Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

早稲田の文士が多数登場 漫画『月に吠えらんねえ』がいざなう詩歌の世界

早稲田大学文化推進学生アドバイザー(※)の法学部3年・加太美穂(かぶと・みほ)さんによる持ち込み企画で、近代詩歌をテーマにした人気漫画『月に吠えらんねえ』の作者・清家雪子さんへのインタビューが実現。今週の早稲田ウィークリーは加太さん執筆によるインタビューを、読書特集としてお届けします。北原白秋、若山牧水、種田山頭火、大手拓次、西条八十、江戸川乱歩などの稲門文士を連想させるキャラクターが多数登場する同作品。「読書の秋」は、漫画キャラクターに感情移入することから詩歌に興味を持ってみるのもいいのでは?

文化推進学生アドバイザー、作者・清家雪子さんへインタビュー

法学部 3年 加太 美穂

2018年10月にリニューアルされた中央図書館2階にて

※ 「早稲田文化」を自分から創造・発信したいという学生を応援するため、早稲田大学文化推進部が設けた制度。学生ならではの目線で、早稲田文化をより充実させるために必要なイベントやグッズを主体的に企画し、実現していくというのが主な活動となっている。

『月に吠えらんねえ』
『月刊アフタヌーン』(講談社)に連載中の近代詩歌俳句漫画。第20回(平成29年度)文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。日本を連想させる架空の世界を舞台に、実在の詩人・俳人・歌人による作品からイメージされたキャラクターが創作に励んでいる。主人公は萩原朔太郎(はぎわら・さくたろう。1886~1942年、慶大出身)の作品から連想された「朔くん」(1巻表紙)で、その師匠的存在として北原白秋(1885~1942年、早大出身)の作品が元となった「白さん」(2巻表紙)が登場する。キャラクターの言葉として近代詩が引用されながら、戦前・戦中・戦後を生きる文人たちの喜び・絶望・狂気・愛憎が、いきいきと描かれている。物語は「□街(しかくがい ※詩歌句街)」の高台で身元不明の死体が発見され、各キャラクターたちが死体の正体を探ることから始まる。

―― 漫画『月に吠えらんねえ』(以下、『月吠』)には多数の早稲田大学と関係のあるキャラクターが登場しますが、早稲田大学と漫画は何か関連があるのでしょうか。

清家雪子さん自画像

キャラクターたちは既に一定の年齢になった状態で登場しているので、学生時代のことは描いていません。大学は物語の中には存在しないのですが、「大学の校友」という意識は各キャラクターが持っているという、少しややこしい設定になっています。

―― 萩原朔太郎と北原白秋の関係について、どのように思われますか。

北原白秋(左、共同通信)とその作品をモチーフとするキャラクター「白さん」

朔太郎と白秋がとても親しかったのは、朔太郎が第一詩集『月に吠える』(1917年)を出版するまでの二年ぐらいで、その後も友人関係は続きますが、会うようなことはそれほどなく、作風も乖離(かいり)していく間柄です。何もかもうまくいかず、詩を書き始めた朔太郎は、先輩の白秋や室生犀星(むろう・さいせい)から影響を受け、貪欲にその技を取り込んでいきます。熱烈に愛し、もたれかかって、自分の詩を磨き上げる糧とし、詩人として独り立ちすると、落ち着いた関係に変わっていきます。落ちこぼれだった朔太郎が天才になっていく過程と、人間関係が密接に絡んでいて、それが書き残された書簡やノート、未発表作品によって克明にたどれるところが面白いですね。

―― 早稲田関連では若山牧水(早大卒、関連キャラクター名「居酒屋BOXY大将」)や、種田山頭火(早大出身、関連キャラクター名「天気屋(東)」)も登場します。この二人についてはどのような魅力を感じますか。

