西武新宿線東伏見駅南口を出てロータリーの先に見えるのが、早稲田大学東伏見キャンパス79号館(STEP22)。その脇の緩やかな坂道をほんの1分ほど下ると、緑がまぶしいグラウンドが左右に広がります。一部の体育各部部員が日々の練習に切磋琢磨(せっさたくま)し、「早稲田スポーツの聖地」とも呼ばれる東伏見キャンパス。部に入っている人しか使えない? いえ、体育実技科目は早大生であれば誰でも授業を受けることができるんです。
今回、東伏見キャンパスの歴史についてスポーツ科学学術院の葛西順一教授にインタビュー。また、そこで受けられる3つの体育実技科目について取材しました。早大生なら一度は行ってみたい東伏見キャンパスの魅力をお届けします。
INDEX
▼体育各部が紡いできた歴史を体感する
▼抜群の競技環境でソフトボールの楽しさを共感
▼屋内の弓道場で日本の武道、弓道を学ぶ
▼ジャンプシュートやスピード感が魅力のハンドボール
東伏見キャンパスの歴史をひもとく
約9万平方メートルもの敷地には、早稲田ならではのさまざまな体育施設があり、周囲には学生寮や合宿所も点在しています。体育実技授業も受けられる東伏見キャンパスについて、葛西順一教授にお話を伺いました。
体育各部が紡いできた歴史を体感する
スポーツ科学学術院 教授 葛西 順一(かさい・じゅんいち)

1977年教育学部卒。東海大学大学院体育学研究科体力学専攻修了。スポーツ科学学術院教授。「早稲田を知る」「卓球(プラクティス&ゲーム)」などの授業を担当
――東伏見キャンパスはどのようなキャンパスなのでしょうか?
東伏見キャンパスにはさまざまな体育施設がそろっています。授業でも使用する軟式野球場、サッカー場、馬場、弓道場、テニスコート、スポーツホールアリーナがあり、その他安部磯雄記念野球場、アメリカンフットボール場、ホッケー場、相撲場などがあります。また、75-2号館には体育教室棟もあります。
早稲田大学には44の体育各部があり、そのうち13の部が主に東伏見キャンパスで練習を行っています。そもそも早稲田大学の体育・スポーツ活動の黎明は、前身の東京専門学校で1897(明治30)年に「学生に完全なる健全な身体の発育を得せしむる」目的の下、体育部規則を定めたことにさかのぼります。早稲田大学と改称した1902(明治35)年には、体育部として6つの部(柔道、撃剣、弓術、野球、庭球、短艇)が置かれました。
そこから徐々にさまざまなスポーツが盛んに行われていくようになり現在へ至りますが、各部の練習場所は、今日に至るまでには紆余(うよ)曲折があったようです。
――当時、体育各部の練習場所はどこにあったのでしょうか?
そもそも、練習場や競技場は初めから整えられていたわけではありませんでした。例えば水泳部は1905(明治38)年、「逗子海岸駅前の農家を借り上げ」発足した、と記載があります(※)。

