Waseda Vision 150 Student Competition金賞(総長賞)
Future Education、目標は大きく「日本の教育を変える」
大学院先進理工学研究科 修士課程 1年 冨田 康平(とみた・こうへい)
先進理工学部 2018年3月卒業 山越 麟太郎(やまこし・りんたろう)
「大学に入ってみると、素晴らしい学生もいる一方で、受験のためだけ、良い企業に就職するためだけに勉強をしてきたという学生をたくさん見てきました」と語る、冨田康平さんと山越麟太郎さん。2人がチーム「Future Education」としてスチューデントコンペティション(※)に出場して提案した、大学生が中高生に教える、勉強する真の目的を見いだす教育プログラム「Study Innovation in University」は金賞(総長賞)を受賞しました。出場36チーム中8チームが決勝に進出し、鎌田薫総長が「どのチームもプレゼンテーション能力が高く問題意識が明確で、解決するための方策を伝える構成力も年々磨きがかかっている」と講評した中で、ひときわ輝いた二人の情熱とは?
※)「Waseda Vision 150 Student Competition」。早稲田大学が創立150周年を迎える2032年を見据えた中期計画『Waseda Vision 150』について、学生が自由な発想で大学改革案を練り、実現に向けた企画を早稲田大学総長や審査員の前でプレゼンテーション(以下、プレゼン)する。提案された企画内容は受賞の有無にかかわらず、早稲田大学が関連プロジェクトを実行する際に参考とされる。
――「Future Education」の提案はどのようなものなのですか。
冨田
大学受験を中心とする日本の教育は、学歴社会に対応するためだけのシステムになっており、知識獲得ではなく受験のために勉強をする中高生を生んできていると思っています。また、勉強が何に役立つのかが分かりにくく、学問の目的を見失って進路選択で失敗する大学生を生んできた面もあります。こうした問題意識が出発点となって、中学生や受験勉強が本格化する前の高校生向けに、大学の空き教室を使って「課題解決型講座」や「大学インターンシップ」を提供するビジネスを展開するプランです。思考力・判断力・表現力を養って広義的学びの楽しさを知る「課題解決型講座」と、目的を持って学ぶ意識を養い、進路選択の判断材料にしてもらう「大学インターンシップ」という二つの教育カリキュラムを展開し、学ぶことの真の意味を知ることができるプランとなっています。
山越
もともと、このプランは2016年に早稲田大学主催で行われた「ビジネスプランコンテスト」に応募し、入賞したプランを改良したものです。しかし、当初から金銭的利益を追求することを目的としたプランではなく、日本の教育に対する問題意識を持って、日本の社会を良くするという大きな理想をコンセプトとしていました。大学に入ってみると素晴らしい学生もいる一方で、ただ受験で頑張って良い大学に入れば、良い企業に入れると考える学生も多くいると感じました。勉強する本当の目的を、受験勉強で忙しくなる前に知ることを重視したプランですので、高校3年生などの受験世代はあえて対象から外しています。
――なぜ、スチューデントコンペティションに応募したのですか。
冨田
ビジネスコンテストに出場して、大学外の企業は営利目的で教室を使用することができないということを知り、また講義を大学生が行うという部分が「質の担保」という点で実現可能性に疑問が投げ掛けられました。私たちはコンテストの優勝ではなく、企画の実現を目指しているので、早稲田大学総長という大学の経営トップに直接プレゼンテーションができるというスチューデントコンペティションは絶好の機会だと思い応募しました。
――改良に向けて工夫したところは?
