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コラム

【早稲田演劇の今】早稲田小劇場どらま館レビューVol. 4 MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン『セミリーディング クレオパトラ』

2015年4月30日、早稲田キャンパス近くの南門通り商店街にグランドオープンした「早稲田小劇場どらま館」。すでに多くの団体がその舞台を彩ってきました。演劇研究・批評を専門とする演劇博物館助手による公演のレビューで、早稲田演劇の今をお伝えします。

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MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン 『セミリーディング クレオパトラ』

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演劇博物館特別展「沙翁復興」チラシ

シェイクスピア没後400年にあたる2016年、早稲田大学では「フェス早稲田シェイクスピア」と銘打って様々なシェイクスピア関連イベントが開催される。演劇博物館で10月14日(金)から開催される日本のシェイクスピア受容に関する展示「沙翁復興——逍遙からNINAGAWAまで」を皮切りに、2017年1月にかけて学術シンポジウムや講演会、プロの劇団や学生による演劇公演など多彩なイベントが続く。これに先駆けて8月末、早稲田小劇場どらま館ではMSPインディーズ・シェイクスピアキャラバンが『セミリーディング クレオパトラ』を上演した。

MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン(正式名称:明治大学シェイクスピアプロジェクト出身者によるシェイクスピアともっともっと遊びたいキャラバン隊)は、今年13年目を迎える明治大学シェイクスピアプロジェクトの出身者によるシェイクスピア作品を上演するためのユニット。第1回公演となる今回は、シェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』を島村抱月が改作した『クレオパトラ』をセミリーディング形式で上演した。

DSC_4383MSP1MB抱月が「舞台をエジプト一方に限り、事件をクレオパトラのがはから見て統一した」というこの脚色版では、権力争いや戦争といった要素は後景へと退く一方、原作にはなかった家臣同士の恋のエピソードが追加され、悲劇的結末こそ迎えるものの、全体としては周囲を振り回すクレオパトラを中心とした恋愛喜劇といった印象になっている。

DSC_4188MSP1MBこの『クレオパトラ』、抱月が不倫相手である松井須磨子のために上演したという曰(いわ)く付きの作品である。そもそも原作の『アントニーとクレオパトラ』自体が不倫の話であるわけで、不倫が原因で文芸協会と付属の演劇研究所を追われた二人が、そのほとぼりも冷めぬうちから新たな劇団で上演したのが『クレオパトラ』だというのはなかなかに人を食った話だ(なお、この『クレオパトラ』の当日パンフレットが演劇博物館「沙翁復興——逍遙からNINAGAWAまで」で展示される予定だ)。鼻筋に蝋を注入する「隆鼻術」を受けていたことから「日本初の整形女優」とも呼ばれる須磨子がクレオパトラを演じていたのも興味深い。

MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバンは、原作に忠実な「大正浪漫編」と現代に引き寄せた「平成妄想編」の2つの演出でこの作品に挑んだ。

「大正浪漫編」は、島村抱月脚色による戯曲をシェイクスピア研究者である井上優が潤色。冗長な部分を削り、現代でも通じるよう言葉遣いを整えたことで抱月版が持つ面白さが十分に堪能できる上演台本となっていた。

DSC_4047MSP1MB舞台美術は障子戸とガラス戸、そして木製の長椅子のみ。着物に袴(はかま)、あるいは学ランやメイド服といった衣装と合わせて和洋折衷の趣を醸し出す。『クレオパトラ』の舞台設定が大正時代の日本に置かれているわけではないが、コスプレ感もある「大正テイスト」は『クレオパトラ』が大正時代の日本におけるシェイクスピア作品の翻案=2次創作であることを端的に示していた。

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演出面ではト書き(戯曲や脚本で俳優が声に出すせりふ以外の部分)の扱いが秀逸だった。『クレオパトラ』のラストでは次々と人が死んでいく。クレオパトラの侍女アイアラス、アントニーの部下でアイアラスと恋仲のイアロス、アントニー、侍女のライナとチャーミアン、そしてクレオパトラ——。先に逝った者が(全員ではないが)舞台上に残り、ト書きを読み上げる様は遺された世界を見守る死者のようにも見える。セミリーディングならではの演出と言えるだろう。そして最後に語りを引き継ぐのは惨状の場に現れたシーザーだ。原作にはないこの場面が意味するのは、生き残った者だけが歴史を語り継ぐことができるという事実だろう。思えば、作品冒頭でト書きを読み上げていたのもシーザー(役の俳優)だった。

IMG_2034一方、「平成妄想編」は抱月の『クレオパトラ』を演出の川名幸宏が再脚色したものだ。舞台は芝居の稽古場。俳優たちはジャージやスウェットなどの稽古着を着たままで役を演じる。アントニーとクレオパトラが互いを「アンにゃん」「クレにゃん」と呼び合い文字通りにゃんにゃんするなど、砕けた若者言葉を使った台詞(せりふ)回しは歴史上の偉人たちから威厳を剥ぎ取り、原作の持つ馬鹿馬鹿しさ、地位も名誉も手にした者が恋ゆえに盲目となり周囲を振り回す滑稽さを際立たせていた(終始この調子なので少々しつこくも思えたが…)。また、俳優がその手に持った台本を投げ捨てることで演じる役の死を示す演出は視覚的にも劇的であり、かつ、舞台床面に散り積もる紙が人々の足元に堆積する死を意味するようでもあり高い効果を上げていたと言えるだろう。

IMG_1895だが語りの演出には疑問が残る。冒頭、全員が揃ったところで演出家から挨拶と演出意図の説明があり、本編がはじまる。ところが、本編の冒頭にもまた、原作にはない「使者」の語りが挿入されており、これから演じられる作品の全体が使者が観客へと語る「物語」であることが示されるのだ。稽古場という設定は俳優が台本を持ったままで役を演じるセミリーディング形式へのエクスキューズとして了解できるが、そこにさらに使者による語りという枠組みを重ねる必要はあっただろうか? 100分の上演時間も手伝っていたずらに冗長な印象を受けた。

今回の上演では島村抱月の『クレオパトラ』という「忘れられた」脚色台本を「発見」した功績も大きいだろう。場面転換のテンポなどを考慮すると原作よりも上演しやすいのではないだろうか。しかもそのままでも十分に面白い。今後も「シェイクスピアの新たな魅力」を発見する活動を期待したい。

DSC_2921MSP1MB本家である明治大学シェイクスピアプロジェクトは今年、『Midsummer Nightmare』として『夏の夜の夢』と『二人の貴公子』を二本立てで上演する。公演は2016年11月11日(金)から13日(日)、明治大学駿河台キャンパスアカデミーコモン3階アカデミーホールにて。

(演劇博物館助手 山﨑健太)

 

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