若山牧水(左、『牧水写真帖』より)とその作品をモチーフとするキャラクター「居酒屋BOXY大将」

早稲田大学との絡みで言うと、牧水は学生時代の詳細な日記を残しているので、当時の学生生活の様子がよく分かって興味深いです。上京後、ひたすら出身地・宮崎県の同郷人を訪ね歩いたり、雨が降ったら学校に行けなかったり、坪内逍遙先生の講義を楽しみにしていたり、白秋と仲良くなって芋をかじりながら語り合ったり。ぜひ、日記を読んでみてほしいですね。
山頭火は私にとって、とにかく句を引用したくなる人です。こちらもぜひ日記を読んでください。日々の出来事の流れで記される句が分かりやすく、なんともかわいらしくて、面白くて、大好きなのです。詩歌や近代文学はほとんど読んだことがない…という学生にもお薦めです。

―― 他に作中の好きな早稲田関連のキャラクターがいたら、お答えください。

『月吠』のキャラクターでいうと、なんといっても「拓くん」(大手拓次)です。本当に詩集をもっと早くに出版していれば…という大手拓次の押しの弱さも含めて好きですね。『月吠』には「810」(西条八十)、「ヒナツ」(日夏耿之介)、「ウツボ」(窪田空穂)、「ダコツ」(飯田蛇笏)、「ヒノ」(火野葦平)、「イサム」(吉井勇)、「ランポくん」(江戸川乱歩)、も出てきます。810については、もしも著作権が切れていたらメインキャラクターにしていたと思います。名前も違っていたと思います。

三木露風河井酔茗土岐善麿三富朽葉横光利一も名前だけ登場します。野口雨情は今後、出てくるかもしれないし、石川達三(小説家)は「小説街」のシーンで触れようか迷いました。「現代□街」を描いたら中心人物にしていたであろう鮎川信夫やメインであろう寺山修司もいるのが、早稲田大学のすごいところですね。

―― 早稲田大学や早稲田という土地が近代作家に与えている影響について感じることはありますか。

早稲田大学の前身「東京専門学校」全景。1890(明治23)年頃

早稲田大学出身の近代詩歌人は、自由で伸びやかな作風の方が多い印象があります。もちろん全てではありませんが。当時は大学周辺が田園でしたし、地方出身者が多かったようなのでそれも影響しているのかもしれませんね。

―― 作中に登場するキャラクターではありませんが、早稲田キャンパスにその名を冠した博物館を有する坪内逍遙と會津八一についての印象を聞かせてください。

角帽をかぶる早大生の若山牧水(『牧水写真帖』より)

逍遙先生は講義が面白いと大人気で、先に触れた牧水の日記でも楽しさが存分に伝わってきます。それも納得できる、素晴らしい朗読音源が残っています。これは、ぜひ聴いてみてほしいです! 會津八一は漫画に出てきてもおかしくない人ですし、番外編などでは出るかもしれません。なぜか街のはずれに住んでいて、つぼをなでている修行僧のような風貌、といったイメージですかね。

―― 2018年は日本の童謡誕生100周年(※)です。今なお愛され続ける北原白秋の作品と童謡の魅力についてどのようにお考えでしょうか。

白秋らの童謡は、大人が子供に「こう育て」と押し付ける教訓的な小学唱歌への反発から生まれたものです。子供たちの自主性、ありのままの美しさをおおらかに歌い上げようという高い理想を持って誕生しました。「チョッキン、チョッキン、チョッキンナ」「ピッチ、ピッチ、チャップ、チャップ、ランランラン」という現代の子供にも普遍の突出した愛唱性は本当に素晴らしいと思っています。

ただ、その高い意識を持ち、芸術への締め付けを嫌った人が、率先して子供のための戦意高揚詩歌を量産したことも記憶に残してほしい、という思いもあります。白秋に関しては今も愛される童謡のおじさん、というなんとなく神聖な白秋像に縛り付けられている感があり、それが逆に白秋の巨大さ、現代につながる検証すべき性質を隠しているのではないかと思っています。糾弾したいわけではなく、「白秋ってもっと凄(すさ)まじい怪物で、もっと面白いのに、もったいない!」という思いがありますね。

※)一般社団法人日本童謡協会は、童話や童謡を創作するための文芸雑誌『赤い鳥』(写真:早稲田大学図書館所蔵)が発刊された1918年7月1日を、「童謡誕生100年」の起点としている。

