Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

ホッピー中興の祖・3代目石渡社長「実践と学問、二足のわらじを履いて」

祖父が創業したホッピービバレッジの3代目として、経営の手腕を振るう石渡美奈さん。一度は経営難に陥りかけた会社を立て直し、ホッピーブームを再興しました。家業への情熱、経営者としての思いについて、お話をお聞きしました。

ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長 石渡 美奈(いしわたり・みな)さん

1968年東京都生まれ。立教大学卒業後、日清製粉(現・日清製粉グループ本社)に入社。人事部に所属し、93年に退社。その後、広告代理店を経て、97年に祖父が創業したホッピービバレッジ(旧・コクカ飲料)に入社。広報宣伝、副社長を経て、2010年4月6日、創業100周年の年に3代目社長に就任。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。経営学修士(MBA)。

当たり前のように生活の中に家業がある

――ご幼少の頃、会社はどのような存在でしたか?

家業が、ごく自然に生活の中にありました。子どもの頃から会社のお餅つきなどの行事に参加していましたし、祖父が浅草にある映画館の売店の権利を持っていたので、集金に行くのにお供したりして、家族が働く姿を間近で見ていました。知らず知らずのうちに経営とはどういうものか学んでいたのかもしれませんね。

――家業を継ぐという意識は、いつ頃からありましたか?

看板商品「ホッピー」は1948年に石渡美奈さんの祖父・秀さんが開発。現在も根強い人気を誇る

一人っ子なので、いずれ跡を取るのだろうという意識は子どもの頃からありました。でも女である自分が社長になるとは思わず、どうすればよいのかをずっと悩んでいたので、「将来何になりたいか」という質問は苦手でしたね。そして、10代で編み出した答えが、お婿さんを迎えて社長になってもらい、自分は補佐として彼を支えるという方法です。今考えると、自分のことを全く分かっていませんでした。というのも、結婚までの腰掛けと考えていた最初の勤め先を寿退職したんですが、1カ月もすると、社会に自分の居場所がないことを寂しいと感じたんです。それで、すぐに広告代理店でアルバイトを始めました。その後、営業としてクライアントを持たせてもらい、仕事の面白さに一気に目覚めて、一生働き続けようと決意しました。

そんな折、会社が地ビールの製造免許を取得し、父が「酒づくりは男のロマンだ」と情熱的に語る姿を見て、急に家業への興味が高まりました。仕事は面白いという気持ちと実家の家業への関心が化学反応を起こし、3代目を継ぎたいと、父に申し出たんです。

――お父様の反応はいかがでしたか?

最初は反対されました。当時はまだ、男女雇用機会均等法が制定されて間もなく、女性の経営者は少なかったですし、その時点では、私の親戚が会社を継ぐという流れがあったので、父にしてみれば、後に起こる同族間のトラブルを危惧していたのだと思います。

企業の社長たちが集まる青年会議所でも、付き合いのあるオーナー企業の2代目、3代目の多くが、事業承継の際にトラブルに直面している様子をよく目にしていました。ですから、実際に私の身の上にも社内改革に対する社員の反発や後継者争いといったトラブルが起こったときは、本当の経営者になるためには避けて通れない道であり、「自分にもその時がきたか」と冷静に受け止めていました。

「 祖父だったらこうする」直感で分かる不思議

――家族で経営するオーナー企業のメリット、デメリットについて、どのようにお考えですか?

メリットの一つに、オーナー企業は社長の就任期間が長いので、長期スパンで経営課題に取り組むことができるという点があります。企業には良き文化も悪しき文化もありますが、長年かかって定着した悪しき文化を排除するためには、5年あっても足りません。社長職がポストの一つに過ぎず、3~4年ごとに交代する会社と比べれば、大きなテーマに取り組みやすいということは言えると思います。また、血のつながりなのでしょうか、何か経営判断を迫られたとき、祖父だったらこうするだろうということが直感的に分かるのは、不思議なものですね。自分の中に祖父がいるような感覚があります。

デメリットは、同族間のトラブルによって、社員に迷惑を掛けてしまう場合があるということです。オーナー家の平安を守り、社員が安心して働ける環境を維持することが何よりも大切です。

実践と学問、二足のわらじを履いて

――本学の大学院に入学された経緯を教えてください。

2002年に父から「いずれ経営のバトンを渡す」と言われた時に、経営を学ばなければと思い立ち、中小企業のコンサルタントである小山昇氏の門を叩きました。実践を通してさまざまなことを学んでいるうちに、当時、早稲田大学商学学術院の教授だった寺本義也先生に出会い、理論としての技術経営を学ぶことが必要だと確信し、何の迷いもなく早稲田大学ビジネススクールに入学しました。

――大学院での学びを通じて、どのようなことが得られましたか?

仮説検証をして数字の根拠をもって相手に解説することを学びました。経営には、哲学と数字の理解の両輪が必要です。哲学だけでは見えていなかったことが、数字を理解することで明確になっていきました。もちろん数字だけでは分からないこともあります。卒業間近のゼミで、寺本先生に「石渡さんは大学院で何を学びましたか」と聞かれた際、「40歳を過ぎてこれほど知らないことがあると思いませんでした!」と答えたところ、「大変良い学びをされましたね」と言っていただき、はっとしました。自分が無知であることを知ることこそが学びだと思います。

――今後の目標をお聞かせください。

祖父が立ち上げた家業を3代目としてしっかり引き継いでいくことはもちろんですが、実はもっと学びたくなって、現在も他の大学院で学んでいます。実践と学問の二足のわらじを履くことで、中小企業の経営者が持つ豊かな経験値と確かな勘をモデル化し、他の方でも再現できるものにしていきたい。学んだことを自社や世の中に還元していきたいと考えています。

 

(『新鐘』No.84掲載記事より)
※記事の内容は取材当時(2017年度)のものです。

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