ドストエフスキーが取り持つつながりに感謝
大学院文学研究科 博士後期課程 4年 泊野 竜一(とまりの・りょういち)
私は文学研究科の博士後期課程でロシアの文豪・ドストエフスキーの小説を中心に研究をしています。私がドストエフスキーの研究をするきっかけとなったのは、小説『カラマーゾフの兄弟』を読んだことでした。もともとは他大学の理工学部で電気化学を専攻しており、実験やデータ整理の合間の息抜きとして第二外国語でロシア語を履修したのですが、だんだんとはまっていき、その後もロシアとの不思議な縁が続いたこともあり、ついにはその大学でロシアサークルを立ち上げました。
ちょうどその頃『カラマーゾフの兄弟』の新訳がサークル員の間で話題となり、私も読むことになりました。当時はドストエフスキーに関する知識がほとんどなく、この大作家の小説の内容を全く理解することができませんでした。
普通われわれ人間は、理解できないものは嫌いになって突き放し、一切の関係を断ってしまおうとしたりするものではないでしょうか。ところが、なぜか私はドストエフスキーの難解な文章の魅力に取りつかれ、気付けば大学卒業後にはそのままそれを研究テーマとして選択し、現在に至るのです。優れた作品は時に本当に人生を変えてしまうことがあるものです。
研究の醍醐味(だいごみ)は、「ドストエフスキーに対する興味」という共通の絆で結ばれた、世界各国の研究者と仲良くなれるということでしょうか。2016年にスペインのグラナダで開かれた「国際ドストエフスキー学会第16回世界大会」において、スペイン、イタリア、米国、アルゼンチン、中国、日本などの世界中から集まった研究者が、お互いロシア語でコミュニケーションを取っている姿を見ながら、世界は多元であり、必ずしも国際共通語が英語ではない世界もあるということを痛感しました。あるいは、冷戦で、もしも、ソ連が勝利していれば、その暁には到来していたかもしれない世界、パラレルワールドに紛れ込んだような感覚に襲われました。
これからの目標は、ドストエフスキーの学会が縁となって知り合い、ロシア留学中に親睦を深め、結婚することとなったロシア人の妻に引き合わせていただいたドストエフスキーに感謝しつつ、ドストエフスキー研究を続け、その魅力を日本で広げていくことです。
ドストエフスキーの残した作品はあまりに巨大でテーマも多岐にわたり、ここでその全容をまとめることは、今の私の力量ではとても不可能です。しかし、ロマノフ王朝末期のロシアを舞台とする重厚なテーマと、それを描写するにふさわしい大長編…、ドストエフスキーの魅力は現在となっても色あせることがないのは確かです。文学が主要な大衆娯楽としての地位を他に譲り渡して久しいかもしれませんが、その魅力を現代日本の一人でも多くの読者と共に分かち合えれば、と考えています。
ある日のスケジュール
- 04:00 起床
- 06:30 早稲田キャンパス22号館地下1階コンピュータ自習室で研究
- 09:00 中央図書館へ移動して研究
- 10:00 学内でスチューデント・ジョブとして勤務
- 12:30 昼食。この後、休憩、研究、買い物、家計簿を付けたりなど
- 14:45 ロシア語原典購読の授業開始、その後ゼミ(18:00まで)
- 19:00 帰宅。21:00までに全ての家事を済ませ入浴
- 21:00 ロシアに住む妻とSNSにて就寝前まで会話。たまに起こる夫婦げんかもロシア語で反撃しなければならないのがつらいところ
- 23:00 就寝