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火星で人類100万人が暮らす方法、VRで提案 日本HP社コンペで最優秀賞

「遠いと思っていたSFの世界をVRでもっと身近に」

大学院創造理工学研究科 修士課程 1年 松廣 航(まつひろ・こう)

第一次フェーズ入賞の副賞でもらったHP社のPCを愛用

人類100万人が火星に移住して暮らすにはどうしたらよいか―高校生から大学院生まで104チーム計410名がアイデアを競い合った日本HP社主催のコンテスト「Project MARS -Education League JP-」(※1)。書類審査で選抜された8チームが、自らのアイデアをVRコンテンツ(※2)化するための段階的なプレゼンテーションに、約半年にわたって取り組みました。科学的な裏付けの有無など厳密な審査が行われる中、ライバルであった高校生チームとコラボレーションすることで多様性に満ちた都市空間を提案し、最終フェーズで見事最優秀賞を受賞したチーム「Yspace × MarS+HG」(※3)。「もはや趣味は火星です」と笑いながら、メンバーの松廣航さんが今の思いを語ってくれました。

(※1)国際的プロジェクトHP Mars Home Projectの日本での取り組み。日本HP社が(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力の下で行った学生専用リーグ。

(※2)仮想現実体験型のコンテンツ

(※3)Yspaceメンバー(田中克明・松廣航・日高萌子・川﨑吾一・村井太一)と広尾学園高校 MarS+HGメンバー(後藤愛弓・三好千温・加藤知香・竹内大晟・高井陸)による合同チーム

  ――まずは「Project MARS -Education League JP-」について教えてください。

火星で生活するために必要なインフラのデザインを競う企画で、都市コンセプトを競う第一次フェーズから、そのコンセプトを3Dモデリングで視覚化し、国際コンペに挑んだ第二次フェーズを経て、最終の第三次フェーズではそれらをまとめ上げVRとして提案するコンテストです。私は早稲田大学、慶應義塾大学、東京理科大学の混合チーム「Yspace」で参加し、「移動し、つながる都市 Connective City」を提案しました。固定された建物の間を人々が移動するという考えではなく、都市に敷かれたレールの上を家や会社、お店自体が移動することで、移動にかかる「距離」や「時間」を無化するような都市設計をしました。寝ている間に移動でき、玄関を開ければすぐそこが職場とつながっている「どこでもドア」のようなイメージです。酸素と水を供給するロボットもいて、それら全ての動きをAIが管理する仕組みを提案しました。

第一次フェーズで提案した「Connective City」

 ――どういった経緯でチームを結成し、プロジェクトに参加することになったのですか?

創造理工学部4年のとき、研究室の先輩であるYspaceメンバーの田中克明さん(2018年大学院先進理工学研究科 博士課程修了)から電話で誘われたのがきっかけです。田中さんも担当教授からその電話の数時間前に参加しないかと勧められたらしく、実は応募締切前日の深夜に寄せ集められたメンバーなんです(笑)。私以外のメンバーは田中さんが当時インターンとして働いていた宇宙開発ベンチャー企業である株式会社ispaceのインターン生だったので、楽しく宇宙の話などができたらいいな、と軽い気持ちで参加しました。

――もともと松廣さん自身は宇宙や火星への興味があったということですか?

昔からSFの映画やアニメが好きで、ロボットや新しい技術というものには興味はありました。ただ、宇宙はもっと遠い存在だと感じていたので、誘われたことで何か新しいことをやってみたい気持ちが湧き上がったんです。そういった意味では他のメンバーとは参加の経緯が違うかもしれませんね。今回のプロジェクトの都市提案の中では、私の研究分野であるロボットが重要な要素としてあったので、主にロボット制作やモデリングなどハード面での役割を担いました。

――最終フェーズで最優秀賞を獲得するに至るまでの道のりを教えてください。

実は第一次フェーズでは2位だったんです。「生活感」や「家族で住む」という視点に欠けていたことが敗因でした。この時期はメンバー5人中4人が卒業論文などが大詰めの時期でしたが、最優秀賞を目指してかなり時間や労力を費やしていたので、負けたときはとても悔しくて、しばらくはメンバー全員がやる気を失ってしまいました。ただ、このまま終わるのは惜しいということになり、最終フェーズでの最優秀賞を目指すことに気持ちを切り替えました。

最終フェーズでは、第一次フェーズで出したアイデアをVRコンテンツにして提案することが課題でした。自分たちのアイデアをブラッシュアップするため、JAXAをはじめ関連企業へ聞き込みをし、また専門家ではない周囲の友人からも生活をすることを前提としたアイデアを収集しました。また、第一次フェーズにおいて似たようなコンセプトで提案を行なっていた広尾学園高校の高校生チーム「MarS + HG」に声を掛け、最終フェーズでは一緒に提案を行なったんです。

最終フェーズで発表した広尾学園高校とのコラボ案

――同じようなコンセプトの、いわばライバルチームとあえて一緒に進めることにしたのはなぜですか?

