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「18歳選挙権」 啓発活動で学んだ本当の難しさ

「同世代の自分だからこそできることがあるのでは」

教育学部 4年 寒川 友貴(さむかわ・ともき)

若者の政治に対する無関心や低投票率について報じられていますが、2016年の「18歳選挙権(※)」施行を前に、「未来の有権者を育てる」を理念とした任意団体「Kids Voting Japan」を立ち上げ、代表として2,000人を超える高校生に政治参加を訴える活動を行ってきた寒川友貴さん。この活動をきっかけにさまざまなことにチャレンジする寒川さんに話を聞きました。

(※)公職選挙の選挙権年齢を満20歳から満18歳に引き下げることなどを定めた法改正。2015年6月公布、2016年6月施行。

――Kids Voting Japanを立ち上げた経緯について教えてください。

Kids Voting Japanのメンバー(左端が寒川さん)

私の家庭では、食卓を囲みながらニュース番組を見る習慣があり、その影響で中学生のころから徐々に政治や社会に興味を持つようになりました。授業の中で、選挙が大事とか、政治に関心を持つ必要があるなどと教えられるものの、実際には投票率が低く、周囲にも政治に興味を持つ友人が少ない現実を目にする中で、授業と現実のかけ離れている部分に違和感を覚えることが多くありました。最も衝撃的だった出来事は、2013年に地元・神戸で行われた市長選挙です。20代の投票率が16%台とかなり低い状況だったことを知り、若い世代がなぜ投票に行かないのだろうと考えると、行かないような状況を生み出している社会の仕組みにこそ問題があるはずだと思うようになりました。

そんなときに、同世代の自分だからこそできることがあるのではないかと考え、政治家など地域で活躍する大人と高校生が社会問題について議論するイベントや、選挙期間中に街頭で高校生に投票体験をしてもらう活動を、高校2年生から3年生にかけて半年間行いました。「18歳選挙権」の実現が大学入学後の2015年6月に決まって、流れが来ているこのタイミングなら社会に大きなインパクトを与えられるのではと思い、大学1年の秋に立ち上げたのがKids Voting Japanです。

――どのような活動を行ったのでしょうか?

高校で出前授業で行う寒川さん

最初は自分一人で始めたのですが、知り合いに声を掛けるなどして最終的に10人程度のメンバーで活動するようになりました。主な活動は出前授業と街頭やインターネット、イベントでの模擬選挙です。出前授業では、高校の総合学習や政治・経済の授業時間を提供していただき、自分たちのオリジナルの授業を行いました。

通常の授業では政治制度や思想などについて学ぶことが中心ですが、私たちは憲法改正など現実社会で起こっている問題について取り扱い、「生の政治を取り扱う」ということを活動の軸としていました。また、中立性の観点から、一方の意見を押し付けるのではなく、さまざまな情報を集めて、それを基に生徒たちと議論しながら双方向型の授業運営を行ったところ、多くの高校で好評をいただきました。一方で「授業の中に実際の政治を持ち込みたくない」という意向の先生がいらっしゃる場合もあり、授業内容に制限がかかることも何度かありました。

――活動の中で苦労したことはありますか?

出前授業で模擬選挙を実施した際は、高校生が実際に用いられている記載台を使って投票用紙に記入

ただでさえ難しい政治のトピックを、高校生たちにいかに分かりやすく伝えるか悩みました。生徒たちはとてもシビアで、話が面白くないとそもそも授業を聞いてくれないので、できるだけ専門用語を使わずに図やグラフを用いて視覚的に伝え、ところどころ動画やクイズを盛り込むなど、生徒たちが飽きないような工夫をしました。

また、スケジュールが決まっていたにもかかわらず直前に高校側から一方的にキャンセルされることが度々ありました。それだけでなく、「大学生の活動だからボランティアが当然」と思われ、交通費や資料の印刷代などの必要経費を自分たちで負担するような状況も多々あり、なかなか継続可能な状況にできなかったのが大きな課題でした。

異なる意見を持ったメンバーをまとめることも至難の業でした。18歳選挙権の初施行である2016年の参院選に向けての活動が一つの目標だったのでそこまではやりきり、一緒にやってきたメンバーの卒業などをきっかけに活動を終えました。2,000人を超える高校生を対象に出前授業などの取り組みを行ったことは、大きな成果だったと思っています。

――Kids Voting Japanの活動を終えた後は、他のことに取り組まれたのでしょうか?

Kids Voting Japanの活動を通じて、社会の厳しさや自分自身の未熟さを痛感しました。しかし、この学びは本気で、全力で挑戦したからこそ得られたものだと思っています。そのため、目の前の課題に対して、生半可な気持ちではなく、全身全霊をかけて一つ一つ取り組むことが成長へつながると感じました。

次のチャレンジとして、外務省から「ユース非核特使」の委嘱を受けて、大学2年の8月から3カ月の間、船で世界一周をしました。唯一の被爆国である日本の若者を代表して、被爆者の方と共に各国政府や国連に対して原爆の惨禍を伝える市民外交活動を行ったことは、とても貴重な体験になりました。

(写真左)長崎で行われた国連軍縮会議では、ユース非核特使としてスピーチ
(写真右)キューバのディアスカネル国家評議会議長とも面会(左側が寒川さん)

その後、大学を1年間休学する決断をして、島根県隠岐諸島にある海士町という離島でインターンシップを行いました。島にある「隠岐國学習センター」という公立の塾で、日中は広報や採用などの運営に関わる業務に携わり、夕方からは高校生への教科指導やキャリア教育などを行っていたほか、休日は島伝統のイベントなどに参加する毎日でした。Kids Voting Japanのときは活動の成果がなかなか見えなかったのですが、インターンシップでは目の前の生徒が変わっていく姿を目にすることができたので、とてもやりがいがありました。一方で、自分が持つ生徒への影響力の大きさを自覚し、対応に悩むこともありましたが、それ以上に生徒たちが成長する姿を見られてうれしかったですし、何事にも代えられない大きな喜びがありました。

海士町から離島するときは、地域住民の方々が見送ってくれた

――将来について今考えていることを教えてください。

今秋からはセルビアのベオグラード大学へ1年間留学します。平和構築に興味があるのですが、資源や領土などの既得権を巡って争うのではなく、ユーゴスラビア紛争のように民族が異なることによる争いというのが日本人である自分にはどうしても理解が難しいと感じています。そのため、かつての民族紛争の跡が残るセルビアの地で、公用語であるセルビア語を勉強しながら、民族紛争や国際政治について学びたいと思っています。

将来はどんな形であれ、誰かの人生に少しでも良い影響を与えられる存在になりたいと思っています。教育分野も選択肢の一つですが、他にもさまざまな方法があると思うので、今後の大学生活で模索していきたいです。

第704回

【プロフィール】
兵庫県出身。仁川学院高等学校卒業。「関西から出て環境を変えたい」という思いから東京への進学を決め、早稲田大学に入学。現在は入学前から興味を持っていた政治教育の近藤孝弘先生のゼミで学んでいる。海士町ではフィールドワークに頻繁に来ていた平山雄大先生(平山郁夫記念ボランティアセンター講師<任期付>)と出会い、楽しそうに仕事や研究をする先生の姿から、自分のこれまで描いていた教員像が大きく変わったと語る。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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