Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈子どもの健康福祉学〉グローバル時代を生き抜くための心身の健康づくり

子どもの生活習慣に学ぶ健康のヒント

人間科学学術院 教授 前橋 明 (まえはし・あきら)

米国ミズーリー大学大学院で修士(教育学)、岡山大学医学部で博士(医学)。米国ミズーリー大学客員研究員、米国バーモント大学客員教授などを経て現職。睡眠時間や朝食・排便、体温、運動量などを体系的に調査・測定・分析することにより、子どもたちの抱える心身の問題とその原因を明確にし、対策を提示する研究に従事。著書に『運動あそび指導百科』(ひかりのくに)、『生活リズム向上大作戦』(大学教育出版)など。

アジア各国で、生活習慣の変化による様々な影響が子どもたちに及んでいる。そこから見えるのは、生活リズムを整えることや運動を生活化することの重要性だ。グローバル社会を生き抜く上で、こうした心がけは私たち大人にも不可欠といえる。

乳幼児の発育状態から見えること

私は、日本をはじめ、台湾、韓国、中国、シンガポール、マレーシア、フィリピン等のアジア圏で、幼児の生活習慣調査や体力・運動能力測定を通して、健康管理上の問題を抽出し、予防策や改善策を提示する研究に従事している。

その中で、近年、気にかかるのは、いずれの地域においても、①カウプ指数(体重<kg>/身長<cm>2×104において、「普通」(標準)に該当する幼児が少ないこと、②生活の夜型化で自律神経機能が低下し、元気のない子が増えてきたことである。

乳幼児(3カ月~ 5歳)の発育状態の程度を知る目安の指数

「痩せ」に関しては、貧困だけでなく、睡眠不足や朝食の欠食、日本のアニメに現れる痩身タイプのヒーローやヒロインへの憧れ等の影響を受けて食が細く、栄養の偏った食生活を送っていることが要因として挙げられる。さらには、運動不足による筋力の低下もみられた。また、「肥満」の要因に関しては、間食のし過ぎや運動不足、夜型の不規則な食生活などが挙げられる。

台湾台北市にある 親子館での指導の様子

連鎖する生活習慣の乱れとからだのリズム

2016年は、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックで世界中が沸いた。各国にアスリートを目指してトレーニングに励む子どもたちがいる一方、外に出て全身をいっぱい使うのではなく、テレビ、ビデオやゲーム等、室内での静的なあそびが激増しているのも事実である。

そこで、まず考えなければいけないのは、子どもの生活リズムだ。わが国では夜型の社会になって久しいが、それに伴って子どもも寝るのが遅くなった。現在、夜10時を過ぎてから寝る幼児が何と40%もいる。睡眠時間の短い子どもたちの特徴として、「注意・集中ができない」「イライラする」「じっとしていられない」といった症状が挙げられる。そのため、授業中に歩き回ってしまうというような、集団活動が成立しない状況にもなっていく。

また、夜遅く寝て登校時刻ぎりぎりに起きる「遅寝遅起き」の場合、朝ごはんをしっかり食べられず、朝の排便もない。その結果、朝から眠気やだるさを感じて午前中の活動力が低下し、昼夜の体温リズムが乱れてくる。そして、ホルモン分泌のリズムが乱れ、昼夜逆転となり、体調不良や精神不安定を引き起こし、ひいては、学力低下、体力低下、心の問題など、負の連鎖を生じていく。

逆に、夜早く寝ると朝早く目が覚める。朝が早いとおなかが空くので朝食をおいしく食べられる。朝食を食べると、日中しっかり動ける。しっかり動くと疲れるから、夜はぐっすり眠れる。このように生活習慣とからだのリズムは連鎖する。つまり、生活習慣の悪いところをどこか一つ直すだけで、負の連鎖が良い連鎖に少しずつ切り替わっていくわけである。

負の連鎖を良い連鎖へ

良い連鎖にする一番の方法は、「早寝早起きの習慣づくり」である。夜早く寝られるからだをつくるには、日中、太陽の出ている時間帯にしっかりからだと心を動かして心地良く疲れさせることが必要だ。

疲労感が得られるぐらいの運動刺激によって、筋肉に負荷が加わる。より強い筋力が発揮できて、体力がついてくる。これを「トレーニング効果」という。ここで覚えておきたいのは、気分転換になる程度の軽い運動負荷では、体力づくりの効果は少ないということ。ただし、運動による疲れは、一晩の睡眠で回復することが条件だ。心身の健康や、生活リズムの重要性は、なにも子どもに限ったことではない。先に述べたことは、大人も今日から実践したいことばかりだ。

中国ハルピン市の幼児園で行っている障害物あそび(写真左)やボールつきリズム(写真右)

ストレス社会を生き抜くために

加えて現代は、ストレスの多い社会といわれている。また、世の中はグローバル化し、オリンピック選手でなくとも、将来は世界を舞台に活躍する方も多くいるであろう。

そのときに大事なことは、臨機応変に対応できる力である。海外で仕事をすると、想定外のことがよく起こる。バスや電車も予定通りに動くとは限らない。大切なのは、どんなときもバックアッププランを持っておくことである。また、世界にはいろいろな考え方がある。どうしてそう考えるのか、なぜそうするのか、現地の人と関わらなければまったく分からない。無駄話も大切で、そこから得た何気ない情報が、問題にあたったときの突破口になることも多い。

近年は、居心地の良い狭い世界で過ごす人が多いように思うが、一定のルールにのっとった経験だけでは応用ができない。自分のやり方が通用しないときは、相手ではなく、まずは自分の問題から見つめ直すことが、問題改善への近道である。

ストレスに勝ち、グローバル社会の一端を担い、想定外の事態にベストコンディションで臨むには、やはり日頃から体力をつけての心身の健康づくりが欠かせないのである。

 

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2016年)のものです。

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