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早大卒俳優・小手伸也登場! 早稲田演劇体感ツアーへようこそ

数ある早稲田文化の一つである「学生演劇」。サークルを中心に、学生会館、大隈講堂裏アトリエ(通称隈裏)、そして早稲田小劇場どらま館などで数多くの舞台が上演され、学生たちは創作活動に打ち込んでいます。また、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(通称エンパク)では、日頃からさまざまな企画展が開催され、マニア垂涎(ぜん)ものの貴重な演劇資料も展示されています。

そんな早稲田大学が誇る「演劇文化」をより深く知るべく、今回はキャンパスの演劇スポットツアーを企画。かつて早稲田で演劇一色の学生生活を送ったという俳優の小手伸也さん(1999年教育学部卒業)が、現役学生と共に巡ります。小手さんの当時の貴重な思い出話を交えながら、他大にはない唯一無二の演劇文化を体感しましょう。

早稲田キャンパス 早稲田大学演劇博物館の前で。(左から)飯沼さん、小手さん、関根さん

INDEX

▼スポット1〈早稲田大学演劇博物館〉小手伸也、初めてのエンパク鑑賞に大興奮!
▼スポット2〈大隈講堂裏アトリエ〉演劇の魔物が住む? 「隈裏」で堺雅人を思い出す
▼スポット3〈早稲田小劇場どらま館〉古巣の劇場で後輩たちにバッタリ!
▼演劇ツアーを終えて―演劇を体感するのはかけがえのない経験

馬場下町交差点にて。多くの通行人から「頑張って」と声を掛けられながらキメのポーズ!

某月某日、次の公演に向けた稽古が連日続くハードスケジュールの中、待ち合わせの馬場下町交差点に駆け付けてくれた小手さん。今日の意気込みを一言!

小手

高校時代から、早稲田の演劇サークル「早稲田大学演劇倶楽部(通称エンクラ)」のメンバーが立ち上げた劇団「カムカムミニキーナ」(当時の看板俳優は八嶋智人さん)の作品が大好きで、自分も同じサークルに入りたい一心で、2浪の末念願の早大生になったんです。入部してエンクラはインカレだったと初めて知るのですが…(笑)。学生時代は、今はなき第二学生会館に入り浸って演劇に没頭していました。あれから約30年、今演劇に夢中になっている早大生に、現在の早稲田演劇の様子を教えてもらうのが楽しみです!

スポット1〈早稲田大学演劇博物館〉 小手伸也、初めてのエンパク鑑賞に大興奮!

最初に訪れたのは、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(通称「演博」=エンパク)。1928年、坪内逍遙の古稀(70歳)の誕生日と「シェークスピア全集」全40巻の翻訳を完成させたことを記念して設立され、以来、日本国内に限らず、世界各地の演劇・映像の貴重な資料を収集しています。そしてなんと、誰でも入場無料! ここからは、エンパクの学生スタッフであり文学研究科博士後期課程演劇映像学コース2年の関根遼さんの案内で館内を巡りましょう。

ノスタルジックな雰囲気あふれる2階の廊下は、写真映え抜群。歩くとミシミシ鳴る木の床も気分を盛り立ててくれる

小手:実は、恥ずかしながら今回初めてエンパクを訪れました。当時演劇には夢中だったけど、演劇の博物館には目もくれておらず…。

関根:何ともったいない。演劇博物館には、錦絵48,000枚、舞台写真400,000枚、図書270,000冊、チラシ・プログラムなどの演劇上演資料80,000点、衣装・人形・書簡・原稿などの博物資料159,000点など、およそ百万点にもおよぶ膨大なコレクションを所蔵しています。“演劇の歴史”がこの建物に詰まっていると言ってもいいほど。実は最近、小手さんが学生時代に手掛けた公演のチラシも寄贈され、エンパクのコレクションに加わったんですよ。

小手:え、えーっ! それ、僕の手元にももうない、幻のチラシです。

学生時代に作・演出を手掛けた演劇のチラシ。出演は俳優の安藤玉恵さんも。「安藤さんは僕が3年生のときの1年生で、言わば教え子。こんなに売れっ子になるなんて!」(小手さん)

関根:入館の前にまずは建物の外観をご紹介しますね。この建物は、シェイクスピア時代のイギリスの劇場『フォーチュン座』を模して設計されています。玄関正面が劇場の舞台、両翼の部分が観客の座る桟敷にあたる、野外劇場の形をとっているんですよ。小手さんの時代よりもっと昔には、学生サークルもその舞台で公演をしていたとか。では中に入りましょう!

正面から見たエンパク。新宿の有形文化財(建造物)に指定されている

小手:わあ、エンパクの中ってこんな非日常的な趣ある内観なんですね。キャンパス内にこんな施設を備えているとは。恐るべし早稲田!

関根:3階建てのエンパクは、1階に映画とドラマの歴史を辿る「京マチ子記念特別展示室」、2階に坪内逍遙の愛用品を展示した「逍遙記念室」とさまざまなテーマに沿った展示を開催する「企画展示室」、そして3階は日本の演劇と世界の演劇の展示があり、順路なく、興味ある順に自由に鑑賞できます。小手さんはどのジャンルに興味がありますか?

