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特集

消費税はいい税金? あらためて考える消費課税制度のこれまでとこれから

2019年10月1日から消費税率が10%に引き上げられました。社会保障や少子化対策として規定されている消費税ですが、日本では1989年(平成元年)4月1日に3%で初めて導入されて以来、1997年4月に5%、2014年4月に8%と徐々に引き上げられていきました。今回、軽減税率制度の実施により複数税率となったことで複雑化した印象を受けますが、そもそも消費税とは? これからの消費課税制度はどうなっていくのか? などを、早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)の政治経済学部4年・小室ひかる(こむろ・ひかる)さんと法学部2年・植田将暉(うえた・まさき)さんが、法学学術院・渡辺徹也(わたなべ・てつや)教授に聞きました。

左から小室さん、渡辺教授、植田さん

そもそも消費税とは?

渡辺教授

今回の消費増税に関して、メディアで話題になるのは「ポイント還元活用術」といった話ばかり。学生の皆さんにはもっと根本的な部分から考えていただきたい。そもそも、なぜ数ある税金の中で消費税を上げる必要があるのでしょう? 所得税など他の税金を上げることで対応できませんか?

小室

所得税が高くなると勤労意欲が低下してしまうのを恐れているのかと。

渡辺教授

じゃあ、消費税では何も変化は生まれないのですか?

小室

消費意欲が下がる、ということは増税のたびに懸念されています。

渡辺教授

だから、政府は一生懸命、キャッシュレスならポイント還元、といったテコ入れ策を打ち出すわけです。一般的には、人々の行動を変えてしまう税はあまりいい税ではない、という考え方があります。小室さんが言ったように、所得に高い税金をかけると勤労意欲をなくす、というのはその通りです。税金を考える上で大事なことは、誰に税金をかけるか、どうやって税金をかけるか、ということと同時に、本当に税金を取れるのか、ということ。所得税を上げても勤労意欲をそいで税金が取れなくなるなら違う方法を考えよう、となります。では、消費からは逃げられるでしょうか?

植田

逃げられない、ですね。生きる以上は食べ物も買うし、服も買うし。

渡辺教授

ということは、消費税はいい税金、ということになりそうです。

植田

いやぁ、徴収する側から見るといい税金、ということかと。

渡辺教授

そう。課税する側からすると消費税はとても便利なんです。なぜなら、逃げられないから。それに対して、稼ぐのをやめて所得税を払わないことは究極的には可能です。また、日本の場合、所得税には「課税最低限」があるので、その最低限を少し超える部分しか税金を納めていない人が結構多いんです。

小室

消費増税を嫌う人々にとっては、下がり続ける法人税を増税した方がいいのでは? という意見もよく聞きます。

渡辺教授

まず所得税に関する部分からお話しします。所得の階層って、必ずどの国でもピラミッド型になります。そうすると、頂点の人たちに50%とか60%と高い税金をかけたところで、人数が少ないから増加分はたかが知れています。それよりも、圧倒的に人数の多い層の税率を上げる方が税収は上がるんです。ここから消費税の存在理由が少し見えてきますね。みんなに広く薄くかけたほうが税収は上がるし、消費からは逃げられない。それに、富裕層にたくさん税金をかければ、彼らはどうすると思いますか?

植田

簡単な方法だと、国外に逃げる。

渡辺教授

その通り。所得税だけでなく、法人税を上げられない理由の一つはここにあります。法人というのは、自然人である個人よりもさらに簡単に海外に逃げられるんです。先ほど言ったように、逃げられる税制というのはいい税制ではないし、日本から資本や事業が逃げていくことで困るのは日本自身です。そういった観点からも、消費税の必要性があらためて見えてくるのではないでしょうか。

なぜ、軽減税率?

小室

では、軽減税率が必要な理由は何でしょうか?

渡辺教授

消費税を1%上げると2兆数千億円の税収が上がると言われています。ただし、消費を控える動きもあるでしょうから、実際にどれだけ上がるかは未知数な部分もあります。その消費の冷え込みを抑える方策として「軽減税率」が導入されるわけですが…。二つの税率があることは君たち個人にとってはどんな影響があるでしょうか?

植田

生活必需品などが8%のまま、というのは個人の消費者としてはいいなと思います。その反面、支出の確認をする上では面倒くさいなぁ、と。

渡辺教授

そう、そこですよね。複数税率が存在することで一番指摘されている問題は、支払う側も納める事業者側も面倒だ、ということ。その面倒さとは、言い換えれば“コスト”です。よく話題になる「イートインかどうか」もそう。複雑な制度にしてしまったがために、いろんな場面でコストがかかる。消費税を上げても、それ以上にコストがかかるのはいい税制とは言えません。実際、日本のこれまでの単一税率は諸外国から評価されていたし、今回の複数税率導入は多くの税の専門家たちが反対でした。諸外国が苦労してきた歴史があるからです。

植田

単一税率が諸外国から評価されていた、というのは知りませんでした。それだけ、複数税率であることはコストが発生するんですね。

渡辺教授

そしてこの問題は今だけではない。今後、税率がさらに上がったときにどうすべきかで、また“新たなコスト”が発生することも忘れてはいけません。

小室

安倍首相は「消費増税は今後10年必要がない」と発言していますが…。

渡辺教授

実際にそうなるとよいですね。でも、日本の財政状況次第ではどうなるか分からない、というのは十分想定できること。だからこそ、シミュレーションしなければならない。仮に「12%に上げます」となったとき、軽減税率は8%のままなのか、10%に上がるのか、8%も10%も両方あるのか…。さまざまなやり方があるけれど、今よりさらに面倒くさいことは間違いない。なのに、税収はさほど上がらない。果たして、そこまでやっただけの納得感があるのか、ということなんです。

植田

納得できるとは到底思えません。

渡辺教授

君たちにはこの点をちゃんと知っておいてほしい。なぜかというと、君たちの方が私よりも長く生きるはずだから。もしこの先、税制問題で苦労したり、日本がダメになったら、その負の側面を被るのは君たちなんです。だからこそ、今回の消費増税をきっかけに、世の中の動きについても学んでほしいのです。

「モノからサービスへ」の時代における税

小室

これから先の税に関して考えておくべきことは何でしょうか?

