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医学部のない“早稲田卒”の強みとは? 座談会「稲門医師会」が目指すもの〈後編〉

2016年1月31日、医学部を持たない早稲田大学で発足した、医師・歯科医師・薬剤師・看護師などの医療職の校友(卒業生)による「稲門医師会」。発足当初、約130名だった会員は、すでに200名を超えるなど、そのネットワークは急速に広まっています。会員同士の相互交流だけでなく、大学との健康・研究教育面での連携、社会への情報発信、地域稲門会・校友との連携などが期待されています。稲門医師会と早稲田大学は何を目指そうとしているのか。稲門医師会の会員だけでなく、早稲田大学で医理工連携の研究に関わる博士課程学生(2016年3月修了)にも座談会に参加いただき、それぞれが医療の道を志した経緯から同会の将来的な抱負まで、多岐にわたって話していただきました。(前編はこちら)

今年1月、「稲門医師会」設立総会が早稲田キャンパスで行われた

「早稲田大学卒」だからこそのネットワーク

福田 敬子(ふくだ ・けいこ)医師。公益財団法人 東京都予防医学協会。早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了(2005年)、山口大学医学部卒業(2009年)。稲門医師会会員

中山:医学部に入り直し、その後、国家試験を受けて免許を取得され、さらに2年間に及ぶ臨床研修を経て、ようやく医師として社会に出られるわけですから、キャリア形成に人一倍、時間も学費もかけられたことと思います。そのあたりのご苦労、ご経験について当時考えておられたこと、現在振り返って思われることについて、お話しいただけますか。

福田:私は医学部には3年次に学士編入学しましたので、午前は2年生の講義、午後は3年生の講義といった忙しいスケジュールでした。医学部の4年間はずっと試験に追われていたイメージしかありません。その後の2年間の臨床研修は外科や小児科、産婦人科や救命救急など、ほぼ全ての診療科を研修するプログラムでしたので、すでに30代だった私には肉体的にもとてもつらかったです。ストレートに医学部に進学していたら、こんなにも苦労しなくてよかったのにと思うことは多々ありましたが、一方で、早稲田で得られた経験や、今も各界の第一線で活躍している同級生たちとのネットワークが、これほど今日の診療に役立つとは思ってもみませんでした。

中山:私のころは編入学が難しかったので、1年生から入り直して丸々6年間、医学部に通いました。卒業したときは30歳でした。医学部時代は再び学べることに喜びを感じて新鮮な毎日でしたね。苦手だった物理や化学にも興味が持てるようになってきました。ただ、2度目の大学生ということで、さすがに家族には迷惑は掛けられない。経済的に自立できるようアルバイトに明け暮れていましたが、そうした経験も医師になってから全て生きています。私は臨床医ですので人と接して人の痛みを感じ取って、患者さんに分かりやすいようにアドバイスをすることが一番の使命だと思っています。そのためには、いろんな人の思いを分かっていることが前提になる。だから、私の経験したことは決して回り道ではなく、必然的なものだと思っています。早大生、社会人と合わせての6年間はハンディだとは思っていません。

医理工連携、乳がん診療・治療支援ロボットの開発

筑根さんが開発に関わった乳がん診療治療支援ロボット

中山:ところで、築根さんはご親族にお医者さんがいるそうですね。研究を通して医師と接する機会はありますか? また医師と接していて苦労されている点はありますか?

築根:異分野でコミュニケーションを取ろうとしたとき、臨床医と研究医と工学研究者では目的が少しずつ違っていて、なかなか話が合いません。医師がロボットを作る側のことを理解しながら双方の意見をすり合わせていくのは大変なことだと感じています。

中山:早稲田大学には医学部がありませんが、医療に役立てるための技術開発が積極的に行われています。築根さんは創造理工学部総合機械工学科の藤江正克先生の研究室で、乳がん診療・治療支援ロボットの開発に取り組まれています。この研究の内容について説明していただけますか。

築根まり子(つくね・まりこ)。早稲田大学創造理工学部総合機械工学科卒業(2011年)、大学院創造理工学研究科 総合機械工学専攻 博士課程修了(2016年3月)、早稲田大学重点領域研究機構アクティヴ・エイジング研究所 研究助手(2016年3月まで)

築根:がんに針を刺して、熱でがんを焼き殺すという治療があり、早期乳がんの治療として臨床研究が行われています。その治療が将来的に普及することを目指し、穿刺治療を支援するロボットの開発をしています。乳房はかなり柔らかくてがん細胞が移動しやすいので、針ががんにうまく刺さらない、という問題があります。それを真ん中に的中させることで治療の成果を挙げるというコンセプトのロボットになっています。なるべく小さくて使い勝手が良いことを目指していて、超音波プローブ(探触子)でがんの位置を探し出したら、そこに超音波プローブと一体化しているロボットを固定して針を刺すという仕組みになっています。針を刺す前にがんを体表から圧迫する機構を搭載しており、圧迫することによってがんを固定して、がんが移動しにくい状態になってから針を刺します。また、体表から圧迫することでがんの硬さを検出できるデータが取れることから、治療前に硬さからがんの種類を診断する触診機能も開発しています。私の博士課程の研究では主に触診機能の開発に取り組んでいます。 

中山:治療支援ロボットのアイデアは医師から寄せられるものなのですか?

