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日本のエネルギー事情と今後の展望

理工学術院 教授 栗原 正典

理工学術院 教授 栗原 正典

 

福島第一原子力発電所の事故をきっかけに日本のエネルギー事情への関心が一気に高まっています。放射能への不安から“原子力に頼らない社会の実現”に世の中の流れは向かっていますが、資源が乏しく、石油や天然ガスなどエネルギー資源の大半を海外からの輸入に頼っている日本では、将来への不安があります。そこで今回は、日本のエネルギー事情と今後の展望について、理工学術院の栗原正典教授に解説していただきました。

 

Q1 これからの日本の主力エネルギーはどうなるのですか?
A  福島第一原子力発電所の事故によって、脱原子力依存が必然的な流れになってきました。そこで、太陽光発電や風力発電などの再生可能な自然エネルギーの利用に期待が集まっていますが、これら自然エネルギーには、気象条件によって出力が変動する、面積当たりのエネルギー密度が低い、コストが高いなど、解決しなければならない課題が山積していて、その解決にはまだ時間を要します。従って、短~中期的なエネルギー問題の解決には、現在でも一次エネルギー(電力やガソリンなどのすぐに利用できるエネルギーの基になるエネルギー)の8割以上を占めている化石エネルギー、とりわけ比較的クリーンで利便性の高い天然ガスを中心に据える以外に方法はないと考えられます。ただし、中~長期的なエネルギーシステムを構築するためには、化石エネルギーの枯渇や環境への負荷を考慮しなくてはなりません。

Q2 石油や天然ガスはあと50年くらいで枯渇してしまうのですか?
A
  井戸を掘れば吹き出てくるような石油や天然ガスを「在来型」と呼びますが、この「在来型」の石油の確認埋蔵量(現時点の技術と経済性で今後確実に生産できる量)は世界で約1兆2,000億バレル(1バレルは約159リットル)、天然ガスの確認埋蔵量は約6,500兆立方フィート(1立方フィートは約0.028立方メートル)と評価されています。確認埋蔵量を現在の年間生産量で割ったものが可採年数ですが、石油の可採年数は約45年、天然ガスは約60年と試算されています。これらの単純計算値に基づいて、石油や天然ガスがあと50年くらいで枯渇すると言われることが多いのですが、それは全くの誤解です。

まず、「在来型」には現時点では発見されていないものがあり、過去の統計や地質学的な研究によると、今後新たに発見されると推定されている埋蔵量(可採量)は、石油が約5,000億バレル、天然ガスが約3,000兆立方フィートです。また、現在の技術や経済性では生産できないものの、将来技術が進歩すれば生産ができると予測されている埋蔵量があります。これを埋蔵量成長と呼びますが、この量は石油が約4,000億バレル、天然ガスが約2,000兆立方フィートと考えられています。さらには、「在来型」に加え、最近では「非在来型」と呼ばれる石油や天然ガスを効率よく生産することが可能になりつつあり、一部の「非在来型」石油や天然ガスは既に商業生産されています。「在来型」よりも重くて粘度も大きい重質油・超重質油・ビチューメン、浅部に堆積していて熟成度の低いオイルシェール、最近世界を騒がせている根源岩中のシェールオイル、「革命」とまで言われているシェールガス、炭層中に存在する炭層メタンガスなどが、「非在来型」石油・天然ガスの代表的なものです(図1)。これらの「非在来型」石油・天然ガスの可採量の推定は難しいのですが、少なく見積もっても、石油が約2兆バレル、天然ガスが約8,000兆立方フィートと推定されています。従って、新規発見と埋蔵量成長を加味すれば、「在来型」だけでも可採年数は石油が約80年、天然ガスが約100年となり、さらに「非在来型」を加えれば、石油も天然ガスも可採年数は150年以上になると推定されています。

在来型石油・天然ガスと様々な非在来型石油・天然ガスの分布(EIA資料に加筆)

在来型石油・天然ガスと様々な非在来型石油・天然ガスの分布(EIA資料に加筆)

Q3 日本の石油や天然ガスなどの状況やエネルギー事情はどうなっていますか?
A 
 日本には「在来型」の石油や天然ガスはほとんどなく、各々の消費量の0.3%と3%を生産しているに過ぎません。また、「非在来型」については、最近、秋田県でシェールオイルが試掘されましたが、その埋蔵量はそれほど大きくなく、日本のエネルギー事情を変えるようなものではありません。しかしながら、日本近海には夢の「非在来型」天然ガスとして注目されているメタンハイドレートが多量に賦存し、それに含まれているメタンの量は、試掘が行われた東部南海トラフだけでも日本のガス消費量の13年分、日本全体では100年分以上に相当すると推定されています(図2)。現在は生産試験を行っている段階で、実用化までにはまだ時間を要しますが、実用化に向けた研究では日本が世界をリードしていて、日本の石油・天然ガス開発技術の向上や、天然ガスを海外から輸入する際の価格交渉を有利にすることにも大きく貢献するはずです。また、日本はガスコンバインドサイクル発電や石炭ガス化複合発電など、省エネルギー・エネルギー効率向上に向けた高い技術を有しています。環境保全面でも、地球温暖化の原因の一つである温室効果ガスを、発電所などの排気ガスから分離・回収して地下に圧入・隔離してしまうCO₂の回収貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)が研究されていますが、日本の技術は世界的に注目されています。

人工の地震波によってBSRが確認された場所には、メタンハイドレートが賦存していると期待できる

人工の地震波によってBSRが確認された場所には、メタンハイドレートが賦存していると期待できる

Q4 しばらくは石油や天然ガスに頼っていても大丈夫ですか?
A
  いくら石油や天然ガスがまだ豊富にあると言っても、化石資源はいつかは必ず枯渇します。そのときのために、また、化石エネルギーを無駄遣いしないために、さらには環境保全のために、新しいエネルギー源を確保する必要があります。主力エネルギーを別のエネルギーに替えるには、数十年かかります。石油や天然ガスはどんなに少なく見積もってもあと100年は安泰だとは思いますが、だからこそ、その間に、時間がかかっても着実に次世代のエネルギーを開発しなければなりません。当面は石油や天然ガスへの負荷を地産地消型の再生可能エネルギーで軽減し、エネルギーの多様化で安全保障を確保しつつ、CCSなどで環境への影響を最小限にとどめるしかないと思いますが、その先は核融合などの水素エネルギー、地熱や海洋を利用したエネルギーなど、真の意味で再生可能でエネルギーとしての質の高いもの(エネルギー投資効率・経済性・エネルギー密度・安定性・貯蔵性・運搬性・汎用性・柔軟性が高く、環境への影響が少ないもの)の開発が期待されます。石油・天然ガスが本当に「あと50年」になってから慌てて次のエネルギーを探そうとしても手遅れです。
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■くりはら・まさのり
早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了後、日本オイルエンジニアリング株式会社に入社。数々の油層評価、シミュレーションスタディ、シミュレータの開発・改良および教育・研修のプロジェクトに従事。在職中にテキサス大学大学院石油工学科博士課程でPh.D.取得。メタンハイドレート生産手法の研究で文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞。一昨年、現職に就任。主な著書(共著)に『石油・天然ガス資源の未来を拓く』(石油技術協会)、『天然ガスのすべて』(コロナ社)など。

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