(※)参考文献:『早稲田スポーツ百周年記念誌』(早稲田大学体育局/2000年10月発行)
その翌年には三浦海岸へ、そして昭和の初めまでは海洋水泳の活動が続けられたとあります。昭和に入り東伏見の地にプールを建設し、多くの名選手が育ちました。その後79号館建設のためプールは取り壊され、現在は所沢キャンパスに練習の場を移しています。
また、ア式蹴球部は1930(昭和5)年、東伏見にグラウンドができましたが、それまでは「いろいろなグラウンドを借り歩いていた」とあります。弓道部は創立当初「学苑(えん)周辺の土手を利用して的をかけた」と記載されており、1993(平成5)年に東伏見道場が完成されるまで、年月が確認されたものだけでも8回も移転を繰り返したといいます。
写真左:手前にはBIG BEARSの文字があるアメリカンフットボール場。その向こうには野球部のホームグラウンド、安部磯雄記念野球場が見える
写真右:ア式蹴球部が練習し、授業でも使用している現在のサッカー場
このように、各部とも練習場はどこかの場所を借り、あちこちへと渡り鳥のように移転してきた歴史があります。そこで、都心から交通の便も良いこの東伏見に徐々に各部の練習場をまとめていき、現在のような充実したキャンパスになったようです。現在、これらの施設は体育各部の部員のみならず、一般の学生も体育実技授業(GEC設置科目)で利用できるようになっています。
――体育実技の授業にはどのような魅力がありますか?
体を動かし、汗をかくということが授業として体験できるのが、何よりの魅力です。まず、野球やサッカーといったチームスポーツは、入部や入会するのに手間もお金もかかります。それが授業として体験できるのは貴重なことです。
さらに一流の教員がそろい、直接指導が受けられるのは早稲田大学ならでは。基本的には早稲田大学出身の専門の先生が指導しています。そして、各競技に本格的に取り組んでいる体育各部の学生がTA(ティーチングアシスタント)として授業を補助しているんです。125年ほどの歴史ある体育各部とこれらの施設から歴史を感じ、授業を受けてほしいですね。

体育実技授業でも使用する軟式野球場
――最後に、東伏見キャンパスの魅力について教えてください。
日本や世界の頂点を目指す学生が日々練習に励んでいるこの競技場を利用することができるのは、早稲田の学生の特権です。基礎や理論はもちろん、実技・技術についても本物を間近で見て、感じることができます。 キャンパスの豊かな緑、各グラウンドから響く声…この場所そのものをぜひ体感してほしいと思います。
学生の今、さまざまなスポーツに挑戦してみることで、新たな趣味や興味を発見することができるかもしれません。この経験をもとに、生涯スポーツとしての楽しみ方を見いだせたらいいですね。

東伏見キャンパスでは体育各部の学生の日常も垣間見られる
東伏見キャンパスで受けられる授業を紹介!
東伏見キャンパスの体育実技科目には、「弓道基礎、サッカー基礎・ゲームトレーニング、テニス基礎、馬術基礎・応用、はじめて学ぶハンドボール、軟式野球基礎・ゲーム、ゲームで楽しむソフトボール」などがあります。今回はソフトボール、弓道、ハンドボールの3つの授業をご紹介します。
抜群の競技環境でソフトボールの楽しさを共感
科目名:ゲームで楽しむソフトボール(GEC設置科目)
担当教員:續 公利(つづき・きみとし)
教場:軟式野球場

續先生(左、1981年理工学部卒)とTAでスポーツ科学部 2年の奥山陽向(おくやま・ひなた)さん(右)
――どのような授業ですか?
ソフトボールは野球と同じような競技ですが、実はさまざまなボールの種類(大きさや固さ)やルール(球の速さ、塁間距離、人数)で競技を楽しむことができ、それらを工夫することで、狭い場所でも老若男女問わず楽しくプレーできます。
授業ではキャッチボールなどで体をほぐしてから技量を高める練習をし、実際にゲームをしています。
――この授業ではどのような力が身に付けられますか?
打てなかったボールを打ち返し、取れなかった打球をしっかりキャッチすることができるように指導しています。ソフトボールの特色であるボール、ルールの多様性を生かしたさまざまなゲームを体験し、「経験の有無や年齢差などを超えて、社会での指導者としてバリアフリーなスポーツ企画運営」ができる人材になるきっかけとしてほしいです。
先生も一緒にプレーしながら、要所を指導してもらえる。この授業が行われる時間帯は体育各部の練習が無いことが多く、ボールを捕ったりバットでボールを打ったりする音がグラウンドに響く
――このキャンパスや授業のお勧めポイントを教えてください。
学ぶ環境で見逃してはならない点は“借景的な”空間です。23区に隣接するこの場所で、野鳥のさえずりを耳にし、傍らには遊歩道も完備した石神井川が流れ、馬場もあるこの広大な運動施設は他に誇れるものと感じています。屋外の授業だからこそ、その広大な空間を独り占めできるのです。これだけでも体験する価値があるものと思います。
「12インチファーストピッチソフトボール」(※)をプレーできるのはここだけ。性別も関係なく、初心者も経験者も参加できます。のびのびとした東伏見グラウンドでソフトボールを満喫しましょう。
(※)周囲12インチのボールを使用した、投手が速いボールを投げることが認められているソフトボール。
ヒットが出たり、いいプレーにはみんなで盛り上がる
広々としたグラウンドで思い切り楽しめる! 授業で行うチームプレー
履修学生:
スポーツ科学部 4年 佐藤 由夏(さとう・ゆか)
スポーツ科学部 2年 秦 涼太(はた・りょうた)