―― 大学生にお薦めの詩はありますか。

詩歌を読み慣れていない方が楽しめると思うのは萩原朔太郎とも交流のあった萩原恭次郎の詩です。短歌であれば、共感のしやすさで石川啄木だと思います。俳句でいえば、種田山頭火ですね。文語体を読み慣れていなくても、すんなり読めて直感的な面白さがあります。

―― 作品を楽しむための秘訣(ひけつ)を教えてください。

読める機会が限られるかもしれませんが、当時の詩の雑誌を読んでみてほしいです。例えば萩原朔太郎が初期の詩を北原白秋の雑誌(※)に投稿していたころは、室生犀星や山村暮鳥(やまむら・ぼちょう)などの詩も一緒に載っているのですが、相互の影響の受け方がとてもよく分かります。その時々の流行、作家同士のつながりが一目瞭然で、作品が読みやすくなります。「詩を読もう」と意気込むと、どうしても特定の作家を選集などで一気に読んで、次に別の作家へ、となってしまいます。しかし、時代を追っていく読み方をした方が格段に分かりやすい。それが一番よく伝わってくるのが雑誌です。過去の雑誌はもっと容易に読めるようになってほしいと思いますね。

※ 『朱欒(ざんぼあ)』(1911年創刊)、『地上巡禮』(1914年創刊)、『ARS』(1915年創刊)など。写真は早稲田大学図書館所蔵図書。

―― 「読書の秋」です。大学生に向けて一言いただけますか。

私は普段は全く本を読まないのですが、大学時代だけ図書館にはまって、棚に並ぶ本を読める限り読もうと乱読していました。日本文学も全部読もうと時代順に読んでいって特に気に入ったのが近代詩歌でした。初めて読んだのが『萩原朔太郎全集』。作品と同時にノートや書簡や未発表原稿類も読んだことが、作品のイメージに作家本人のエピソードを重ねるという、ややこしいキャラクター造形に影響しています。

当時は『月吠』のような物語は全く考えておらず、また大学卒業後は全く本を読まない生活だったのに、卒業後、長い時を経て漫画作品となったのは、自分でも不思議です。学生時代は知識を得る喜びに浸りきった数年間で、そのおかげでこんな物語が浮かんだわけで。本当に学生の皆さん、図書館と学生の身分はいいものですよ、卒業してありがたみが分かりますよ、と申し上げたいですね。

大文豪だって私たちと同じ 悩んで迷って、まい進した若者たちの物語

早稲田大学の図書館には多数の詩集が配架されている(漫画は加太さんの所有物)

『月に吠えらんねえ』は単なる有名詩人の作品紹介にとどまらず、現代詩の進化の中で詩人たちは何を考え、何に苦しみながら作品を生み出していったかを知ることができます。

今までの私は、詩とは言葉の響きやリズムを楽しむ韻文であると解釈していました。本作では、詩の情景を漫画で表現することで、言葉が持つ喜びや美しさを直感的に読者が感じられるように表現しています。言葉はさまざまな感情を持ち、人の心を揺り動かし感動させるものなのだと実感することができました。一方で「戦争詩」を主要なテーマに置き「詩」が悲しく重苦しい感情を表現できる側面も捉えていることで、本作はより深みのあるものとなっています。

『月に吠えらんねえ』は詩の素晴らしさと戦争の罪を軸にして、絡まり合った謎を明らかにしていくミステリー構成です。物語が進むにつれて、その謎が解けたときの爽快感も本作の醍醐味(だいごみ)の一つです。主人公「朔くん」は大文豪ではなく、私たち大学生と同じように悩んだり迷ったりしながら詩作にまい進している1人の若者です。また、彼の仲間の詩人たちには白さん(北原白秋)をはじめ早稲田に所縁(しょえん)のある詩人も多いです。童謡誕生100年という節目の年に、詩と早稲田のつながりを感じながら、本作を読んでみませんか。

インタビュー・文:加太 美穂

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