築根:両方ありますね。私たちの研究室では基本的に学生が教授とディスカッションをして、内容を医師に提案してみて、実際に「いいね」と言っていただけたら進めていくことになるのですが、反対に医師から「こういうことはできないか」と相談を受けて一緒に考えることもあります。

臨床研究でも連携が可能に

中山 久徳(なかやま・ ひさのり)医師。「そしがや大蔵クリニック」開業。早稲田大学商学部卒業(1988年)、 山形大学医学部卒業(1996年)、稲門医師会幹事長(2016年~)

中山:それでは皆さんから医師として今後の抱負と「稲門医師会」への期待を述べていただけますでしょうか。また築根さんは医療技術の研究者として、稲門医師会に期待されることをお話しいただけますか?

福田:私は多くの方々に支えられ、医師になることができました。今後も周りの方々への感謝の心を忘れず、医師としてさまざまな領域で社会貢献できるよう、日々精進して参りたいと思います。今後は多様なバックグラウンドがある早稲田大学出身の医療従事者が増え、稲門医師会がますます広がり、情報交換や活発な意見交換ができることを期待しています。

中山:私が卒業したころ、早稲田大学には人間科学部やスポーツ科学部がなかった。最近では岡浩一朗教授(スポーツ科学学術院)が中心となって、主に校友を対象に長期間にわたってライフスタイルに関わる調査を行い、そのデータを健康作りの研究に生かそうという「WASEDA’S Health Study」も行われています。先日は早稲田大学と東京女子医科大学の連携研究施設であるTWIns(先端生命医科学センター)を見学させていただき、最先端の研究の現場を目の当たりにして興奮しました。現在は健康科学や生命科学などの分野で早稲田も医療界に進出し、貢献していることは間違いありません。このたび稲門医師会が組織されたことによって、臨床に携わるわれわれがお手伝いできることも少なくないと思います。今後は学内のさまざまな研究部門とのコミュニケーションを密に取って、いろいろな活動をしながら、どんどん稲門医師会の認知度も高めていき、大学にも貢献していきたい。そしてわれわれも刺激を受けて、日々の診療に役立てていきたいですね。

羽鳥 裕(はとり ・ゆたか)医師。「はとりクリニック」開業。早稲田大学理工学部建築学科卒業(1974年)、横浜市立大学医学部卒業(1988年)。日本医師会常任理事(2014年~)、稲門医師会会長(2016年~)

羽鳥:先日たまたま早稲田大学の所沢キャンパスを訪れる機会があり、「WASEDA’S Health Study」で40~50代の卒業生たちの健康測定に立ち会ってきました。稲門医師会は200人以上の会員がいるのだから、これからは年に1回くらいはそういう事業に参加してお手伝いができればいいなと思っています。あと最近、私は早稲田大学卒の患者さんから声を掛けられる機会が増えています。早稲田出身者の方々と密に連絡を取って地域で医師として何か提供できることがあればいいなと考えています。それからもう一つは早稲田らしい研究です。「WASEDA’S Health Study」はもちろん、それぞれ皆さんが持っている技術を生かしていけたらいいと思います。

築根:早稲田が他大学の医学部などの先生方と共同研究を積極的に行っていることは強みだと思っています。しかし、やはりその場ですぐにミーティングしたいときや、頻繁に連絡したいとき、臨床の現場を見せてほしいときなどは、場所が離れていることがネックになります。早稲田のネットワークでそういう部分がもっとつながっていけば、より研究も進み、基礎研究から次に進んでいく段階で良いものができ、臨床で役に立つと思います。

転身はいつでも可能。まず、早稲田で学べることを

(右から)羽鳥裕さん、中山久徳さん、福田敬子さん、築根まり子さん

中山:それでは最後におひとかたずつ、早大生へのメッセージをお願いします。

羽鳥:まず校友に対しては、こうして早稲田出身の医師が存在するので、私たちをいろいろな場で利用してもらいたい。受診だけでなく、会合などに引っ張り出してもらってお話をさせていただければありがたいです。また現役学生には、まずは早稲田で与えられたミッションをしっかり果たして欲しいですね。ちゃんと卒業してほしい(笑)。もし私たちのように他の大学に行って医学部に入りたい人がいたとしても、早稲田でしか学べないことをしっかり学んでほしいです。

福田:誰に何と思われようと、誰にも負けない強い思いがあれば、いつからだってどこからだって何にでもなれると思います。私は医学部受験を決意したとき、中学1年生の理科や数学の教科書を買いに行くところからスタートしました。言い訳に逃げたり、自分を信じられず諦めたりしたらそこで成長は終わりです。何かに向かってがむしゃらに頑張る時期が一生に一度くらいあってもいいと思います。泥臭いと言われる早稲田の学生なら、きっとどんな困難も乗り越えられる根性があるはずです。応援しております。

築根:自分が生涯かけてやりたいこと、技術者になるにあたって、医理工連携のような領域を横断しているようなところをやりたいと思い、私は博士課程まで進学しました。学生の間には、勉強しなければならないこと、経験しなければならないこと、学生のうちだからできること、早稲田だから経験できることなどたくさんあります。自分のキャリア形成に必要だと思うことはどんどんやればいいと思います。

中山:振り返れば、早稲田には漠然とした憧れで入学しました。当時の私のような、将来何になったらいいか分からない人たちにとって早稲田はまさに素晴らしい大学です。多様な学生はいるし、多方面で活躍している先輩方もいらっしゃるし、自分がしたいことをバックアップしてくれる大学の体制も整っている。理想的な環境なのだから、そこに4年間身を置いて、将来の職業に結びつきそうなものを探せばよいと思います。もし見つからなければ、何かしらの仕事に就いてから探すのでもよいでしょう。やっとやりたい仕事を探し当てたときに、状況が許せばそこから転身してもう一度、突き進んでいけばよいのです。それまでの回り道は決して無駄なことではないのですから。

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