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コラム

【数字から考える未来】テロによる死者数

困っている人にどんな形で救いの手を差し伸べられるか考えるべき時が来ていると思います。

国連テロ対策委員事務局上級法務官 高須 司江(たかす・すえ)

早稲田大学法学部卒業後、1995年検察官検事に任官後、2005年に法務省から国連テロ対策委員会事務局へ出向。2010年3月31日付で検事を辞職し現職に。各国を訪問して各省庁との会合、視察などを担当している。

アメリカ国務省が2015年6月に発表したテロ年次報告書によると、2014年のテロによる死者数は前年から8割も増え、3万2,727人だったという(2013年は1万8,066人)。テロが起こった国は95カ国。過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロでの死者は6,286人だった。

32,727

テロが勢いを増しています。テロの原因は、民族間紛争、宗教対立などの社会的要因と個人的要因が複雑に絡み合っています。その中でも私は、“貧困と政治腐敗”が大きな根本原因になっているのだろうと考えています。

広がりすぎた貧困の格差や差別などの社会的不正義を是正しようとしても、政治腐敗が蔓延(はびこ)る社会では改善の手段が見いだせないため、人々は絶望に陥っていきます。日本で暮らしているとなかなか想像もつきにくいと思いますが、世界の国の中には、選挙自体がない国も多いですし、選挙があっても政治腐敗によって得票数を操作することは難しくありません。そして、不正は政治家のみならず、裁判官や警察官といった司法、治安機構にも巣くっており、国によっては、刑事判決もお金次第で無罪になり得ます。こういった社会で暮らしていると、その絶望感、悲愴(ひそう)感から、テロという暴力に訴えて歪(ゆが)んだユートピアを実現しようという行動に走るメカニズムも、あながち理解できないことではないと思われます。
幸いなことに、日本社会は大きな経済格差や貧困、政治腐敗、宗教対立、民族紛争などテロの原因になる要素を含んでいません。国内におけるテロ発生の可能性は高くないでしょう。そのため(地下鉄サリン事件、ISによる日本人殺害事件などは起こりましたが)日本人には今でもテロは国外で起こることであり、他人事のように映るのではないでしょうか。しかし、2020年に控えた東京でのオリンピックは、テロリストの目からすると、好機であり、私たちも備える必要があります。

日本の外に目を向けると多くの国やそこに暮らす人々がテロの被害に遭い苦悩しています。日本も国際社会においてどのように貢献できるか、日本人としてどんな形で困っている人に救いの手を差し伸べられるか、考えるべきときが来ていると思います。過去、オウム真理教にのめり込み、過激化してサリン事件というテロ事件を起こした人たちを、どうやってその呪縛から解くことができたのか、日本は、その教訓を生かすことができるのではないでしょうか。また、難民政策を考え直すいい機会でもあると思われます。難民を苦境から救えるフレキシブルな制度を導入する方法はないか、政府、企業、学生、一般の人が公開の場で議論を重ね、できることを考えてみてもいいと私は思います。

これまで日本の国際貢献は金銭面が中心でした。しかし世界情勢が大きく変わった今、経済支援以外で何ができるかを大学時代から真剣に話し合い考えてみてほしいですね。そして少しずつ新しい国の形が作られていくことを願っています。

(『新鐘』No.82掲載記事より)

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