秦さん(左)と佐藤さん(右)
――なぜこの授業を履修しましたか?
秦:以前履修したことのある友達に勧められたのがきっかけです。先生やTAがすごくフレンドリーで接しやすく、気楽にプレーできるのが魅力です。
佐藤:WBC(ワールドベースボールクラシック)を見て野球をやりたい! と思い、ソフトボールなら初心者でもできると思ったからです。経験が無くても、男女関係なく一緒に楽しめます。
――今後履修を考えている学生へ向けて、一言お願いします。
秦:座学で疲れた人は息抜きにもなります! 他学部の人とも交流でき、プレーを通じて仲良くなれるのもポイントです。
佐藤:体を動かすことができ、リフレッシュして他の授業にも取り組めます。オンライン授業とうまく組み合わせると履修しやすいです!
屋内の弓道場で日本の武道、弓道を学ぶ
科目名:弓道 基礎(GEC設置科目)
担当教員:石原 源一(いしはら・げんいち)
教場:スポーツホール弓道場

女子弓道部の監督も務める石原先生(1976年政治経済学部卒)
――どのような授業ですか?
弓道基礎という授業は、日本の武道の一つとして伝えられている「弓道」について、その基本技術を習得してもらうことを授業の目的としています。日本の弓は当初「戦場での武器」として使われ、後に鉄砲が主たる武器となってからは「弓道」として武士の精神的な鍛錬の手段として発展してきました。
授業では、弓を引くための基礎を習得し、最終的には現代の弓道競技で行われている28メートルの距離から的を狙い、矢を放つことを目標としています。
――この授業でどのような力が身に付けられますか?
弓道に関する道具、弓道場などについての知識を習得でき、また弓を引くための基礎練習を反復することにより、弓道競技の楽しさ、難しさを感じてもらうことができます。弓道を本格的に習得しようとすれば数年はかかるので、この授業は弓道の入門編と考えてもらえば良いでしょう。
写真左:的から近い距離で、弓を構える練習
写真右:石原先生も直接指導してくださる。矢は弦に直角につがえることを伝えている様子
――この授業のお勧めポイントを教えてください。
授業を行う早稲田大学弓道場は、大学の施設としては珍しい屋内の弓道場で、暑さ寒さに影響されず活動を行うことができます。この授業は、他のスポーツのように着替える必要もなく、汗まみれになることもありませんので、他の授業の合間に受講しても影響することはありません。
矢が的に当たった時の高揚感、爽快感は格別なものがあります。受講生の中には弓道の楽しさに魅了されて弓道部に入部した学生が何人もいます。受講生には楽しく弓を引いてもらい、弓道の面白さを少しでも感じてもらえればと考えています。

的の近くで弓を構える練習を行っている様子。実際には射場から28メートル先の直径36センチメートルの的に向かって、矢を放つ。学期の後半頃にはその距離で矢を放つことができるようになるという
背筋が伸び、姿勢を正す! 授業で学べる弓道
履修学生:
商学部 4年 祝 瑞馨(しゅく・かおる)
基幹理工学部 4年 植松 彩奈(うえまつ・あやな)