高校生は大学生より家族というものの存在が近いですし、何より発想力が豊かです。高校生の発想力と大学生の科学的知識や技術を組み合わせれば、もっと良いものにつながるのではという考えから声を掛けました。多様性といいますか、いろいろな考えがあった方が面白いという考えがメンバーみんなの中にもともとありました。私たち大学生だけでも専門が違うと視点が違うので、同じものでもさまざまな側面から見ることができます。ただ、専門化することで、逆に発想の柔軟性が失われる面というものも必ずあると思うので、専門を持っていない高校生が加わることでさまざまな視点に開かれていたことが良い結果に結び付いたと思います。それに結局、都市っていろいろな人が住むところなので、多様な人の意見を聞くのが一番良いことにつながると思うんです。

最終的には従来のYspaceのアイデアに、MarS + HGの生活感を感じさせるピラミッドハウス(集合住宅)などのアイデアを組み合わせ、最優秀賞を受賞することができました。現在、私がプロジェクトマネージャーを務め、日本HP社エンジニアのサポートを受けながら、最優秀賞の副賞である提案内容のVR実現化に向けて高校生たちと製作を進めています。

最終フェーズで最優秀賞の受賞記念に(松廣さんは後列左から2人目)

 ――このプロジェクトを通して得たことはありますか?

みんなが“より良いものを作る”という同じ方向に気持ちが向いたときの「強さ」を実感できたことが大きかったと思います。また、その過程で現れる困難も、うまく乗り越えれば良いものができるという確信も得ることができました。

現実的な困難として、メンバーの所属大学や学部が違うことや、みんなが卒論で忙しかったりすると話し合いのために集まること自体がとても難しく、深夜1時スタートのスカイプミーティングもしょっちゅうでした。さらにそこに高校生が加わると、生活の時間帯も異なるため、話し合いの場を持つことのハードルがまた上がってしまって…。図らずも「Connective City」で提起した「いかにして時間や距離の問題から解放されるか」というコンセプトが、提案時の自分たちにとって最も切実な問題であったのだということに振り返ってみて気付きました(笑)。この困難に正面から向き合ったことが良い具合に提案に影響しているなと思っています。

――今後の展望を教えてください。

TWInsツアーガイドで台湾の高校生を相手に研究機材の説明をする松廣さん(左から2人目)

現在の本業である研究のテーマは、小型環境観測ロボットの開発・制作です。具体的には千葉県にある印旛沼の外来種のカメが増えて困っている話を聞き、カメを捕獲するためのロボット開発をしています。研究というものは狭い範囲で行なわれているものなので、うまく広がっていくものもあれば無くなっていってしまうものもあります。私のロボットもそうですが、こうした技術が人に知られずに埋もれてしまうこともあるため、今後は技術を伝える何かに携われたらと考えています。

そうした思いと、今回のプロジェクトを通して宇宙が身近に感じられるようになったことから、実はこの6月からプロジェクトのメンバーで「YspaceLLC.」という宇宙の技術を伝えることをコンセプトにした合同会社を立ち上げました。宇宙を体験するVRコンテンツを作り、宇宙の魅力を伝えることができればと考えています。まだ宇宙に行くことは一般的ではありませんが、VRで宇宙を体験して興味を持った子どもたちが宇宙飛行士や科学者を目指すきっかけになればいいなと思います。

 

第707回

【プロフィール】
東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。学部時代に1年間休学し、米国・ニューヨーク州のBerkeley Collegeに留学。マーケティングや心理学を学ぶ。帰国後は英語力を生かし、研究室のある先端生命医科学センター(TWIns)で留学生向けのツアーガイドも行なっている。現在の趣味は火星一色であるが、かつては映画サークルに所属したり、タップダンスに熱中した時期も。なお、本プロジェクト最優秀賞の副賞により完成したVRは今夏より日本HP本社の他、JAXAにも展示予定。

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