Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈経営戦略論〉ファミリービジネスの強さと課題

伝統あるファミリービジネスを見直す

世界中に存在しているファミリービジネス(同族経営)。時代遅れだと思われるそれが、廃れることなく続いている秘密は何だろう。ファミリービジネスの強みと課題を探る。

商学学術院教授 淺羽 茂(あさば・しげる)

博士(経済学・東京大学)、Ph. D(management・UCLA)。学習院大学教授を経て2013年より早稲田大学商学学術院教授。『競争と協力の戦略』(有斐閣、1995年)、『日本企業の競争原理』(東洋経済新報社、2002年)、『経営戦略の経済学』(日本評論社、2004年)、「Why do firms imitate each other?」(Academy of Management Review、2006年)、「Patient investment of family firms」(Asia Pacific Journal of Management、2013年)など論文、著書多数。

 

 

裏切られた予想

現代企業では株式が分散所有され、専門経営者が経営を担うと予想されていた(A. バーリー&G. ミーンズ、『近代株式会社と私有財産』文真堂、1958年)。この考え方によれば、創業者一族が事業を所有し経営するファミリービジネスは、時代遅れで廃れるはずである。しかし、ファミリービジネスは現在、世界中にあまねく存在し、しかも業績が良いといわれている(図1)。

ファミリービジネスの特徴は所有と経営の一体化だけではない。「スリー・サークル・モデル」では、ファミリービジネスを構成する三要素として、ファミリー、ビジネス、オーナーシップが挙げられる(図2)。ファミリーという要素には、創業者の理念や家訓、創業者とその家族、創業家一族の間の関係性などが含まれ、それらがファミリービジネスの特徴を生み出し、経営に重要な影響を及ぼすと考えられる。

表裏の長短所

ファミリービジネスにはさまざまな特徴があるが、長所としては、(1)所有と経営の一致による企業価値最大化、(2)長期的な視点、(3)継続性(ミッション達成に必要な能力の蓄積・強化のためにさまざまな利害関係者と継続的関係を結ぶ)といった点が挙げられる。

他方、短所としては、(1)独善的経営(所有・経営の両面で創業家が多大な影響力を有し、チェック機能が働かない)、(2)身びいき(一族以外の社員のモチベーション低下)、(3)経営者の候補者が限定的(一族から経営者を選ぼうとすると、優秀な人材が経営者になるとは限らない)、(4)リスク回避的、保守的(事業の存続を1番に考えるので)といったことが挙げられる。

事業承継を巡る問題

親子げんかとやゆされた大塚家具の例を引くまでもなく、ファミリービジネスにとって最大の懸案事項の一つが事業承継である。「子どもに継がせた途端、言うことを聞かなくなった」と親が嘆く一方、「引き継いだのに、先代、古参社員、昔ながらの顧客がうるさく、自分の経営が否定される」と承継した子どもが不満を言う。親と子のコミュニケーション不足が示唆される。

このような新旧経営者のあつれきは、ファミリービジネスでない通常の会社でも起こりうるが、特にファミリービジネスの事業承継が難しいのは、親子ではビジネスライクに話ができず、コミュニケーションがとられにくいからなのかもしれない。しかし、ファミリービジネスでは子どもが親の背中を見て育つので、親の経営方針、事業特性、技術やノウハウが継承されやすいという長所も指摘される。ゆえに単純なコミュニケーション不足では片付けられない。

通常の会社、特に日本企業では、長期にわたるスクリーニングの結果、優秀であると評価された従業員が経営者になる。つまり事業承継者の正当性の根拠は能力である。他方、ファミリービジネスでは、必ずしも能力が正当性の根拠とは限らず、血筋、血縁が根拠になる。であれば、承継者が一般社員、取引先、顧客の信頼を勝ち取るのは難しくなる。また、一族の中に承継候補者が複数いる場合、一族間の争いが起こりうる。相続のたびに持ち株が一族の間で分散し、所有の面で事業承継者の影響力が希薄化していくという問題も付きまとう。

強みゆえの難しさ

もちろん、上記のようなあつれきはなく、順調に事業承継が行われたというファミリービジネスも多い。ただし、そのような会社の方が、次のような長期的な課題が深刻かもしれない。企業が長期的に存続・成長するためには、自らの経営(経営戦略、組織、風土など)を変革し、環境変化に適応しなければならない。これは、どんな企業にとっても難しい課題であるが、特にファミリービジネスの場合、継続性が重視されるがゆえに、なおさら対応が難しい。事業承継がスムーズに行われた企業は、継続性が強いと考えられるので、それだけ変革が難しくなると危惧されるのである。

変革を果たすためには、前経営者と現経営者とで、「自社の強みは何か」、「そのどれを捨て、どれを強化して経営を変えるか」について徹底的に議論し、新たな経営を生み出していかなければならない。事業承継の際のあつれきは、それが弁証法的な議論を引き起こし、新たな解を創造するきっかけにもなる。この議論の際に立ち返るべきは、「理念」、「価値」、「ミッション」であろう。これらを、ファミリーの中、企業のさまざまな利害関係者、世代間で共有しているファミリービジネスこそ、継続と革新のバランスを取りながら永続できるのではないだろうか。

 

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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