祝さん(左)と植松さん(右)
――なぜこの授業を履修しましたか?
祝:いろいろなスポーツをするのが好きで、4年になってようやく時間ができたので履修しました。弓道などの伝統的なスポーツは特に、学外で習おうとすると費用もかなりかかりますが、大学の授業としてしっかりと順序を追って学べるのが魅力です。
植松:以前から弓道を学んでみたいと思っていたからです。基礎からじっくり教えてもらえるのはうれしいです。実際の弓を放てるようになるまでは時間もかかりますが、その分身に付いていると実感しています。
――今後履修を考えている学生へ向けて、一言お願いします

79号館(STEP22)2階のロビーには、オンライン授業にも対応できる半個室型ブースが備えられている。この他にも、オンライン授業に対応できる教室を一部開放している。79号館ではスポーツ科学系の授業も一部行われている
祝:弓道部員の方がTAとしてしっかりとサポートしてくれるので心強いです。また、1学期間続けることで、矢を放つことができるようになるというので、楽しみです。空きコマはSTEP22で課題をこなしたりごはんを食べたりしています。Wi-Fiや電源もあるので便利です。
植松:普段使わない筋肉を使うので、自分でも家で筋トレをするようになりました。弓を構える姿勢を覚えてから、常に背筋を伸ばすように意識しています。東伏見までは生協で販売している計数券(通常運賃より割安な往復乗車券)を使っていて、一限の授業でも高田馬場駅からすいている下り電車を使えるので、東伏見での授業はお勧めです!
撮影:布川 航太
ジャンプシュートやスピード感が魅力のハンドボール
科目名:はじめて学ぶハンドボール(GEC設置科目)
担当教員:岩本 岳(いわもと・がく)
教場:スポーツホールアリーナ

学生時代、東伏見キャンパスにある学生寮に住んでいたという岩本先生(2017年スポーツ科学部卒)
――どのような授業ですか?
ハンドボールは「走・跳・投」の基本的運動能力をバランスよく身に付けるために最適なスポーツです。これまでハンドボールに触れたことのない学生でもハンドボールに親しめるような授業を展開しています。
ウオーミングアップとしてキャッチボールをしたり、サッカーをすることもあります。思い切り動くので、水分補給は欠かせません。
――この授業でどのような力が身に付けられますか?
集団で行うことで得られるコミュニケーション力はもちろんのこと、ハンドボール特有の動きから調整力といったさまざまなスポーツに適応しうる体力や技術を身に付けることを目指します。
――このキャンパスや授業のお勧めポイントを教えてください。
東伏見キャンパスでは、スポーツ施設が充実しているなど、早稲田スポーツを支えるとても温かい雰囲気を感じることができます。
授業中は学生同士で声を掛け合う姿も多く見られ、良い雰囲気の中で進みます。ハンドボールに少しでも興味のある方、集団スポーツで汗を流したい方に最適です。初心者、経験者どちらも楽しむことのできる授業を行っていますので、ぜひ東伏見に足を運んでください。
この日はチームに分かれて短時間でのゲームを行っていた。コートの端から端まで思い切り走り、ゴールを目指す姿は攻守ともに真剣そのもの
思い切り投げたシュートが決まるのが爽快!
履修学生:創造理工学部 4年 花尻 純(はなじり・じゅん)

花尻さん
――なぜこの授業を履修しましたか?
週に1回体を動かしたいと思ったこと、また「はじめて学ぶハンドボール」という授業なので、基礎からいろいろと学べると思い、履修しました。ゲーム中心なので、走ってボールを投げる、というのが単純ですがすごく楽しく、思い切り体を動かしたい人に最適です。
――今後履修を考えている学生へ向けて、一言お願いします。
毎回いろいろな人とチームを組むので、学年や学部、学科の違う人とも仲良くなれます。西早稲田キャンパスからでも乗り換えなしで来られるので近く、週1回なら通いやすいです。初心者でもできるので、ぜひ履修してみてください。
【次回フォーカス予告】6月12日(月)公開「公務員座談会特集」