Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

LGBTの人々と家族 誰もが人を愛することを認められる社会へ

誰もが家族になれる社会

国際学術院 准教授 グレッグ・ドボルザーク

1973年、米国フィラデルフィア生まれ。マーシャル諸島共和国と米国ニュージャージー州で育ち、高校時代に宮崎県に留学し、1年間早稲田大学にも在学。2004年、ハワイ大学太平洋諸島地域研究専攻の修士課程を修了。オーストラリア国立大学アジア・太平洋地域研究所やジェンダー研究所で比較文化と歴史学を専攻し2008年に博士号を取得。一橋大学と東京大学の教員を経て、2017年より現職。カルチュラルスタディーズ、ジェンダー論、アジアと太平洋地域論、現代アート論を担当。太平洋諸島地域におけるマイノリティの現代アートを中心に、キュレータとしても活動中。

近年、日本でも「LGBT」というキーワードが耳目に触れる機会が増えてきた。しかしながら、本来、セクシュアリティに区分は存在しない。男と女というジェンダーの区分は、時代のイデオロギーなのだ。

歴史的に見るセクシュアリティ

セクシュアル/ジェンダーマイノリティを示すLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)について、他人事だと思っている人は多いと思う。しかし、電通ダイバーシティ・ラボが行った「LGBT調査2015」によれば、LGBTの該当者は7.6%で、カミングアウトしない該当者も含めれば、もっと多いはずだ。この数字は、誰もが日常的に該当者と接していることを意味している。

歴史を振り返れば、江戸時代の日本では、井原西鶴の『男色大鑑』に書かれているように男同士の恋愛は受容され、むしろ武士道においては男色が非常に男らしいものとされていた。しかし明治時代以降の西洋化に伴い、キリスト教と当時の西洋医学の影響を受け、20世紀以降日本でも「同性愛者」という言葉(homosexualの直訳)が使われるようになり、偏見の対象となった。

一方、同性愛を差別の対象とし、州によっては犯罪と見なしていた米国では、1960年代にゲイ解放運動が起こり、1977年には米国で初めてゲイであることを明らかにして立候補し、当選した政治家、ハーヴェイ・ミルク サンフランシスコ市会議員が誕生し、人権運動が盛んになった。ところが、1980年代にHIVの感染がたまたま男性の同性愛者間で広まったことから、「ゲイのがん」という勘違いが起こり、再び偏見が強くなっていくのである。

トランスジェンダーは障害ではない

“性”や“生”の多様性を祝福する場を作ることをミッションに、毎年、東京・渋谷や原宿で行われている「東京レインボープライド」。2017年の来場者数は延べ10万人以上に及んだ(写真提供:特定非営利活動法人 東京レインボープライド)

日本社会では、ジェンダーマイノリティに対する差別も大きな課題である。現在の日本において、トランスジェンダーという言葉は保健体育の教科書に掲載されているような医学的ニュアンスをもって捉えられていることがある。これは、米国精神医学会が、疾患や障害を分類する手引き「精神障害の診断と統計マニュアル」で第4版までは、身体と心の性が一致しない状態を「性同一性障害」(gender identity disorder)としていたことがきっかけだと考えられる。同マニュアルの第5版(2013年)では、ジェンダーアイデンティティと性が一致しない状態そのものを「障害」とみなさず、「性別違和」(dysphoria)による精神的な悩みだけを治療の対象にしたが、日本では相変わらず「性同一性障害」という言葉が使われ、「障害」として捉えられていることは多い。

しかし、国によっては社会的偏見が少なく、自分のジェンダーに違和感を生じていない人々もたくさんいる。例えば、太平洋島嶼国(とうしょこく)であるサモアには男性の身体で女性の心を持つファファフィネ(第三の性)が存在するが、社会に受容されているため、本人たちは特に違和感やコンプレックスを感じていない。つまり問題となるのはジェンダーアイデンティティ(あるいはセクシュアリティ)そのものではなく、本人が違和感を感じざるを得ない外部環境なのだ。違和感によって引き起こされたうつ病による自殺者は、後を絶たない。だからこそ全ての人が、自分のジェンダーとセクシュアリティに違和感を感じずに済む社会をつくる必要があるのだ。

同性のカップルをめぐる結婚という権利

同性愛者の人権を考える上で、婚姻制度は重大なトピックである。法律によって家族であることを認められれば、さまざまな権利が与えられる。万が一片方が事故にあったり、突然倒れ病院で手術をすることになった際、承認のサインができるのは法的に認められた家族だけだ。また、国籍が異なるカップルが結婚していれば、片方が帰国するときや別の国に転勤になったときに配偶者ビザが下りることもある。婚姻が認められていないだけで、法的にさまざまな障壁が立ちはだかる。

デンマークでは、1989年に世界初となる、異性間の婚姻とほぼ同一の法的権利が認められる「登録パートナーシップ」制度が施行された。そして段階を経て、ヨーロッパの他の国々、南アフリカ、カナダ、アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、ブラジルなどが同性婚を導入した。2015年には米国の全ての州で同性婚が承認され、国家レベルで異性婚のカップルと平等の権利が認められた。2017年5月には台湾の司法院大法官会議が、婚姻は男女間に限るものではないという解釈を公表し、アジアでは初めて、同性婚が合法化される見通しとなっている。

日本ではいまだ同性間の婚姻は認められていない。2015年に東京都渋谷区が「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を施行し、同性同士のカップルにパートナーシップ証明が発行されるようになったが、相続や税金の配偶者控除はなく、法的に認められた婚姻とは異なっている。東京都世田谷区、兵庫県宝塚市、三重県伊賀市、沖縄県那覇市、北海道札幌市でも渋谷区の証明書と同じような書類を同性カップルのために発行するようになったが、同性婚とは違って、法律上の効力は全くない。

徐々に同性同士のカップルの人権が認められているものの、国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)による世界の性的指向に関する法律の調査(2015年)によれば、同性愛を違法とする国は73カ国あり、スーダン、イラン、サウジアラビアなどでは、死刑が課せられているという現状があることも考えなくてはならない。

同性愛行為が法律上、死刑や禁固刑と定められていない国や地域でも、宗教による道徳律として禁止され、死に直面している当事者は多数いる(出典:特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ)

※「性的指向に関する世界の法律」ILGA2016を参考に、2016年8月までに同性婚が成立した国を加味して制作
※1つの国の中で半分以上の地域が平等な婚姻を認めている場合は、その国は濃い緑色(婚姻)で表示
※プロパガンダ禁止法:未成年者が含まれる公衆の前で、自らが同性愛者であることを表明する行為を禁止する法律

他人事ではない人権と愛に関わる話

こうした状況を他人事として静観していることは、結果として、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)と変わらない。そもそもセクシュアリティは、白黒はっきりつけられるものではなく、大きなグラデーションの中で誰しもがグレーなものだ。「LGBT」というカテゴライズや、「そういう人たちもいるのだ」という理解だけでは足りない。誰もが人を愛することを認められ、結婚や子育てなどの家族の絆をつくることに参加できる社会に変えていくために、全ての人間に行動することが求められている。

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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