Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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「早稲田よりも他大出身劇団の方が活躍」どうするどらま館!? 宮沢章夫×平田オリザ×松井周シンポジウム

早稲田小劇場どらま館開館1周年記念シンポジウム
宮沢章夫×平田オリザ×松井周 ~WASEDAから考える「大学と劇場」の未来~ 開催リポート

“高い水準で地域とつながる。それが大学の伝統や文化になって蓄積されていく。そういうことが、どらま館には求められている”

2015年4月に再建された早稲田小劇場どらま館の開館1周年を記念して、演劇界の第一線でご活躍中の、平田オリザさん、松井周さん、宮沢章夫文化構想学部教授を交えたシンポジウム「WASEDAから考える大学の劇場と未来」が、6月6日(月)、早稲田大学の小野記念講堂にて開催されました。

どらま館に行けば、何か面白いものがやっているようにしたい

松井周さん(以下、松井) どらま館は、公演とワークショップで使わせていただいたのですが、すごく使いやすい劇場だなと思いました。照明も音響も舞台も、手作りで作れるし、すごくライブ感もある。自由に使える良さがありますね。平田さんのこけら落とし公演でも舞台を横にして使っていたり、客席を動かして舞台側に組めたりと、ブラックボックスとして使いやすく、どんなこともできるだろうなと思いました。

平田オリザさん(以下、平田) こけら落としでアンドロイド版『変身』という作品を上演しました。小さい劇場ではありますが、舞台を横にして使ったり、ロボット演劇なので早稲田の理系の先生方にもご覧いただいたりと、どらま館のポテンシャルを最大限に生かして、こけら落としにふさわしい公演になったのではと思います。

宮沢章夫教授(以下、宮沢) この南門通りに劇場があるということは、貴重なことだと思います。街と劇場には大きな関係があり、たくさんの人が行き交うというにぎわいや活気がないと劇場もいきいきとしてこない。「どらま館に行けば、何か面白いものがやっている」と思ってもらえるようになっていくといいと考えています。

大学には、地域文化を担う責務がある

平田オリザ(ひらた・おりざ) 劇作家・演出家・青年団主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。1962年東京都生まれ。東京藝術大学・アートイノベーションセンター特任教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター客員教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授。平田の戯曲はフランスを中心に世界各国語に翻訳・出版されている。2002年度以降中学校の国語教科書で、2011年以降は小学校の国語教科書にも平田のワークショップの方法論に基づいた教材が採用され、多くの子どもたちが教室で演劇を創作する体験を行っている。2015年5月、早稲田小劇場どらま館にてこけら落とし公演、アンドロイド版『変身』を上演した。

司会(どらま館企画責任者の射延憲児氏) 大学と劇場の関係についてはいかがですか。

平田 世界標準では大学に劇場がない方が特殊なのです。例えば、アメリカでは、10万人の人口のうち3万人が学生という街が結構あって、大学が劇場を持っていないと、地域に文化的な拠点がなくなってしまう。つまり、大学には、地域文化を担う責務がある。もう一つは、医学部があれば当然病院があるように、演劇科があれば劇場がなくてはならないのですが、日本ではそれも難しい。僕は桜美林大学と四国学院大学の演劇コースの開設に関わり、地域に開かれた劇場を作ってきました。大学が知の蓄積を地域に還元することは、当然のことだと思います。

宮沢 その劇場を教室として使えるかということも、教育面では重要ポイントです。演劇理論や俳優術だけではなく、例えば、照明をつる、そのために脚立に乗ると怖いということを知ってもらうことも大事な教育です。僕はどらま館をワークショップ形式の授業に使いたい。そうすれば、授業を通じてどらま館にもっと親しみを持てるのでは。

司会 2010年にどらま館の前身である「早稲田文化芸術プラザ どらま館」が閉館してからは、学生が天井の高い劇場を使うことがなくなり、舞台のノウハウの継承が難しくなっていたり、演劇に関わる学生の数が減ってきています。そんな中で学生劇団が、どらま館を使うことをハードルが高いと感じているのであれば、テクニカルなことも含めたワークショップが必要ですね。

松井 普通、劇場で公演をするとものすごくお金がかかる。大学の劇場を無料で使えるということは、失敗をしながら学んでいけるし、金銭的にもリスクが小さい。それは、すごく価値があると思いますけどね。

平田 学生(早大生)や教職員であれば使用料は無料、そして入場料を取っていい。それは太っ腹ですね。

どらま館の舞台前にて

演劇教育を通じて地を固めていくことで、劇場のレベルを上げていきたい

宮沢章夫(みやざわ・あきお)劇作家・演出家・小説家。遊園地再生事業団主宰、早稲田大学文化構想学部教授、早稲田小劇場どらま館芸術監督。1956 年静岡県生まれ。80 年代半ば竹中直人、いとうせいこうらとともに「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」、90 年より「遊園地再生事業団」の活動を開始。92 年『ヒネミ』で岸田戯曲賞受賞。2005年『トーキョー/不在/ハムレット』、07 年『ニュータウン入口』、10年『ジャパニーズ・スリーピング』、13年『夏の終わりの妹』と旺盛に舞台作品を発表する一方でエッセイ、小説の執筆等活動は多岐にわたる。2000 年より、京都造形芸術大学で、2005年から2012 年まで早稲田大学で専任教員として教壇に立つ。2016年4月、早稲田大学文化構想学部教授就任。

