Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

大学で家族を学ぶということ 新鐘No.84「『家族』とは。」配布開始【2018年度入学記念号】

この一冊で早稲田の教育・研究が分かる学園誌『新鐘』

各号のテーマに基づき、早稲田の学問を通して、日本そして世界の今を読み解くことができる学園誌『新鐘』。2018年度「『家族』とは。」は4月1日(日)に発行しました。新入生ガイダンス・オリエンテーション時に配布されるほか、学内ラックにも配架しています。 「家族とは何か」「家族の今」「家族のこれから」の三部構成となっており、教員の研究内容のほか、校友インタビューも紹介しています。『早稲田ウィークリー』でも随時、内容を紹介していきます。プロローグでは、池岡義孝教授が大学で家族について学ぶ意義を語っています。

人間科学学術院 教授 池岡 義孝 (いけおか・よしたか)

早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。早稲田大学文学部助手、人間科学部専任講師、助教授を経て現職。専門は家族社会学。編著書に『現代日本の家族社会学を問う』(ミネルヴァ書房、2017年)、『変容する社会と社会学』(学文社、2017年)などがある。

現代社会では、家族の在り方が多様化している。その中で、これまでにはない新たな課題・問題が生まれている。家族社会学の専門家が考える、身近な存在である「家族」について、大学で学ぶ意義とは。

人間が経験する2つの家族

人間は大抵の場合、2つの家族を経験する。自らが子どもとしてその中に産み落とされ育てられる家族と、自らの結婚によって形成してその中で子どもを産み育てる家族である。前の世代の生殖行為によって次の世代をつくり、種の継続を図る点は他の生物と同じ基本的なことだが、それに関わる重要な役割を、人間の場合には家族が担っているのである。

大学で学ぶことができる家族研究

家族は人間にとって極めて重要で基本的なものであり、そうであるがゆえに多様な側面を持っている。そのため、大学で学ぶ多くの学問の研究テーマとなっている。私が専門とする社会学のみならず、心理学や人類学、経済学や経営学、法学や福祉学では、それぞれ関連する家族の側面が研究対象となっている。新しい学問領域であるジェンダー・セクシュアリティ研究でも、家族は重要なテーマである。また、一見すると関連がなさそうな政治学でも、私的な家族と公的な政治や行政の関係性はテーマとなる。文学や哲学でも、恋愛や結婚、夫婦や親子は永遠のテーマの一つだろう。さらに自然科学に目を転じると、建築学の住宅建築は家族が生活する「器」が対象だし、家族の在り方を変える可能性のある生殖補助医療技術は医学の研究成果である。皆さんにとって、家族はごく身近なもので、まるで空気のような当たり前の存在かもしれない。しかし、このように、皆さんが大学で学ぶさまざまな学問分野で、家族を対象とした専門的な研究が行われているのである。

家族の多様化とは

家族について、現代社会では「多様化」ということがよく言われる。かつての画一的な家族から多様な家族への変化が、現代の家族のトレンドだとされている。では、この多様化とは、いつ頃のどのような家族からの多様化なのか。社会学では、近代以降の社会を2つの位相に区分する。1つが、近代市民革命や産業革命によってそれまでの封建的な社会を解体して誕生した近代社会である。これを「単純な近代」とよび、封建―絶対主義国家が近代国民国家となり、家族も古い時代の封建的な家族が近代家族となった。この近代家族の典型は、夫婦と未婚の子どもから構成される、いわゆる核家族である。しかし、近代化の流れはいったんそれが始まると、とどまることのないものとなる。その結果、単純な近代の位相で誕生した近代社会は、今度はそれ自体が「近代化」される対象となり、変革されていくことになる。このような位相が「第2の近代」と言われるもので、われわれが今生きている現代社会がまさにそれに該当する。比較的安定的だった国民国家はグローバル化の中でその存立が脅かされ、地域社会の崩壊、学校教育の荒廃、家族のゆらぎや崩壊などということがよく言われる。これらは別個の現象ではなく、その全てがそれぞれの領域での第2の近代の変化の現れなのである。家族については単純な近代の典型例であった核家族とは異なるもの、例えば未婚化による単独世帯、子どもを持たない選択をする夫婦、離婚、同棲、国際結婚、さらには欧米で市民権を得てきている同性愛カップルの増加などが、家族の多様化の具体例だろう。

家族の多様化の光と影

家族の多様化は、「家族を持たない選択」を含めて、家族の多様な在り方を許容するもので、現代社会には適合的だとされる。しかし、そこに落とし穴もある。多様化の大前提は、個人の主体的で自由な選択の結果であるということだが、果たしてそれが保証されているだろうか。例えば、増加する未婚者は、その全てが結婚しないという主体的な選択の結果だと証明できるだろうか。その逆に、結婚したくても経済的な理由によって結婚できない人が含まれていないだろうか。貧困や格差が大きくクローズアップされる現代社会では、多様化が格差や差別と表裏一体のものとしてある。だから、現代家族のトレンドとされる「家族の多様化」を手放しで支持するわけにはいかない。現代社会には、自由で主体的な選択ができずに、家族のことで悩み、苦しめられて困難に陥っている人たちも大勢いるのである。

私が担当する「家族社会学」の講義では、最初の時間に「この授業に期待すること」を書いてもらう。すると「この授業を学ぶことで自分が築く家族をより良いものにしたい」というような記述が目立つ。私は、それは違うのではないかとコメントしている。大学まで進学した君たちが、そのような自分だけが良ければいいという自己本位の考えではいけない。日本の家族全体の在り方について、もしくは家族のことで困難に陥っている人々を支援するために、この授業で学んだ知識を役立ててほしい。大学にまで進学した君たちの人生は、社会のため人のために尽くすことによってより良いものになるはずだと。ぜひそうした広い視野をもって、大学で家族のことを学んでほしい。

(『新鐘』No.84掲載記事より)
※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年)のものです。

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