未成年者の飲酒が法律によって禁止されていることは言うまでもありませんが、間違った飲酒常識があなたの健康を害することも肝に銘じておく必要があります。そこで、世間でまことしやかにささやかれている飲酒に関する情報の真偽を明らかにするため、肝臓病研究をリードする合田亘人理工学術院教授にお話を伺いました。合田教授には、それぞれ「ウソ」「ホント」「どちらともいえない」で回答していただきました。
理工学術院教授
合田 亘人(ごうだ のぶひと)
プロフィール
1997年慶應義塾大学大学院医学研究科修了後、アメリカ留学を契機に基礎医学研究者を目指す。2001年同大学医学部(医化学)助手、2005年助教授を経て、2007年より現職に就く。専門は低酸素生物学と肝臓病学。
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お酒は訓練すれば強くなるってホント?
→△どちらともいえない

▲【図1 アルコール代謝における体内経路】アセトアルデヒドの毒性が、顔面紅潮、吐き気といった「悪酔い」の諸症状を誘発します(石井裕正『酒学のすすめ』を基に作成)
体内に摂取されたアルコールは、肝臓で「アルコール脱水素酵素(ADH)」によってまず毒性の高いアセトアルデヒドに酸化されます。その後、アセトアルデヒドは「アルデヒド脱水素酵素(ALDH)」によって無毒な酢酸に分解されます。お酒が飲めない、またはとても弱いという人は、遺伝的にALDH の酵素活性が低い人のことを指します。全く飲めない人はどんなに訓練してもお酒に強くなることはありませんが、弱くても少しだけ飲める人は、飲めば飲むほどこの酵素の活性が高くなるため、その意味では回数を重ねることで次第に強くなる、と言えなくもありません。ちなみに、「酒どころの人はお酒が強い」という説は、お酒に触れる機会の多い環境が何百年と続く歴史の中で、酵素活性の高い人が選別されてきた、と考えることができます。
注意すべきなのは「お酒に強くなった=健康状態を保てる」ではないということ。本来、再生能力の高い肝臓ですが、「沈黙の臓器」と呼ばれるように蓄積されたダメージに気付かず、さらに飲酒を重ねてしまう恐れがあります。
生理中は酔いやすいってホント?
→○ホント!

▲【図2 日本人の飲酒の性・年齢構造の変化】以前は、若い女性が飲酒している姿はほとんど見られず、男女とも中年が最も飲酒していたことを示しています(「成人の飲酒実態調査2003年」(厚生労働省)を加工して作成)
まず男女のアルコール分解能力の違いを説明します。肝臓の大きさは、体のサイズによって決まっています。つまり、一般的に女性の方が男性よりも肝臓が小さく、アルコール分解能力が低くなります。さらに生理中は経血によって体内の血液量が減少します。このため、同じ度数・量のお酒を飲んでも、生理中の方が血中アルコール濃度が高くなり、酔いやすくなるのです。
また、女性ホルモンの一種であり、肝保護作用のあるエストロゲンの影響も考えられます。生理中はこのエストロゲンの分泌量が減るため、飲酒による肝障害の可能性が高くなっても不思議ではありません。この他にも、エストロゲンはADH活性を高くするとされており、特に若い女性はアセトアルデヒドが蓄積されやすく、男性よりも肝硬変を発症しやすいという指摘もあります。
しかし近年、若い女性の飲酒率の増加が目立ちます。健康志向からワインを楽しむ人も多いようですが、アルコール度数の高いワインなどのお酒(図4)は、少量でも悪酔いしますので要注意です。
尿を出すとアルコールが抜けるってホント?
→×ウソ!
アルコールには利尿作用があるため、飲酒をするとトイレが近くなる、という人は多いと思います。ただ、体内で処理されないまま、尿となって排出されるアルコールはごくわずか(図1)むしろ尿を出せば出すほど体内の水分量が少なくなり、循環血液中のアルコール濃度が高くなるため、酔いが強くなるとも考えられます。アルコールを抜くには、肝臓でのアルコール分解を待つしかありません。その時間は、個体差や飲酒状況によって違いますが、一般男性の場合で、ビール350ml缶1本に含まれるアルコールが完全に抜けるまでに、約2 ~3時間かかるとされています。
お酒の種類で酔い方が違うってホント?
→×ウソ!

