Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈応用健康科学〉家族の健康づくり

健康な家族生活が豊かな社会を実現する

スポーツ科学学術院 教授 荒尾 孝(あらお・たかし)

福岡教育大学教育学部卒業後、順天堂大学大学院体育学研究科修士課程修了。財団法人明治生命(現・明治安田生命)厚生事業団体力医学研究所勤務、昭和大学医学部衛生学教室非常勤講師などを経て、2005年より現職。専門は、公衆衛生学、疫学、健康教育学。
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http://www.f.waseda.jp/tarao/

健康であることは、人々が幸福に暮らす助けとなる。
親と子によって成り立つ家族は、それぞれの世代で健康を脅かす要因が異なる。
家族が健康で幸福に生活を送るために必要なものとは。

家族の健康問題

今後わが国では、少子高齢化に対応した「豊かで活力ある長寿社会」を実現することが強く求められる。そのための対策として「国民の健康づくり」に対する期待が大きくなっている。社会の共同生活の最小単位である「家族」は私的生活の場を通じて人間の基本的な欲求を満たし、健康を守り、心身の安定と幸せの実現を図るという重要な機能を有している。したがって、家族の健康づくりは、今後のわが国の新たな社会づくりに大きく関係していることになる。

わが国の国民の約3人に2人は悪性新生物(がん)、心疾患、肺炎、脳血管疾患(脳卒中)で死亡している(図1)。死亡原因を家族の世代別に見ると特徴的なパターンが認められる。子ども世代においては、14歳までは悪性新生物と不慮の事故が多いが、15歳以降は自殺が最も多くなる。中でも20 ~ 29歳では自殺が全死亡数の50%近くを占めている。その後の親世代においては、40歳からは悪性新生物が死因のトップとなり、60歳代では全死亡数の50%近くを占めている。70歳以降の高齢者世代になると、心疾患がトップとなり、肺炎や老衰といった高齢者特有の死因が増加してくる(図2)。また、医療機関の受診では高血圧性疾患が最も多く、次いで糖尿病、高脂血症の順となっている。さらに、病気やけがなどで自覚症状のある者は人口千人当たり305.9人で、男性よりも女性で高く、年齢が高くなるにしたがって上昇している。それらを症状別に見ると、男女共に「腰痛」「肩こり」「手足の関節が痛む」などの運動器系の症状が上位を占めている。

厚生労働省 平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況

出典:厚生労働省ウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/index.html

厚生労働省 平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況

出典:厚生労働省ウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/index.html

家族の健康問題の関連要因

家族の世代別の死因にはどのような背景が存在するのか。思春期からの自殺の背景にはうつ病(躁うつ病)があり、その発症には家族や友人との関係性における自身の立場や役割よりも、自身への愛着を優先するといった性格的特徴や社会的孤立やストレスといった要因が関連している。何らかの理由やきっかけで虐待行為の対象となった子どもは大きなストレスを受けるとともに、仲間や家族から孤立し、周囲からの支援を受けることができなくなることでうつ病を発症する。親世代の健康問題は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患といった生活習慣病であり、それらの疾病の発症には運動、栄養、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が大きく関係している。また近年、新たな問題となっている中年期のうつ病は、真面目で、仕事熱心で、責任感が強いといった性格特性の人に多く発症し、家庭や職場で多種多様なストレスを受けることで心身に大きな負担がかかり、孤立することで発症する。高齢者世代の健康問題は自立能力障害であり、関節痛などの運動器系障害と認知症などの精神的機能障害が大きな問題となる。自立能力障害は高齢者本人のみならず、家族にとっても大きな介護負担となることから、家族全体の問題となる。これらの障害には加齢が関係しているが、運動や身体活動、社会参加や知的活動などの日常生活の在り方も大きく関係している。

家族の健康づくり

家族の健康問題を解決するためには、まず、家族の一人一人が健康に関心を持ち、健康問題に気付き、解決の意思決定をし、行動を実施・継続するといった問題解決能力を高めることが重要となる。中でも、問題解決に必要な情報を取得し、理解し、活用する能力であるヘルスリテラシーが重要となる。その上で、家族で健康問題に関する情報を共有し、問題解決の方法について話し合い、行動を支援するといった家族間のヘルスコミュニケーションを強化することが重要となる。特に、うつ病や自殺といった問題の解決には、このような家族間のコミュニケーションが重要な予防対策となる。また、生活習慣病の予防には、まず子どもの頃に望ましい生活習慣(運動、食生活、休養、喫煙、飲酒)を獲得させることが重要となる。そのためには、親の生活習慣の在り様が子どもに大きく影響することから、家族全体の問題として取り組む必要がある。

さらに、親世代においては問題となる生活習慣を改善することになるが、長年の行動の結果として定着した生活習慣を変えることは、個人の努力のみでは困難だ。家族や周囲からの支援が重要となる。このように、家族の健康づくりを成果あるものにするためには、個人の健康問題解決能力を高めるとともに、家族間で問題を共有し、相互に支援し合うような家庭環境を整えることが重要である。

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※本書の記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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