、やる気や実行力があれば活躍の場がある実力重視の団体だと思っています。松田さんのように、もともとは国際協力に興味がなかった人でも、広報担当者を立派に務めている。実力主義という点に、自分はとても魅力を感じています。
「死ぬ覚悟より、生きる覚悟」

――全体代表の永井さんの言動で、最も印象に残っていることは?

ソマリア人の若者の社会復帰プロジェクト「Movement with Gangsters」のプログラムを受けて、ナイロビからソマリアに帰国した元ギャングのシレンさん(左)。永井さんは2016年7月、モガディシュで再会した。永井さんの近況はTwitter:@ you___27で

関口
就職活動の際、将来的に国際協力を行っていきたいという理想と、自分の実力とのギャップに悩んでいたとき、永井さんから「能力がないということが国際協力をやめる言い訳になるのか」という言葉を掛けてもらったことです。ギャングという、職にも就いていない不良グループに、犯罪者ではなくユースリーダーとして社会に対して貢献してもらうことを目指して、私たちは活動しています。彼らは私たちのように恵まれている環境下にはないのに、今の状況を変えようと必死にもがいています。国際協力を諦める道を考え始めてしまったこともありましたが、永井さんの言葉で思いとどまりました。
松田
「死ぬ覚悟より、生きる覚悟」という永井さんの言葉が、私の人生を変えるきっかけになったと思います。「覚悟」というのは、死ぬ覚悟が最も強いものだと考えていましたが、永井さんは「生きる覚悟」だと。「目の前の問題に目をそらさずに向き合って、一つ一つ自分の力で解決していこうという意志を持って生きていくべきだ」と言われたとき、「普通の学生である自分でも何かができる」というポジティブな考え方に変わりました。
富岡
僕は「『学生だからこそできること』をやるんだ」という言葉です。マイナスポイントだと思っていた「学生」という言葉が、プラスポイントに変化しました。また、私は何か行動を起こすとき、実現性など現実的な部分ばかりを見てしまい、その結果、断念したことも多いのですが、永井さんが当機構を立ち上げるにあたってはまず理念から入っていきました。理念先行でも、ものごとが動いていくこともあるのだ、と気付かされました。

――ソマリア人ギャングの拠点となっているケニア・ナイロビのイスリー地区に行ったことはありますか? 訪れた際に何を感じましたか?

イスリー地区の路地

関口
まず前提として、イスリー地区へは第3回渡航(2013年8~9月)までは、機構として行っていたのですが、近年、危険度が増しています。現地の日本大使館の指導もあり、今はなるべく行かないようにしています。なので基本的には、日本人メンバーはナイロビ中心部に滞在し、イスリー地区はソマリア人のメンバーに行ってもらうようにしています。行ってみて感じたことは、私自身は2年生の2014年9月に初めてナイロビを訪れたのですが、自分が支援している相手と同じ空気を吸って対面することで、彼らが本当に求めているものを感じ取ることができ、自分たちのプロジェクトによってどういう効果が得られるのかを体で実感できました。特に1・2年生の初渡航者にはこのような“気付き”をもってもらうことも期待しています。

ナイロビでギャングとミーティングする関口さん(左から4人目)

松田
実際に彼らと会ってみて、「学生だからこそできる」という意味がよく分かりました。年齢が近く、同じ目線で対話をすると、ギャングとも友達関係になれると感じたし、友達として手助けすることによって彼らとの信頼関係も築けました。例えばギャングが自分の彼女の写真を見せてくれたり、私に「彼氏を作りなよ」とアドバイスをくれたり(笑)。この経験が日本に帰ってきてから私の活動のモチベーションにもなりました。ただし、プログラムを実践するときは友達関係ではありません。スタッフと参加者という線をしっかりと引いて臨んでいます。
富岡
今年9月に初めて渡航する予定です。ギャングと触れ合い、実際に体で感じてみて、心の中でもやもやしている部分を、自分の中に落とし込んでいきたいと思っています。

ナイロビを訪れ、ギャングたちと記念撮影する関口さん(右から4人目)

――最も印象に残っている出来事は?

関口
2014年9月、初めてナイロビに行って対面したギャング、アブディラシードとの出会いですね。彼は当初、職に就いていなく「自分は将来、そこそこ稼いで今の彼女を幸せにできるようになりたい」と控えめな未来を臨みつつも行動を起こさずにいたのですが、プロジェクト参加を経て目標を持ち、半年後にはニュージーランドに移住していて、奨学金を得て大学に進学し、土木工学を学んでいました。彼はもともと安定を求めていたのに、私たちが提供したプロジェクトを受けたことによって「自分がソマリアの問題解決に向けて動けるユースリーダーだと分かった」と語り「母国の復興に貢献したい」とまで発言するようになっていました。出会い一つで人はこうも変われるのか、という点が非常に印象的でした。

6歳で両親と離れ離れになり、ケニア・ナイロビのイスリー地区にたどり着いたアブディラシードさん。ニュージーランドに避難した親戚と連絡が取れて、同国に移住。学生ローンと滞在許可を得ることができ、大学で土木工学を学んでいる

松田
現地で知り合った「ブルブル」という名のギャングに誕生日を聞くと「1月1日」だと。単純に「珍しくていいな」なんて話していたのですが、難民は誕生日が分からないので1月1日として登録することがある、ということを後に知りました。彼らも母国から阻害されてきたつらい難民生活を送ってきた人たちだとあらためて気付かされ、同時に私自身が彼らのことを「ギャング=悪いやつ」とレッテルを張り、知らず知らずに差別をしていたことを反省させられた瞬間でもありました。

