Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

縮小都市、多様化家族に必要なのは柔軟かつ大胆な発想で作る社会の仕組み

ライフコースの変化がもたらす人口減少

教育・総合科学学術院 准教授 山内 昌和(やまうち・まさかず)

専門分野は地理学。2003年に東京大学大学院博士課程を修了後、国立社会保障・人口問題研究所において将来の人口や世帯数の推計、家族や世帯に関する全国調査などに関わる。2017年4月より現職。

日本における人口減少は、都市部でも問題となり始めた。減り続ける人口の実態と、典型のなくなりつつある現代の家族はどのように関わっているのか。

縮小する都市

日本の都市の多くが縮小、すなわち人口減少に直面している。日本全体の人口が減少していることを考えれば驚きはないかもしれない。しかし「東京」という都市(ここでは埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の一都三県とする)でも縮小が始まっているとすればどうだろうか。

2010-2015年の「東京」全体の人口増加率は1.4 %と、2000-2005年の3.2%に比べ低下している。これを市区町村別に見たものが下図である。人口増加率が周辺部で低く、中心部で高いという地理的特徴に変化は見られないものの、2010-2015年の人口増加率は2000-2005年と比べ総じて低くなっており、それとともに人口が減少する市区町村数が増えている。これはあたかも「東京」という都市の周辺部から中心部に向かって人口減少が広がっていき、「東京」全体の人口増加率を低下させたかのようである。ちなみに政府の将来推計人口によると、「東京」全体の人口増加率がマイナスに転じるのはもう間もなくのことである。

ところで、「東京」のような都市においても人口が減少するといった現代日本の状況は、実は家族の形の多様化とも関連している。次にその点を見ていこう。

出典:平成12年国勢調査、平成17年国勢調査、平成22年国勢調査、平成27年国勢調査

※東京23区は区別、他は市町村を単位としており、境域は2015年10月1日現在のもの。ただし、島嶼部は紙幅の都合で含めていない。

多様化する家族の形

1980年代ごろから日本では人々のライフコースに変化が見られるようになってきた。結婚して子どもを持つことが圧倒的多数であった状況から、未婚のままでいることや、結婚しても子どもを持たなかったり離別したりする人々が少しずつ増えていったのである。その結果、家族の形は多様化した。

その実態を示すのが下表である。同表は、全国の35-39歳人口を対象として、有配偶、未婚、死離別という配偶関係別人口の割合と、それぞれの所属する世帯の家族類型別人口の割合を2000年と2015年で比較したものである。男女別に見ると、それぞれの時点で割合の差はあるものの、2000年から2015年にかけてのそれぞれの割合の変化の仕方はおおむね一致している。

さらに配偶関係とその家族類型別に細かく見ていくと、まず「有配偶」の割合は低下している。このうち、「夫婦と子供からなる世帯」および「3世代世帯」の割合が低下しているのに対して、「夫婦のみの世帯」の割合は上昇している。次に「未婚」の割合は上昇しており、「単独世帯」および「単独世帯以外の世帯」の割合はいずれも上昇している。最後に「死離別」の割合はほとんど変化していない。ただし、前述したように「有配偶」の割合が低下していることを鑑みると、結婚経験者の中での死離別経験者の割合自体は増えている。

このような家族の形の多様化は、結果的には日本という社会全体の人口減少をもたらすことになった。なぜならば、日本のように子どもを持つことが結婚と強く結び付き、なおかつ子どもを持つ場合の平均子ども数が2人であるような社会では、結婚しない人が増えるほど出生率の低下につながる。さらに出生率の低い状態が続くことで必然的に人口は高齢化し、死亡数が出生数を大きく上回るようになる。その結果、「東京」のような都市を含めて日本の人口が減少することになるのである。

出典:平成12年国勢調査、平成27年国勢調査

※割合の算出に際し、配偶関係不詳は計算から除いた。
※未婚の所属する世帯の家族類型のうち、「単独世帯以外の世帯」の大部分は親と同居する世帯である。
※死離別の所属する世帯の家族類型は、いずれも少数のため割愛した。
※四捨五入の関係で割合の合計は100にならないことがある。

新しい時代に向けて

しかしながら家族の形の多様化は、人々の前向きな選択の結果でもあった。かつては結婚して子どもを持つことが当たり前であったが故に、例えば結婚しなかったり子どもを持たなかったり、あるいは結婚以外のパートナーシップを築いたりといった人生を選択することは困難であった。そのような社会を人々が変えていき、希望するライフコースの実現を少しずつ可能にしてきたのである。

その一方で、結婚することや子どもを持つことを望んだにもかかわらず実現できない人々が増えたのも事実である。この点を改善するためには、個々人の多様なライフコースの選択を制約する社会制度に潜む問題、具体的には長時間労働やカップル内での役割関係、多額の子育て費用等々を改善していくことが必要である。間違っても、人口減少を悲観するあまり、過去の皆婚社会を理想化し、結婚や持つべき子どもの数を人々に強いるようなことがあってはならない。

この先私たちは、「東京」のような都市を含めて人口が減少するという、近代以降の社会がいまだ経験したことのない時代を迎えようとしている。今私たちに求められているのは、既存の枠組みにとらわれず、柔軟かつ大胆な発想と知恵をもって新しい社会の仕組みを作っていくことではないだろうか。

(『新鐘』No.84掲載記事より)
※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年)のものです。

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