冨田
授業の質という点では、すでに「課題解決型」教材を展開している企業の代表の方と話をしていて、その教材をベースに開発することを検討しています。例えば大学が抱えている問題、新宿区など地域が抱えている問題を学生たちが各担当者と協議して改革を実現まで持っていくような授業内容です。大学インターンシップは中高生の長期休暇中に大学の研究室を訪れ、中高生向けカリキュラムを受けるものです。私が所属していた学科では、実際に研究室を体験できる学部2・3年生向けのプログラムがあります。大学院生が2・3年生でも理解できるようなコンテンツを用意して研究を体験させてくれます。内容はそのプログラムに近いですね。
山越
プランに真実味を持たせるために「課題解決型講座」が実際に教育的効果があるというデータを示したかったので、日経新聞で読んだニュースを元に見つけた文部科学省中央教育審議会の発表資料を活用しました。「平成29年度全国学力・学習状況調査」における「総合学習の時間に課題設定や情報収集を行い発表する取り組みをしているか?」というアンケートで、取り組んでいる生徒ほど国語・数学など各教科の正答率が上がったというデータでした。
――プレゼンはどのように工夫しましたか。
冨田
僕が一人で行ったのですが、理系のプレゼンでは情報量が膨大なスライドが多いということを反面教師にして、内容を絞って視覚的に分かりやすく、インパクトを与えることを狙いました。「語り」についてはスライドを見ずに言えるようになるまで、とにかく練習、練習、練習でした。その上で、所作、手の動きもスティーブ・ジョブズを参考にしました(笑)。ジョブズはiPhoneのプレゼンを100回以上練習したと聞いたので、ジョブズでさえ、そこまでしたなら、自分がしなくてどうするんだ、と思って練習しまくりました。
山越
それと、ビジネスプランコンテストで優勝した政治経済学部の学生のプレゼンに刺激を受けたことも大きいです。当時、僕たちは2人で分担してプレゼンを行ったのですが、連携がうまくいかずぎくしゃくしていました。その学生はアプリの開発について1人で発表して、全ての中身を頭に入れて自分の言葉で流れるように話していました。引き込まれて、圧倒されました。
――コンテストを通じて印象的な出来事はありましたか。
冨田
全チームのプレゼンが終わったあとの質疑応答で、会場にいた起業家という早大OBの方から「どこまで本気で社会課題を解決しようとしているのか、強いソウル(魂)をアピールしたほうがいい」と指摘されたんです。僕は「起業して運営するところまでしたいと考えています。賞をもらうのではなく、実現するため、総長の前で発表するためにここへ来ました」と答えました。そのOBの方は親指を上げて手を押し出して、「サムズアップジェスチャー」をしてくれました。この場に来て、間違いはなかったと確信しました。
山越
あの熱意を語った場面があったからこそ、僕たちは優勝できたと思います。プランを通すことを目的としてプレゼン内容を作りましたが、最終的には熱意なのかもしれません。なぜ始めて、なぜ実現したいのか。そこにどのような思いがあるのか。隙の無いプラン、有用なプランも重要ですが、実現のためには熱意がないといけないと感じました。瞬間的な熱意ではなく、持続的な熱意の重要性です。
――お互いに伝えたいことをどうぞ。
山越
ビジネスコンテストで日の目を見なかったプランで再度応募したのは冨田の発案でした。僕は就職活動もあって今回はアドバイザーとして関わったのですが、一度失敗しても熱意を持ち続ければ実現できる可能性がある、ということを冨田の姿勢から学びました。卒業後はビジネスマンになるので、心にとどめておこうと思います。
冨田
僕が早稲田大学で得た一番の収穫は、社会問題を真面目に語り合える、山越という友人と出会えたことです。高校までのふざけた会話ももちろん楽しかったのですが、大学では飲みの場でも真面目な話を真剣にしても飽きない友人に出会えました。本当に最大の収穫でした。
第697回
【プロフィール】
山越麟太郎。東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。司馬遼太郎『坂の上の雲』の大ファンで、入学式のときに冨田さんが愛媛出身であることを偶然知って話し掛けたことがきっかけで友人になった。あこがれの愛媛にある冨田さんの実家で、たくさんご馳走(ちそう)になったことが忘れられないという。
冨田康平。愛媛県出身。県立松山南高等学校卒業。入学式で冨田さんの母親に向かって山越さんが『坂の上の雲』について熱く語り出した姿を見て、「初対面でこんなに話すなんて、東京の学生って怖い」と思ったという。今回のプランを早稲田発で全国の大学に広めていくことが目標。