ナイロビ現地でソマリアギャングと触れ合い、新たな気付きを得たという松田さん(右端)

富岡
先日、国際協力機構(JICA)の方とお話しさせていただく機会があり、国際協力を行っている人の特徴として「視野が広くて、国内外のことに関心を持っている人は多いが、反対に自分自身のことに目が向かない人が多い」ということを聞かされました。その人に「君の中に基盤となるもの、軸となるものがあるか?」と問い掛けられたとき、自分は即答できませんでした。国際協力に対する思いは強いのに、その活動を行う自分の根底にある軸が分からなかった。国際協力に限らず、自分の中で物事を行っていくに当たっての基盤となる思いが無かった。生まれて初めて顔を背けたくなるような経験をしました。自分の軸、というものを活動の中で得ていきたいと思っています。
全国の大学生と協力し合い、ギャングと夢をかなえたい

――関口さんは昨年から代表を務めています。責任者になってみての感想や、抱えている課題は?

関口
代表になって2年目。ここまでつらい事の方が多かった、というのが正直な感想です。やる気があって参加してきている人たちに対して、リーダーとして統率していかなければならないのに、自分自身の能力がついていかないというジレンマが常にありました。他のメンバーよりも2歩3歩、先を読んで機構がこれから何をするべきか、今どのような課題に直面しているか、その解決策として何が考えられるのか、ということを全て見通せないといけない。それを指示する立場、メスを入れる立場で、さらに機構の将来を見据えていかなければならない中、自分自身がそのような責任を請け負っていけるかという点には不安を感じていました。私は頭が固くて、どうしても前例を踏襲してしまう傾向があります。今はきちんと自分の考えを持ったメンバーが入ってきているので、彼らの意見を消さずに実現可能かを考え、より柔軟性のあるリーダーになりたいと考えています。

――松田さんの広報担当者としての課題は?

広報の課題を報告する松田さん

松田
私は「知らなかったことを知る」という魅力を永井さんに教えてもらいました。それをみんなにも伝えたいと思うようになったことが、広報担当になったきっかけです。でも、自分は事なかれ主義、波風を立てないというタイプで、そこで直面したのが「広報ユニット」を動かすリーダーシップを発揮しないといけない場面。外部に向けて発信するという役割はもちろんですが、マネジメント力を高めるということが現在、私が抱えている課題です。

――富岡さんは1年生として参加してみた感想は?

議論を熱心に聞く富岡さん(左から2人目)

富岡
この団体には誰でも自由に発言できる環境があり、全体の意見を取り入れようという風通しのいい雰囲気があります。加えて私たち1年生は、永井さんから直接のマネジメントを受けていない世代。自分たちで考え、今後どこをてこ入れしていくか決めていかなければいけません。「学生だからこそ」の思いを、継いでいく責任があると思います。

――早稲田大学以外のメンバーが半数以上となっています。感じることは?

真剣なまなざしの学生メンバーら

関口
もともと早稲田の学生をメインで集めたわけではないんです。ソマリア人留学生の兄妹と永井さんが出会ったことが機構結成のきっかけで、当初は永井さんと同じ理念を持った学生が集まっていましたが、国際協力に従事したい人で、東京外国語大学や立教大学などのメンバーも加入してきました。現在は大学の違いよりも学部の多様性を感じています。初期からいた医学部のメンバーに加えて、看護学科や、法学部、文学部、その他理系の学生も加わっています。それぞれの学んでいる観点から平和構築に関わっていく人が増えていくことで、よりプロジェクトの将来的な発展につながっていくと期待しています。インターネット環境があればミーティング参加は可能です。全国の大学から学生に参加してもらい、夢を語る仲間を増やしたいと思っています。

――活動の抱負や将来の夢は?

関口
日本ソマリア青年機構は、非常に貴重な活動をしていると思っていますので、まずは「つぶさないこと」は意識しています(笑)。学生ができる最大限のことを考えながら、紛争地という世界で最も困っている地域を舞台に、純粋に活動できるのが特長です。しっかりと運営して、いい状態で後輩にバトンを渡したいと考えています。より多くのギャングが私たちの活動に参加し、自分たちの価値に気付き、あらためて行動を起こしてくれる。それが結果的に団体の発展につながっていくと思っています。私自身は企業に就職することも考えていますが、近い将来大学院へ進学して、長年の夢であった紛争地域の武装解除など今やっていることに近い分野に携わっていきます。
松田
今はとにかく、ギャングに対して少しでも多くの選択肢を与えたい。私ができる全てを尽くして彼らが今よりも少しでもいい生活ができて、豊かな未来になるように活動していきたいです。広報担当を経験したので、将来的には人に伝える、人の人生に別の視点を与えられるような人間になりたいと考えるようにもなりました。
富岡
この団体はまだまだ洗練できる部分があるように感じています。それを改善することで歯車の回転もよくなっていくと思うので、自分はサポート役や裏方の仕事をしたいと考えています。団体のことを客観的に見られる時期は短いと思っています。今のうちに多くのことを見ておいて、上級生になったときに生かしていきたいです。
◆関連リンク
日本ソマリア青年機構 http://jsyo.jimdo.com/
永井陽右著『僕らはソマリアギャングと夢を語る 「テロリストではない未来」をつくる挑戦』 http://eijipress.co.jp/sp/somaliagang/
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