司会 早稲田大学の中で芸術監督という位置付けそのものも、まだまだ議論が始まったばかり。宮沢さんから、今後の方針はありますか。

宮沢 一定のレベルに達した公演をすることは必要で、それがどらま館自体の価値を高めていくだろうと思いますね。また、学内には他にも公演できる場所(学生会館)があって、学生たちはそっちの方が気楽だと思っていることもあると聞きます。「どらま館は学校のものであって、学生のものではない」と学生が感じているのかもしれません。その壁を溶かして、少しずつ学生に浸透させていくことが必要です。公演という形ではなくても、演劇に関するシンポジウムなどのイベントをどらま館で行って、学生に来てもらうといいのでは。また、早稲田の学生演劇では演劇のノウハウは伝えられているが、脚本がうまくできていないとも聞く。それであれば、戯曲講座をやればいい。そのような演劇教育を通じて地を固めていくことで、劇場のレベルを上げていきたいですね。

平田 四国学院大学は小さな大学で、演劇コースがあって小劇場を持っています。大学と地域とのつながりが強く、大学が地域のアートマネジメントなどの人材を育成する、つまり四国四県のホールマネジメントをできる人材などを育成するということをしていて、公的な助成金を得ており、周辺地域の各ホールの職員が見学に来たり、一緒に作品を作ったり、アートマネジメントの講座を開催したりしています。どうやって早稲田の知を地域に還元していくかを考える必要がありますね。

松井 どらま館でフェスティバルなどのイベントをすれば、学生の間でも横のつながりができるのではないでしょうか。いろんな劇団が単発で公演をするだけだと、劇団も観客も横のつながりを得られず、相対的な評価を受けることもなく、ライバルになれない。それはもったいないですよね。

宮沢 フェスティバルは、一体感や横のつながりができるメリットもありますね。そういうことを継続していくことで、有機的なつながりができてくるといい。学内の劇団だけではなく他大学や外部の劇団に声を掛けて、ネットワークしていくことも大事だと思います。

松井 劇場で、芸術監督は誰かということは大きな意味を持ちます。どらま館でも、劇団側が宮沢さんに公演を見てもらえると思えば、学生のモチベーションは上がると思うんです。そのようにして、劇団が自発的に育っていくのでは。

平田 早稲田大学は、演劇の伝統はあるが、授業で実技はほとんどなく、俳優を育てるコースもない、しかし学生劇団が非常に活発である。そのようなアンバランスな状態で劇場を持ったのだから、どの方向に持っていくかということを相当議論する必要がありますね。

学生の自治を大事にしながら、教育機関としてのどらま館をどう展開していくか

宮沢 早稲田大学の場合、学校に守られて芝居をするのではなく、われわれは外側でやるんだという意識が、演劇に携わる学生の間に伝統的に存在している。

平田 それは発展途上国から中進国までの議論です。私たちが学生のころは、学生劇団といえば早稲田しかなかった。今は、早稲田出身の劇団よりも、他大学出身の劇団の方が、相対的に見れば活躍している。それは仕方ないと考えるのか、それとも、時代に合わせて早稲田も変わっていかなくてはと考えるのかは、早稲田大学の方たちが決めることです。社会が成熟してきて秩序ができると、正統な教育を受けた人間の方が強くなっていく。

宮沢 自治を大事にしつつ、大学の教育機関としてどらま館をどうしていくかということは議論が必要ですね。

平田 早稲田の劇団には優秀な人たちはたくさんいるけれども、分散していると思うんです。なので、例えば、宮沢さんがプロデュースして若い演出家を呼び、才能のある学生をオーディションで集めて、年に1本作るのはどうでしょうか。

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どらま館の楽屋にて

建物があるから劇場なのではなく、劇場は“作って”いくもの

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司会:射延憲児(いのべ・けんじ)演出家・早稲田小劇場どらま館企画責任者。

司会 劇場は10年、20年と長く続いていく。長い目で見たとき、どらま館は、どのように早稲田の地の利を活用していけばいいでしょうか。

宮沢 地域と一体になれるか、それをどう具体化していくかということにつきるのでは。また、僕は「演劇文化論」の授業を担当していますが、そのような授業で演劇に興味を持った人を、早稲田演劇の輪にどのように引き込むか。そういうシステムがあれば、どらま館もより活気を帯びていくと思いますね。