▲【図3 血中アルコール濃度の変化】飲み始めから30分後に血中アルコール濃度はピークを迎えることが分かります(出典:「Alcohol Alert」National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism)
お酒の席では、日本酒は酔いやすい、「ちゃんぽん」して飲むと悪酔いする、などと吹聴している人を見掛けます。でも実際には、酔いの程度を決めるのはお酒の種類ではなく「摂取したアルコールの総量」です。従って、ちゃんぽんするから悪酔いするのではなく、アルコール度数の低いビールからアルコール度数の高いお酒に切り替えたとき、その後もついビールと同じ感覚で量を飲んでしまったことが悪酔いの一番の原因です。
摂取量の目安になるのが、ビール中瓶(500ml)1本の純アルコール量=20g。個人差はあるにせよ、この20gが一般的な日本人男性が1日に摂取してもいいとされる上限で、女性の場合は男性の2/3程度とされています。
牛乳を飲んでおくと酔わないってホント?
→△どちらともいえない
胃に牛乳の膜ができるといううわさがあるようですが全くの迷信です。ただ、牛乳を飲むことで、酔いづらくなります。牛乳に限らず、飲酒の前に胃の中に何か入れておくと、胃におけるお酒の滞留時間が長くなり、結果的にアルコールの吸収に時間がかかるからです。同じ原理で、飲酒中もおつまみを適度に食べるといいでしょう。
本来避けるべきですが、万一飲み過ぎて嘔吐(おうと)した場合、気分的にスッキリしてまた飲める気がしてもそれは錯覚です。すでに摂取したアルコールは体内に吸収されていますし、空の胃にお酒を入れることで血中アルコール濃度は一気に上がり、悪酔いしやすくなります。
お酒を飲むと太るってホント?
→×ウソ!

▲【図4 酒別のアルコール度数の違いとアルコール量】医療生協さいたま『けんこうと平和』を基に作成
アルコールそのもののカロリーで太ることはまずありません。ただ、最近はひと昔前に比べて高カロリー・高脂質の食事とお酒を一緒に楽しむことが多く、そんなおいしい掛け算が、肥満、糖尿病や脂肪肝といった病気、いわゆる“メタボ”を助長することになります。
なお、誤解がないように付け加えておくと、前述のとおりメタボと関係する脂肪肝は飲酒歴がなくてもかかり得ます。実際、そういったケースが近年数多く報告されており、このような患者さんが常習的に多量に飲酒している場合には、近い将来、肝硬変や肝がんに進行する危険性がさらに高まります。若いからといって油断は禁物です。
アルコールパッチテストを学内で実施します!
会場:大隈ガーデンハウス(早稲田キャンパス25号館)1階リフレッシュスタジオ
受付日時(参加無料・予約不要)
4月20日(月)11:45~16:00
4月21日(火)11:30~16:00

▲【図5 年代別の急性アルコール中毒による救急搬送人員】「他人事ではない『急性アルコール中毒』」(東京消防庁)を加工して作成
4月22日(水)11:30~16:30
・簡単な検査でアルコールに対する自分の体質を確認できます。
・同一日程・会場でヤニ検査、体組織測定も受けられます。
問い合わせ 学生早健委員会[email protected]
20代の急性アルコール中毒患者数が増えています!
年間の急性アルコール中毒患者数のうち、約半数以上を20代が占めています。自分自身の適量が分からず飲み過ぎてしまったり、仲間内で無謀な飲酒をしてしまったりすることが原因です。取り返しのつかない事態になる前に、飲酒に関する正しい知識を身に付けましょう