渡辺教授

今日はいくつか税の特徴を話していますが、もう一つ挙げると「もうかっている人たちは、どうやったら税金を払わないで済むかを考えがち」ということがあります。そしてこの点は、これからどんどん複雑化していきます。顕著な例が「モノからサービスへ」という時代の変化です。以前は、税関を実際に本やCDといったモノが通るので、そこに消費税をかけられたわけです。でも、今の時代、物理的な動きが見えにくいデジタル・コンテンツであふれていて、これには消費税も法人税もかけにくい。

植田

インターネット上のやり取りは捕捉、把握しきれない…。

渡辺教授

世の中がデジタル化していくと、どんどん税から逃げやすくなります。今年の6月にG20の財務大臣会合が福岡で行われましたが、そこで議論されたのも、今までのルールではもう税を徴収できない。だから新たなルールを作りたい、というテーマでした。欧州諸国の意見としては、ユーザーや市場があるところで税を徴収できるようなルールに変えたい。でも、巨大IT企業を擁するアメリカは、どちらかというと売る立場だから少し意見が違うんです。

小室

確かに、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)って全部アメリカの企業ですね。

渡辺教授

そして、アメリカには国レベルの消費税がない、という点も大きなポイントです。間接税が強いヨーロッパと、直接税が強いアメリカのせめぎ合いがあります。言ってしまえば、税金というのは各国間での取り合いですから。国際間でもいかに自分たちにとって有利な状態に持っていくか、という激しい応酬が繰り返され、それがデジタル時代になってますます複雑化しています。例えば、デジタルサービスタックスに関する議論は、日本ではまだあまり話題になっていません。でも、これから先、間違いなく大きなテーマになる話なのでちゃんと考えておいてほしい。君たち自身がどの立場でありたいのか、ということも含めて。

植田

逃げる側か、追いかける側か、ということですか?

渡辺教授

それもあるし、どう逃すか、という立場もあります。先ほども言ったように、「もうかっている人たちは、どうやったら税金を払わないで済むか」を求めているから、「こうやれば税金安くなりまっせ」とアドバイスをする人たちも山ほどいます。100万円の税金を納めなくするために80万円のアドバイス料を払っても20万浮くわけだから。そういう発想ってあり得ますよね。実際、アメリカのロースクールでは、その80万円を狙うアドバイザーになりたいという人たちが大勢います。

植田

法学部生として考えさせられます。

渡辺教授

これはもうGAFAだけでなく、他の業界でも当たり前の考え方になっていきます。自動車業界だって車が売れない時代を見越して、「サービスとしての移動」を打ち出し始めています。この「モノからサービスへ」の転換は消費税の話では大事な視点です。世界はどんどん狭くなっています。その中でどうやって競争するか、ということを学生の皆さんには考えてほしいですね。

税を通して世の中を見てみよう

小室レポーター

今回、「モノからサービスの時代」という話がとても印象に残りました。だからこそ、税金を考える上で大事な「いかにコストをかけることなく、確実に徴収できるか」という部分ともリンクしてくる、という視点を今日知ることができてよかったです。また、逃げられないからいい税とは限らない、という点も印象に残っていて、消費税に関する理解が深まりました。

植田レポーター

今までは単純に「8%から10%になっても、この先また上がるんじゃないか?」と税率のことばかり考えていました。また、消費税より法人税を上げた方がいいのでは? と思っていましたが、その裏には、徴税にかかるコストや実現可能性の観点がある、という部分が勉強になりました。一法学部生として「これからの時代の消費税論」についてしっかり考えていきたいと思います。

渡辺教授

今日は、大きく二つのものの見方を提示しました。つまり、徴収する側としての国家、徴収される側としての広い意味での納税者、それぞれの立場や考え方の違いをより鮮明にした議論ができたと思います。自分の身を守るためにも税金のことはしっかり知ってほしいですし、税のことが分かってくると世の中の見方もまた大きく変わるはず。ぜひ、もっともっと税に興味を持ってください。

【渡辺 徹也(法学学術院教授)プロフィール】
京都大学法学研究科博士課程修了、京都大学博士(法学)。滋賀大学経済学部助教授、九州大学法学研究院教授等を経て2014年4月より現職。この間 カリフォルニア大学バークレイ校ロースクール、ハーバード・ロースクールにて客員研究員、ミュンヘン大学法学部、シンガポール大学法学部、デューク大学ロースクールにて客員教授、ニューヨーク大学ロースクールにてフェロー(フルブライト・スカラー)として、研究・教育活動に従事。主要著書として『企業取引と租税回避』(中央経済社)、『企業組織再編成と課税』(弘文堂)、『スタンダード法人税法』(弘文堂)等。政府税制調査会「連結納税制度に関する専門家会合」メンバー、司法試験考査委員(2018年度まで)、公認会計士試験委員(2018年度まで)などを歴任。

取材・文:オグマ ナオト(2002年、第二文学部卒)

【次回特集予告】10月14日(月)公開「シアター・オリンピックス特集」

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