写真左:入口正面で来場者を出迎えるシェイクスピアの銅像にあいさつする小手さん
写真右:2階の逍遙記念室。室内は、エリザベス朝時代の意匠を取り入れ、天井には逍遙の干支に因んだ羊の装飾が施されている

小手:全部興味がありますが、やはり3階の演劇でしょうか。世界演劇の歴史をざっと見てから、日本の演劇をじっくり見たいです。へえ、日本の演劇は「古代・中世」「近世・近代Ⅰ」「近代Ⅱ・現代」と歴史ごとに3つの部屋で分けられているんですね。楽しみです。

関根:では、世界演劇のヨーロッパ・アメリカの展示から行きましょう。ここでは、古代ギリシア演劇からスタートし、演劇が各国で独自の発展を遂げていく歴史を見ることができます。第二次世界大戦が終わると、ベケットなどの不条理演劇(1950年代、フランスを中心に生まれた前衛劇)が登場するのが分かります。小手さんはちょうど今、不条理演劇の公演の準備中だとか。

小手:そうなんです。今、ベケットから影響を受け日本の不条理演劇の礎を築いた劇作家・別役実さんの作品(※)の舞台稽古真っ只中です。『ゴトーを待ちながら』の当時のポスターもあるんですね。初めて見ました。家に飾っていたら、只者じゃないと思われそう(笑)。僕、実はあんまり古典や近代演劇に触れてこなかったんですが、大人になるにつれて先人の偉大さが身に染みるようになってきて。だから今、別役作品に触れているのが本当にうれしいし、奇しくもベケットのポスターを目にできて感無量です。

 (※)2024年4〜5月に上演されたシス・カンパニー公演『カラカラ天気と五人の紳士』(作:別役実、演出:加藤拓也)に出演。

ベケット『ゴトーを待ちながら』のポスターの前で

関根:「近代Ⅱ・現代」は大正時代から令和までの資料が展示されています。大まかな歴史の見取り図があるんですが、小手さんの学生時代に流行った劇団なども登場しているのでは?

小手:(年表を見ながら)リアルタイムで観ていた劇団も載ってますね。僕は1998年に旗揚げをしたので、この辺りですね。エンクラの一つ後輩で「ポツドール」という劇団を旗揚げした三浦大輔くんが『愛の渦』で岸田國士戯曲賞を取ったことも載ってる! 三浦くんは、あっという間にギューンっと僕を超えて行っちゃいましたけどね(笑)。おっ、最近の2.5次元演劇のコーナーも。これは、興味ある現役学生が多そうですね。

関根:駆け足でしたが、初めてのエンパク体験はいかがでしたか?

小手:ごめんなさい、正直エンパクをなめていました! あと5時間観賞したいくらい楽しかったです。今度演じる別役さんの不条理演劇も、演劇の長い歴史の前後関係から見ると、また違った感慨深さもありましたし、展示が現代に近付くにつれて自分の知り合いが増えてくるのも何ともいえない感覚で(笑)、僕自身もこの大きな流れの中の1人なんだと改めて感じることができました。近々またゆっくり訪れたいですね。

写真左:ベルばらに変身できる記念撮影スポットで遊ぶ二人
写真右:演劇サークル「てあとろ50’」に在籍した成井豊を中心に1985年に創立された演劇集団「キャラメルボックス」のグッズたち。1980~90年代当時の演劇ブームがうかがえる

スポット2〈大隈講堂裏アトリエ〉 演劇の魔物が住む? 「隈裏」で堺雅人を思い出す

隈裏の入り口付近。奥に劇団木霊のアトリエが見える

次に訪れたのは、早稲田大学大隈講堂の裏側、通称「隈裏(くまうら)」。早稲田大学の公認サークル「舞台美術研究会」「早稲田大学演劇研究会」「劇団木霊」の3つのアトリエがあり、日々演劇の稽古や舞台作業、上演などに使われている場所です。早稲田演劇の歩みとともに長い時間を積み重ね、建物が老朽化した今も、3サークルは隈裏で活動中。舞台美術研究会に所属する飯沼祐美子さん(文学部2年)と劇団木霊の幹事長を務める遠藤大希さん(法学部2年)がディープな演劇スポットを案内します。

舞台美術研究会のアトリエの前で。(左から)飯沼さん、小手さん、遠藤さん

小手:うわー、変わってない! 演劇の魔物が住んでるみたいな雰囲気が当時のまま。僕が所属していたエンクラは隈裏にアトリエを持っていないサークルだったんですが、演劇研究会(通称ゲキケン)に所属していた「早稲田のプリンス」堺雅人さんにイントレ(足場)を借りに来たり、何かとよくここを訪れていました。堺さんとは同い年ですが、僕が2浪してるせいで、2つ先輩で。だから、今でも敬語が抜けないんです(笑)。

