「ジェンダーを考える~宝塚歌劇の男らしさ・女らしさの表現~」をテーマにしたトークセッションが6月16日、ICC(異文化交流センター)主催により早稲田キャンパスの大隈ガーデンハウス1階で開かれました。元宝塚歌劇団女優で、退団後はハープ奏者・歌手、舞台女優、ダンサーなど幅広く活躍している奈加靖子さんが、元タカラジェンヌの視点でジェンダーを語りました。
ブラジル人留学生でICC学生スタッフのタイス・ファヴェロ・ソウザさん(大学院国際コミュニケーション研究科博士課程1年)が、宝塚歌劇におけるジェンダーに興味を持ったことから企画したイベント。司会も務めたタイスさんの問いかけに答えながら、宝塚歌劇団花組の娘役だった奈加さんは、「男役の女優が娘役になることを“性転換”っていうんです」などいった宝塚歌劇団ならではのエピソードを紹介しました。
今年で創立104周年を迎えた「宝塚」は、世界から注目を集める女性だけの劇団であり、「男役」「娘役」を例に、奈加さんは「男性らしさ」「女性らしさ」がどのように表現されてきたのかを中心に語りました。トークセッション終了後は、アイルランドの伝統楽器「アイリッシュハープ」による奈加さんの演奏と歌で、宝塚歌劇団の愛唱歌「すみれの花咲く頃」などが披露されました。
ジェンダーを考える~宝塚歌劇の男らしさ・女らしさの表現~
タイス 「日本は男性社会」といわれる中、出演者が女性だけの宝塚歌劇ではどうなのでしょうか。宝塚では男役が注目されがちだと思うのですが…。
奈加 男役と娘役を比べた場合、やはり宝塚は男役あっての劇団で、歌劇は「男役ファースト」で引き立てられます。娘役は「一歩下がった」存在でありつつ、ここぞという場面では可憐さに加え、上品さ華やかさを持って存在感を示すという感じですね。CDとかのグッズも男役に関するものが大半で、そういう意味では“男女”平等ではないのかもしれません。
宝塚歌劇団は1913(大正2)年に創立されましたが、当時から現代にかけて「少女らしさ」「女性らしさ」は少しずつ変わってきているんじゃないかなと思いますね。また、男役については「男役10年」という言葉がありまして、低い声の出し方、男性らしい立ち居振る舞いを、上級生の姿・やり方を見聞きしながら自分なりに学んでいくんですね。
来場学生質問1 娘役において、日本の女性像の変遷を感じますか。
奈加 少し変わってきていると思います。ちょっと昔までは宝塚の娘役も「若くてかわいい女性がいい」とされたのが、近年は自立した女性像というのが舞台の世界、また現実でも珍しくなくなりました。昔ほど可憐さがなくても、娘役でもキリリとしてかっこいい感じの女優がいますね。
来場学生質問2 男役さんが“女装”するという言葉を聞いたんですけれど…。
奈加 ええ。男役がシーンによって女性になることを“女装”っていうんですよね。元に戻っただけなのに(笑)。
タイス 宝塚で娘役というのは、「女の中の女を演じる」ことではないでしょうか? 抵抗感みたいなものはなかったですか?
奈加 特になかったですね。でも同期の中で男役だった女優が娘役に転向したことがありました。これを“性転換”っていうんですけど、男役になってみたものの身長が足りないとかで役がつかないといった理由で、時々あるパターンなんです。でも、転向した女優は、前向きに娘役を演じていましたよ。また、劇団の中にいた人間としては、男役の女優が持ち上げられて、娘役の女優が虐げられるという、いわゆる性差別は感じたことはなかったですね。
タイス 国際機関の調査(※)で「日本の性差別問題はまだまだ解決途上」という結果もありますが、奈加さんご自身は社会で性差別を受けたり、不便さを感じたことは?
※世界情勢の改善に取り組む非営利財団「世界経済フォーラム」(WEF、本部・スイス)が公表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2016年度版」で、日本は144カ国中111位。
奈加 宝塚歌劇にいた時も退団後も、不便さを感じたことはないですね。退団後に会社勤めをしたこともありますが、そこも男女差はない環境でした。ただ、宝塚では演出家でも男性は楽屋に入れないんですよ。楽屋内には女性しかいませんから。それって宝塚における唯一の男女差別かもしれませんね(笑)。
「世界経済フォーラム」の調査に関しては、このトークセッションを機に知り、考えるきっかけをいただきました。タイスさんが冒頭で例に挙げた通り、日本には「職場の花」という言葉があります。これは現代においては失礼な表現ですし、そういった(差別的な)言葉をもし言われたらきちんと指摘していかないと、社会は変わっていかないんじゃないかなと思います。
(撮影:商学部 5年 笹津 敏暉)