平田 僕は今年、ドイツのハンブルグで、福島を題材にした新作オペラを作っていました。主要スタッフ・キャストはほぼ外国人で、ドイツ人はほとんどいなかったのですが、それでも文句は言われないんです。それは、劇場のミッションの一つは、世界の財産になるような作品を作ってレパートリーにすることだからです。また、最初から福島を題材に作品を作るように言われた。ドイツやフランスの公共ホールでは、社会問題となっていることを取り上げ、議論の材料を提供するということがもう一つのミッションなのです。それは、答えを与えたり、プロパガンダを打ち出すというのではなく、演劇を通して考えてもらうことが大切だということです。大学が持つ劇場では、上演される演目について、「これは何だ」と学生や教員が議論するシステムが必要だと思いますね。レパートリーが世界の財産になると言っても、ローカルなものと離れているわけではありません。例えば、ポーランドのクラクフという都市に演劇大学がありますが、この100年以上、卒業公演は毎年『ハムレット』をしている。なので、クラクフの住人はハムレットについては非常に詳しく、批評眼があるんです。卒業公演を通じて、クラクフの演劇学校は市民に開かれている。高い水準で地域とつながれる方法を大学が持ち、それが大学の伝統や文化になって蓄積されていく。そういうことが、どらま館には求められているんじゃないかなと思います。

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松井周(まつい・しゅう)劇作家・演出家・俳優、劇団サンプル主宰。1972年東京都生まれ。1996年に平田オリザ率いる劇団「青年団」に俳優として入団。2007年に「サンプル」を旗揚げ、作家・演出家としての活動を本格化させる。バラバラの、自分だけの地図を持ってさまよう人間たちの彷徨を描きながら、現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。『自慢の息子』(2010年)で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。外部公演への戯曲提供や海外戯曲の演出にも意欲的に取り組み、脚本提供でも高く評価されている。2015年10月、12月、2016年2月には、早稲田小劇場どらま館にて、公演やワークショップを開催し、好評を博した。

松井 質の高い作品を作ることも一つですが、僕はどらま館で開催したワークショップを通じて、今の学生は身体感覚や五感のセンサーが鈍っているのではという感想を持ちました。それぞれが持っている身体感覚――例えば鉛筆を削って、スケッチを始めるなど何でもいいのですが、手で何かを作る感覚を学んでほしいと思います。学生に限らず、周辺に住む一人暮らしの老人の方などにも、ぜひどらま館のイベントやワークショップに参加してほしいですね。

宮沢 今、『つかこうへい正伝』という本を読んでいるのですが、そのころは6号館の屋上に勝手にアトリエを作っていた。そういう(大学側の)ゆるやかさは、あってもいいのかもしれないですね。

平田 僕が桜美林大学で教えていたころ、毎年、学生たちが自分たちで企画・制作して、野外劇をしていたんです。そうすると、事前に近隣にあいさつに行く。また、大学の警備員さんが「毎年楽しみで、今年は休暇を取って家族で見に行くんです」と言う。僕は、今の日本社会では、対立するのではなくて、味方につける方がかっこいいと思います。それが成熟した国家の芸術です。ただ、桜美林大学は、全くゼロからの開設だったので良かったのかもしれません。学生課から、「うちの学生が淵野辺駅前でチラシを配っているので、やめさせてください」と私のところに電話が入る。それに対して、「それは授業の一環です」と交渉していく。そういう一つ一つのことを築いていったのが良かったですね。劇場を、学生と一 緒に少しずつ作っていったんです。劇場というのは、ただ空間があるから劇場なのではなくて、劇場に“なって” いくものなのです。

若い才能を育てることは、劇場のもう一つのミッション――来場者との質疑応答

――早稲田大学の卒業生です。今は劇団に所属しており、どらま館に利用申請をしているのですが、公演の採用・非採用の基準は?

宮沢 作品のクオリティーですね。演技、舞台装置、照明、戯曲などを含めた総合的な演劇のクオリティーがどこまで達しているか。だから申請のときは、書類だけではなくてDVDなどの資料も提出してはどうでしょうか。

平田 通常の劇場では芸術監督の下にプログラムオフィサーがいて、意見を上げてもらったものを芸術監督が見てプログラムを採択する。早稲田の場合には、演劇専攻の大学院生がいるので、その方たちをプログラムオフィサーとして雇い、宮沢さんにレポートを出して決定していくというのが理想的では。

――他大学の学生です。演劇人の中には、若い世代を育てようという気持ちがない方もいると実感しています。そのような方とどう付き合っていけばいいですか?

平田 日本のアーティストは、後進を育てるメリットがない。僕たちは教員なので仕事としてやっていることもありますが、もう一つは、劇団を育てるとそれが実績となるのです。この10年、岸田國士戯曲賞作家の半分くらいは、私が芸術監督を務める「こまばアゴラ劇場」から出ていて、それがアピールポイントとなり、アゴラ劇場は公的資金を助成金として得ています。若い才能を発掘したり育てたりすることは、劇場のもう一つのミッションでもあるのです。

司会 今日は長時間ありがとうございました。最後に、どらま館芸術監督の宮沢さんから一言お願いします。

宮沢 芸術監督としては運営システムをまだ把握しきれていないのでその辺りを整理しつつ、いずれは「どらま館に行けば、何か面白い芝居をしている」というようにしていきたいと思っています。

左から、岡室美奈子 演劇博物館館長(文化構想学部教授)、松井周氏、宮沢彰夫氏、平田オリザ氏、射延憲児氏

 

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