Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈子ども家庭福祉学〉あなたの知らない家族のかたち

子どもの権利と社会的養護の向上を目指して

人間科学学術院 教授 川名 はつ子(かわな・はつこ)

お茶の水女子大学文教育学部卒業後、出版社編集部、帝京大学医学部勤務等を経て、2003年から早稲田大学人間科学学術院で児童福祉を担当。専門は障害のある子どもたちの社会的養護で、実親と離れて暮らす子どもたちが、家庭的環境の中で育つよう、施設養護から里親養育・特別養子縁組への転換に「早稲田大学里親研究会」の学生たちと共に取り組んでいる。また、社会福祉士資格と博士(医学)の学位を生かして、ソーシャルワーカーの養成に当たっている。

子どもには、家庭で育つ権利がある。しかし近年、さまざまな理由で家族と一緒に暮らせない子どもが増加している。子どもたちが家族と共に暮らす権利を擁護する関わりが必要とされている。

家族がいない、いても一緒に暮らすことのできない子どもたち

子どもの権利条約「第12条 自分の意見を自由に言える権利」©チャーリー・ノーマン

家族がいない、家族がいても児童虐待・親の受刑・失踪・ギャンブルや薬物依存症などのため一緒に暮らせない…。そんな子どもが日本には約4万5千人いる。中でも児童虐待は急増し、2016年度の速報件数は12万件を超えた(厚生労働省、2017年)。親から離れて暮らす子どもたちの8割余りは乳児院や児童養護施設などで集団生活を余儀なくされており、里親家庭やファミリーホームで育っている子どもは2割弱に過ぎない。私は、2005年に早稲田大学里親研究会(里親研)を立ち上げて以来10余年間、学生たちと共にこの割合を逆転させることを目指して活動してきた。

そんな折、厚労省が2017年7月に突然公表した「新しい社会的養育ビジョン」に接し、里親研に衝撃が走った。私たちがずっと模索してきてかなえられなかった目標が、次のように列挙してあったからだ。

① 子どもを地域で支援する体制をつくり、児童虐待に関しては、児童相談所(都道府県の機関)の指導の下、身近な市区町村でハイリスク家庭を支援し、予防を図る

② それでも親と離れて暮らさざるを得ない子どもは、施設ではなく里親や特別養子縁組を基本とする

③ 里親への委託率は現在の2割未満から、75%に増やし、特に就学前の乳幼児は乳児院への入所を停止し、全員家庭で養育する

子どもは家庭で育つ権利を持っている

子どもの権利条約は、1989年に国連の総会で採択された国際条約である。日本も1994年に批准したので、国内法をこれに適合させ、条約を具現化する必要がある。しかし子どもの権利を日本に根付かせることは困難で、地方議会で「子どもの権利条例」を制定しようとすると、アレルギーが起こり、権利でなく「子どもの人権」と言い換えるとやや抵抗が薄らぐといったありさまだ。したがって、国連子どもの権利委員会からの度重なる是正勧告を受け、2016年の児童福祉法改正で、ようやく子どもの権利条約に則り「子どもの最善の利益を守る(第3条)」「名前や国籍を持ち、親に育ててもらう権利(第7条)」「両親と共に暮らし、歩んでいく権利(第9条)」「親からの虐待や放任から守られる権利(第19条)」「家庭環境を奪われても、ふさわしい環境で生活できる権利(第20条)」などが明文化されたのは画期的なことだった。続いて、これを具現化するべく新しいビジョンが打ち出されたのだが、内閣府や厚労省内部でも寝耳に水状態だというし、財源が伴っていないので、このままでは絵に描いた餅になってしまいそうだ。

子どもは自分で親を選ぶことはできず、日々成長していく存在なので体制が整うまで待たせることはできない。一刻も早く子どもたちを受難から救い出したいと、里親研の有志は勉強会や街頭行動に動き出し、毎月の定例会にそれを反映させようとしている。並行して、「絵本から見る子どもの権利 ~スウェーデンの画家からの贈り物~」全国巡回イラスト展や、子どもでも読めるやさしい訳文をつけた『はじめまして、子どもの権利条約』の絵本(東海大学出版部、2017年)を通じて、子どもの権利の普及啓発を図っている。

子どもの権利条約「第9条 おとうさん・おかあさんと共に暮らし、歩んでいく権利」 ©チャーリー・ノーマン

スウェーデンの、子どもの権利を基盤にした北欧型社会的養護に倣って

私は「伊・瑞(※1)の子どもの権利基盤型アプローチに学び、日本の社会的養護の向上をめざす試み」をテーマに研究を行っている。2017年度はスウェーデンの調査を行い、日本の子育てや養子里親の現状と比較している。スウェーデンは、1990年にいち早く子どもの権利条約を批准し、体罰のない平和な社会を実現して人口の減少を食い止め、少子化社会を克服しつつある。私は2017年9月、3度目のスウェーデン訪問調査時に、「これは海外から逃れてくる難民が移民として定着し子どもを産み育てているからではないか」とストックホルム大学で質問したが、1.8~ 1.9に回復した合計特殊出生率(※2)に人種別の内訳はないとのことだった。

近年はシリアやアフガニスタン、イラクなどから内戦を逃れた難民が、イタリアやオーストリア、ドイツなどを経由してスウェーデンに押し寄せ、2015年には最高の16万人に達し、累積では100万人を超えている。中にはせめて子どもだけでも国外に逃れてほしいと送り出された18歳未満の「児童難民」も多数含まれ、一時的に施設に保護されて認定されるのを待っている。人口1,000万人余りのスウェーデンでこれだけの難民を受け入れるのはさすがに無理が大きく混乱を極めたが、欧州連合(EU)の入り口で規制され、翌年から2 ~ 3万人に落ち着いた。児童難民も本人が望む場所で自立していけるように里子として家庭に迎え入れるなど、元通りの手厚い援助に戻れるだろうと現地で支援に当たる自治体やNPOの関係者は語っていた。このように、海外からの移民難民の子どものケアが、スウェーデンの社会的養護の主要な課題になっている。

イタリアの南欧型社会的養護に倣って

一方、2013年春から1年間滞在したイタリアでは、親と離れて生きる子どもに安定した地位を与えるため、実親の元に復帰できない子どもは、2年過ぎたら未成年裁判所の審判を受けて養子縁組することになっていることを知った。フィレンツェやシエナなど西北部の都市で、ロシアや東欧諸国、アフリカなどから迎えた養子を、親族や学校の教員、隣人たちの手を借りて温かく育てているさまを見聞きしてきた。18歳までは里親手当を受給しながら里子として育てるスウェーデンとは異なる、養子縁組型のイタリア式社会的養護システムを考究するため、2018年度は共同研究者たちにも分担してもらい、イタリア調査を行うつもりである。

※1 イタリア・スウェーデン
※2 1人の女性が生涯に産む子どもの数で、これが2をやや上回れば人口は減少せず、維持される。日本やイタリアは1.3 ~ 1.4程度で低迷し、人口減少に向かっている

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年)のものです。

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