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ゲーム理論で解く安全保障 集団的自衛権は抑止力になりうるか?

紛争はなぜ起こる?ゲーム理論で読み解く日本の安全保障問題

政治経済学術院准教授Exif_JPEG_PICTURE
栗崎 周平(くりざき しゅうへい)
専門:国際政治学

─応用数学の1分野である「ゲーム理論」。この理論の目的は複数のプレーヤーによる意思決定の相互依存関係を記述すること。例えば、人や組織間の紛争と協調のメカニズムを分析していく。栗崎周平准教授は、このゲーム理論を用いて、「戦争と平和」をめぐる国際政治の現況を読み解こうとしている。

ゲーム理論は、経済学の理論と捉えられがちですが、1970年代から国際政治学の研究とも深く関わってきました。国家間の紛争と協調のパターンを考察し、冷戦期の緊張関係の中で敵対国同士がコミュニケーションを図り、破滅的な帰結を回避するための論理を明らかにする研究が、ゲーム理論の発展の一端を担ってきました。まさに、安全保障問題を理解するのにぴったりの理論だといえます。

私は主に、ゲーム理論を用いた安全保障のモデル分析と統計データを用いた実証研究をしています。21世紀に入っても世界はいまだに多くの紛争を抱えています。紛争はなぜ起こるのか?史実をベースにその原因を解明し、平和の条件を考える材料として役立てるのが私の研究目的です。例えば、第2次世界大戦はなぜ起こったのか?「ヒトラーのせいだ」と断じるのは簡単です。世界恐慌に端を発する緊張状態の中で、なぜヒトラーはポーランドに侵攻したのか?ゲーム理論を用いて史実を読み解いていくことで、戦争につながる個々の事象の背後にある因果関係が浮き彫りになります。国際紛争データベースの統計分析を通して、この因果関係を実証的知見として確立することで、次の「ヒトラー」が現れた際にどう行動すべきかという指針を与えてくれるでしょう。

 ゲーム理論を用いて軍事同盟と国際危機の関係を分析するモデルの概略図。同盟の締結により、潜在敵国の攻撃に対し、「現状」を確保できる条件とそのメカニズムを明らかにできる


ゲーム理論を用いて軍事同盟と国際危機の関係を分析するモデルの概略図。同盟の締結により、潜在敵国の攻撃に対し、「現状」を確保できる条件とそのメカニズムを明らかにできる

同盟の強化が抑止力を高める効果は実証できていない

昨今、大きな注目を集めているのが、「集団的自衛権」の問題です。推進派は、日米同盟の強化が隣国との摩擦の抑止力になり、日本の平和が担保されると主張します。これに対し反対派は、日本が海外での軍事行動に加担することで、他国間の紛争に巻き込まれると反論します。しかし、いずれの主張も実証的な知見に基づく科学的な根拠があるとは言い難いのです。

国際危機や抑止のデータを分析した数多くの実証研究は、同盟を締結していたとしてもその国の抑止力を必ずしも高めることにはならないことを示しています。むしろ、一両日中に紛争地に展開できる緊急展開部隊の数で優位に立つことの方が抑止力につながるのです。これが、エビデンスに基づいた実証研究の知見です。一方で、集団的自衛権行使が戦争に巻き込まれることにつながるという反対派の主張も、エビデンスがないため、印象論の域を出ません。集団的自衛権の行使という国家の安全保障政策の大転換は、国際政治の歴史の中でもまれですので、日本独自のオリジナルな研究として世界に発信するチャンスでもあります。

世の中のさまざまな事象を科学的に評価する視点が重要

軍事同盟は、国家が採用する安全保障政策の最も伝統的な選択肢です。日本の防衛政策が日米同盟に深く依存しているのも事実です。しかし、日米同盟を強化することに対して世論の反発も大きい。では、合理的な解決策とはどのようなものなのか?これを根拠のない理想論ではなく、科学的なアプローチで追究していく視点が、安全保障と平和主義の両立を図る上でますます重要になっていくでしょう。

こうしたモデル分析やデータ分析を通して、この世界のさまざまな言説・主張を論理とエビデンスに基づいて客観的に評価するトレーニングとなります。また、研究で得た知見を論理的に説明する力も鍛えることができるでしょう。これらは国際政治を理解するだけでなく、将来ビジネスの場などでも強い説得力を持つ武器になるはずです。

もっと詳しく!お薦め図書
『国際紛争と協調のゲーム』
鈴木基史・岡田章編/有斐閣/2,808円(税込み)国際紛争と協調のゲーム

 

国際紛争の具体的な事例を、ゲーム理論を用いて読み解いていく新しいタイプのテキスト。ゲーム理論の基礎的概念を分かりやすく紹介し、それを応用することの醍醐味(だいごみ)を国内の気鋭の研究者たちが解説している。

 

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プロフィール 1998年、上智大学法学部卒業。2005年、ハーバード大学ジョン・M・オーリン戦略研究所国家安全保障フェローを経て、2006年、テキサスA&M大学政治学部助教授。2007年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Ph.D. (政治学)取得。2013年より現職。主な研究分野は、国際政治学、数理政治学(応用ゲーム理論)。現在は、集団的自衛権の問題が安全保障関係に与える影響の分析なども行う。

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