「小説執筆を通しての学びが、人間的成長につながっています」
文化構想学部 2年 河端 朝日(かわばた・あさひ)
2018年6月に小・中学生を主な読者対象にした「集英社みらい文庫」シリーズから『FC6年1組 クラスメイトはチームメイト! 一斗と純のキセキの試合』を出版し、小説家デビューを果たした文化構想学部2年の河端朝日さん。自身も小・中学生時代にやっていたサッカーをテーマにした同作は広くファンを獲得し、10月には続編も出版されました。そんな河端さんに、小説にまつわることや学生生活について聞きました。
――児童小説を書き始めたきっかけについて教えてください。
いつかは書くものだと思っていたというのが率直な回答です。今にして思えば、両親が教師をしていて、日常的に本がある環境だったことが大きく影響しているかもしれません。小学生の頃から『かいけつゾロリ』(ポプラ社)などの児童向け作品を読んでいて、最初に小説として意識的に触れたのが児童文庫でした。
――テーマはどのようにして考えるのですか?
その時々の関心や偶然のきっかけによることが多いと思います。中学校で生徒会に関わっていた当時は、生徒会のことを題材にして書いたこともありました。デビュー作の『FC6年1組』は小学校6年生のクラスメート全員でチームを組んだ8人制サッカーの話ですが、私自身が小学校から中学校までサッカーを続けていたことや、担当編集者の方もサッカー経験があったこと、またワールドカップの時期と重なっていたこともあり、身近なテーマだったサッカーに決まりました。私の小説では、学校のクラスで、そのまま一つのチームを組んでいるという、一風変わった設定になっています。クラスという単位の中には、必ずしも運動やサッカーが得意な子ばかりではありませんが、そうした条件の中でも一人一人の個性を生かすことで物語が進んでいくという構成で創作しています。
――「集英社みらい文庫大賞」に応募したことがデビューのきっかけと聞きました。
集英社みらい文庫大賞では、一次選考から三次選考を経た作品の中から、最終的に大賞と優秀賞が選ばれます。大賞を取るとデビューが確約され、その手前の最終選考まででも担当編集者が付き、指導を受けることができます。同賞へは中学3年のときに初めて応募し、高校生になってからも、応募するための作品を年1本のペースで書いていました。高校では文芸部に所属していたため、周囲の知り合いに読んでもらう環境はありましたが、プロに読んでもらうのはまた違うと思い、応募を続けていました。高校1年生で初めて一次選考を通ったとき、自分の知らない人から一定の評価をもらえたことに達成感がありました。
私の場合、これまで4回応募し、一次選考には2回通過したものの、実はそれより先には進むことができませんでした。しかし、幸運にも今の担当編集者の方に声を掛けていただき、2017年7月から指導をいただくことでデビューにこぎ着けました。後に担当編集者の方に聞いたところ、毎年応募をしたことで名前を覚えてくださっており、応募作ごとに成長度合いを注視してくださっていたようです。「毎年応募してきた高校生が大学生になったと聞いて、実際に会ってみたくなった」と言っていただけました。
――小説を書くときに心掛けていることはどんなことですか?
小・中学生に向けて書くことは、思いのほかさまざまな制限が掛かっています。ある程度大人の読者を対象にした場合は、比喩などを用いて、自分が書きたい表現をそのままストレートに出すこともできますが、児童向けの場合は一番に「分かりやすさ」を重視しなければならないので、その中で自分らしさをどう出すかを常に模索しているような状態です。また、作品の構成や展開を考える上では、対象年齢の興味が今何に向いているのかを意識することも大事にしています。現在私は20歳ですが、現代の小・中学生の娯楽はYouTubeが主流なので、既に私の時代とも乖離(かいり)があります。そうした娯楽のある時代の中にあって、児童文庫を読んでいる層、その中でも自分の作品を選んでくれている読者に向けて何が書けるか、という視点は常に意識しています。本に挟んである「読者カード」による感想などを編集部経由でいただくのですが、小・中学生からのコメントは大変励みになり、いつも自分のパソコンの隅に貼り付けて元気をもらっています。
――学生時代にプロの小説家としてデビューすることに対してはどのような思いがありますか?
早稲田でいうと朝井リョウさんの例もあり、そんなに特別なこととは意識していませんでしたが、現在も自宅のある山梨県から通学しているので、作品の追い込み時期は通学時間のロスを減らすため、池袋のホテルに泊まって執筆・通学をしていた時期もありました。そういった生活をしていたときには、他の人とは違う体験をさせてもらっているなと思いました。
ただ、熱心に演劇活動をしている身近な友人もいるためか、自分が知らないだけで、早稲田にはきっと他にもいろいろな活動をしている学生がいるのだろうなと想像しています。私は担当編集の方から授業のことも考慮してもらい活動できていますが、同じ早大生の中でもそうした保証も無く、もっと大変な思いをして頑張っている人も多いのでは、という意識でいます。
――ところで、進学先として早稲田大学を選んだのはなぜですか?
小説創作のための技術向上や見識を広げることを念頭に置いていたので、高校生の早い段階から早稲田の文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系に入ろうと決めていました。当初は在学中にデビューできるとは思っておらず、在学中の4年間を費やして文章を作る技術・経験を培うことを考えていました。創作では、小説家の堀江敏幸先生(文学学術院教授)のゼミや、詩人の伊藤比呂美先生(文学学術院教授<任期付>)の授業を履修しています。その他、ジェンダーや哲学の授業など、とても刺激を受けています。
――今後の目標について聞かせてください。
『FC6年1組』ができるだけ多くの人に届くようにと思っています。1作目が完成したのは担当編集者の力によるところが大きく、何とか形にできたという思いだったんです。小・中学生向けの小説を書くに当たって何が必要か、そして今の自分に何が欠けているかを厳しく指導していただきました。今後の作品を出すにあたっては、指導していただいたことを自分の中で反芻(はんすう)し、より良い作品を書くことで、自分を見いだしてくれた編集の方に恩返しがしたいと思っています。
第715回
【プロフィール】
山梨県出身。県立甲府東高等学校卒業。目標とする作家は、同じ集英社みらい文庫から出版されている『ラストサバイバル』シリーズの大久保開氏や『牛乳カンパイ係、田中くん』シリーズの並木たかあき氏、『絶望鬼ごっこ』シリーズの針とら氏など。「諸先輩方の作品を参考にしつつも、小・中学生の流行を探り、自分なりに児童文庫の可能性を開拓していきたい」と意気込みを見せる。デビュー2作目となる『FC6年1組 つかめ全国への大会キップ! とどけ約束のラストパス!』を今年10月に発売。