遠藤:小手さんや堺さんなど、早稲田演劇の先輩方が舞台や映像作品で活躍されているのは、演劇サークルの学生にとってすごく励みになっています! 今でも早稲田大学の演劇サークルのほとんどがセット製作でお世話になっている舞台美術研究会(通称ぶたび)のアトリエにご案内しましょう。

小手:懐かしい! アトリエの中も当時のままですね。

飯沼:小手さんの時代から変わったことといえば、以前は早稲田の演劇サークルの舞台美術を製作することがほとんどでしたが、最近は受注の幅が広がったことでしょうか。大学の合同新歓公演のモニュメントを作ったりもしています。

小手:ぶたびには本当にお世話になりました。今は許されないだろうけど、作業が立て込んでくると、みんなここで寝泊まりしてましたから。

飯沼:卒業生や先輩たちからそういう熱い話はよく聞きます(笑)。今は22時に撤収厳守ですよ。

小手:いやはや時代も変わりましたね。でも根本にある熱い心はそのままで安心しました。

写真左:劇団木霊のアトリエに組み立てられた小さな舞台
写真右:舞台美術研究会のアトリエ。所狭しと舞台の大道具が並ぶ

スポット3〈早稲田小劇場どらま館〉 古巣の劇場で後輩たちにバッタリ!

さて、演劇ツアーも終盤。最後は小手さんの思い出の場所でもある「早稲田小劇場どらま館」を目指し早大南門通りを歩きます。1966年に鈴木忠志、別役実、小野碩らが結成した「劇団早稲田小劇場」として誕生。その後民間経営を経て、1997年に早稲田大学が買い取り「早稲田大学芸術プラザどらま館」として学生団体への貸し出しをスタート。2015年に現在の「早稲田小劇場どらま館」として再オープンし、現在も演劇サークルを中心にさまざまな公演が行われています。隈裏から引き続き、飯沼さんがナビゲート。

どらま館入口にて。(左から)小手さん、飯沼さん

小手:僕らの時代は、どらま館はとにかく公演の予約がすぐ埋まっちゃうんで、演劇サークル同士で取り合いでした。専用のアトリエがなかったエンクラにとってはホームみたいな場所なんだけど、それなりの芝居をやらなきゃっていう緊張感が生まれる大事な劇場でしたね。当時は各サークルがライバルって感じで、それぞれの新人公演とかを偵察しに行くこともありました。

飯沼:そうなんですね。今はサークルの垣根を超えてユニット公演を行ったりもしていますよ。まさに今日、どらま館では小手さんの後輩である演劇倶楽部(エンクラ)とターリーズというユニットが合同公演をやっています。

小手:ユニット! 変わったなあ。

写真左:偶然にもこの日は古巣エンクラの公演日。観客への対応や舞台設置に大忙しの後輩達の邪魔にならぬよう、オーラを消して(?)入口でそっと見守る優しき大先輩
写真右:大学3年生のころ、エンクラの仲間たちと。前から2列目、右から2人目が小手さん

飯沼:変わったといえば、演劇だけじゃなくて、お笑いサークルのライブや「怪獣同盟」(公認サークル)のヒーローショーなども行われています。演劇ファンでなくても、劇場を体験するいい機会になっているはずです。

写真左:どらま館の内観。右側が舞台で、左が客席(72席)。俳優たちの息遣いまで感じ取れる、舞台と客席の距離の近さが小劇場の魅力
写真右:小手さんに声を掛けてきたのはどらま館の管理人を務める溝口敦士さん(左)。小手さんと同時期に早稲田大学で演劇に夢中になっていた一人。「僕が芝居を続けるべきか悩んでいるとき、小手さんが主宰していた劇団innerchildの旗揚げ公演『ヒトカタマリ』を見て続けることにしたんです。今日ようやくそのお礼が言えました!」(溝口)

演劇ツアーを終えて―演劇を体感するのはかけがえのない経験

これにて演劇ツアーは終了。今日の感想と早大生に向けてメッセージをお願いします。

早稲田大学演劇博物館にて

小手

今回、3つの場所を巡ってみて改めて思ったのは、多くの学生に生の演劇を観てほしいということ。演劇の世界も玉石混合なんだけど、バチッとハマったら運命を変えるくらいのパワーがある。最近は、演劇と映像の俳優もクロスオーバーしてきていますし、2.5次元演劇なんかでアニメと演劇も融合してきて、演劇の敷居が少し低くなっている気もするんです。推しの俳優や好きなアニメの舞台化をキッカケにして、劇場に足を運ぶのもあり。やっぱり目の前で演劇を体感するのは、本当にかけがえのない経験なので、どんなきっかけでもいいから劇場に来てほしいですよね。その取っ掛かりとしても、まずは気楽な気持ちで今回の演劇スポットを訪れて、早稲田演劇を肌で感じてほしいです。

取材・文:末光 京子(1998年理工学部卒)
撮影:布川 航太

【次回フォーカス予告】6月24日(月)公開「セミナーハウス特集」

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