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日本人が読み書きできない日本語!?  「早稲田式速記」の文化、絶やさない

「『邦文速記研究会』の歴史は、速記の歴史でもある」

法学部 3年 久住 和輝(くすみ・かずき)

DSC_02902016年10月に行われた「全国学生新人速記競技大会」のD級というクラスの個人戦および団体戦で優勝した、公認サークル「邦文速記研究会」の久住和輝さん。スマートフォンやICレコーダーなど、誰もが気軽に録音機器を使えるようになり、特殊な文字で日本語を速く書き取る技術である「速記」は実用面では廃れていく中で、競技大会に参加できる大学も早稲田大学を含めて全国でわずか4大学という状況となっているそうです。複数ある速記法の中でも同サークルが取り組んでいるのは80年以上前に早稲田大学の学生が考案し、民間では最も普及しているといわれる「早稲田式速記」。録音全盛の時代、速記の魅力に取りつかれた久住さんが目指していることとは?

――なぜ、速記を始めたのですか?

1年生の時に新歓で誘われて、面白そうだなと思って通っているうちに興味を持ちました。速記というのは「速記文字」という特殊な文字を使って文字を速く書く技術です。より速く書き取るために改良が重ねられてきた人口文字で、普通の人は読み書きできません。暗号のような文字を操れるのが面白いなと思っているうちに続いてしまいました。私たちが使っている速記は「早稲田式速記」といって、1930年に当時の早大生、川口渉さんらが創り上げていったものです。川口さんたちによって、1931年に「邦文速記研究会」が発足しました。

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早稲田式速記文字(邦文速記研究会Webサイトより)

 

――速記はどのようなときに役立ちますか?

はっきり言って速記は現在、あまり実用されていないんです。録音機が一般的ではない時代は、速記の需要がたくさんあったのですが、今は録音データをテープ起こし業者に送ればすぐにテキストデータ化されるので、速記の需要が少なくなっていると思うんですよ。国会でも「衆議院式」「参議院式」という速記法があるのですが、やはり録音がメインになってきています。だから僕も速記を実用しているかと問われると難しい。例えば授業のノートを速記で取ってしまうと、読み起こすのに時間がかかってしまうので、あまり使わないですね。強いて役に立つ場面を挙げるとすると、アルバイトなどで電話を取ったときにメモを取るぐらいです。

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読み上げられた文章を速記文字で書き取っていく

――速記の競技大会とはどのようなものなのですか?

競技大会では読み上げられた音声を聞きながら速記文字で書き取って、書いた速記文字を普通の文字「国字」に戻して原稿用紙に書き起こしていきます。読み上げ原稿と書き起こした原稿を比べて、どれぐらい正確に一致しているかを競います。検定試験も同じで、レベルに応じて1分間あたりの書き取る文字数などが変わってきます。

――全国学生新人速記競技大会の結果は?

この大会は1、2年生のみが出場できる大会で、各大学の参加者が個人戦で得た得点を合計して大学同士が団体戦の順位を争います。私が出場したのは「D級」というクラスで、分速170文字の速さで流れる音声を3分間書き取り、これを2セット行いました。合計6分間で1020文字を書き取る正確性を争い、個人戦で優勝し、団体戦でも早稲田大学と関西学院大学が同点で1位となりました。

――速記を覚えるのは難しいのですか?

聞き取って書けるようになるレベルになるのは難しいのですが、90分練習すると五十音だけなら覚えられます。サークルでは週3回90分間の練習をしていて、2カ月ぐらいたつと初心者の1年生でも書き取りの練習を始めるようになります。競技レベルの分速180字を書き取れるようになるのは、2年生の半ばぐらいになります。

――学んでよかったと思うことは?

実用的な面ではなく、速記を通じて他大学の速記サークルと仲良くなり、学内外で交流が広がったことですね。速記には「早稲田式」「衆議院式」「参議院式」の他に「中根式」というのがあって、これは主に関西で使われているんです。昨年の夏休みには関西学院大学の速記研究部に呼ばれて、合同練習をしました。実用的ではないんですが、スポーツ、例えばテニスだって、仕事で役に立つかと言われたらそういうわけではないと思います。やはり、速記を通じて交流の幅が広がり、競技会で競い合って楽しかったとか、そういうところが良かった点ですね。スポーツをやる理由と似ているかもしれません。

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邦文速記研究会のメンバー

――録音に押される速記は現在どのような状況なのですか?

「早稲田式速記」は年配の方だと習っていたという人が結構いるんです。なぜかというと、考案者の川口さんが速記の学校を設立し、ラジオや雑誌で広告して通信教育なども行って普及させていったんです。国会以外、民間で最も普及していたのが早稲田式といわれています。今、僕らの世代で速記をやっている人はほとんどいなくて、全国でも速記の競技大会に出場できる大学は、早稲田大学と関西学院大学と関西大学と福岡大学のわずか4大学なんです。この4大学だけでも、なんとか速記を続けていきたいと思っています。

――「早稲田式速記」の未来、自身の今後の抱負は?

「邦文速記研究会」の歴史は、そのまま「早稲田式速記」の歴史だといえます。90年近く継承されてきた早稲田生まれの文化なんです。 速記法の中で唯一大学の名前が付いてます。それはやっぱり絶やしたくはないし、 なんとか速記を文化として残していきたいという気持ちはあります。 個人的には卒業するまでにプロとして議事録が取れるレベルである「1級速記士」「2級速記士」の資格を取ろうと思っています。卒業後に速記士になるつもりはないのですが、大学で速記に打ち込んだという証しを残したいと思って。

第678回

DSC_0308【プロフィール】
神奈川県出身。同県立市ケ尾高等学校卒業。公益社団法人日本速記協会による検定で、「文節ごとに細かく息継ぎして読む速度」を正確に書き取れる「4級(事務級)」に合格した。現在は「政治家が大声で街頭演説をするくらいの速さ」を書き取れる「3級(事務級)」に挑戦中。邦文速記研究会では2017年、4年生が2級に合格した。同会では1級合格者は長らくいないが、卒業までに「アナウンサーがニュースを読む速度よりやや速め」を書き取れる「1級(専門級)」取得を目指している。

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