Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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【グローバル企業を訪ねる】海外で活躍するために必要なこと(前編)

ファスナーの世界トップブランドであり、71の国・地域で事業を展開するYKK株式会社。商学学術院の谷口真美教授とゼミ生が、吉田忠裕代表取締役会長CEOを訪問し、グローバルで活躍するために必要なことを探りました。

お伺いした企業 YKK株式会社

1934年創業。創業時から続くファスニング事業のYKK株式会社と、1960年代から製造販売を進めてきた建材事業のYKK AP株式会社がグループの柱。ファスニング事業では、北中米、南米、EMEA(欧州、中東、アフリカ)、中国、アジア、日本の6極体制の下、ブロックごとに地域経営を推進。71の国と地域で事業を展開している。また、従来は国内中心だった建材事業でも、建設意欲の旺盛(おうせい)なアジアを中心に拠点を拡大し、海外展開を推進している。

YKK株式会社 代表取締役会長 CEO 吉田 忠裕(よしだ・ただひろ)さん

大学卒業後、米国でMBAを取得。1972年にYKK入社。2年目から海外事業部に配属となり、海外を飛び回ってきた。その後、ファスナー事業本部長などを経て1993年、創業者の忠雄氏から社長職を受け継ぎ、2011年より現職。経営者となって以降も、海外拠点には頻繁に足を運んでいる。

商学学術院 谷口 真美(たにぐち・まみ)教授

1996年、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士号取得。広島大学大学院助教授を経て、2003年より早稲田大学助教授。2008年より現職。著書に『ダイバシティ・マネジメントー多様性をいかす組織』(白桃書房)、近著に『多様性とリーダーシップー曖昧で複雑な現象の捉え方』(組織科学、第50巻1号)など。

訪問したゼミ生

左から 商学部 3年 谷村 栞(たにむら・しおり)、商学部 4年 安福 睦実(やすふく・むつみ)、商学部 交換留学生(ドイツ出身) アンナ・ゲンベル、商学部 4年 森合 弘毅(もりあい・ひろき)

逆境をはねのけ成長するため海外へ

──御社はファスニング事業で1959年から海外へ本格的に進出されています。日本企業としては、かなり早い時期ですが、きっかけは何だったのでしょうか。

日本の製造業においてファスナーは主流の分野ではないため、当時の通商産業省(現・経済産業省)による分類では雑貨の扱いでした。そのため国が重視する基幹産業とは違って、外国製品が低い関税で国内に入ってくるにもかかわらず、日本から輸出する場合は高率の関税がかけられるというアンフェアな状況が続いていました。ですから輸出による拡大は断念し、自分たちが海外に出るほかなかったのです。そこで欧米を皮切りに海外展開を始めました。幸い、ファスナーはアパレルに使用されるため、経済状況にかかわらず、世界各国で一定の需要があります。

このように、当社では逆境をはねのけ、成長するための活路を海外に見いだしてきました。現在、当社は71カ国・地域で事業を展開しています。

──社員の多くが海外勤務を経験するそうですが、現地の事業会社において赴任者はどのような役割を担っていますか。

現地のことは現地に任せるのが当社の基本姿勢。多くの現地法人のトップが当事国の出身者ですし、事業運営も現地主体で行っています。一方で、技術的な支援やグローバルな目線で横串を通す機能も必要です。日本人赴任者にはこうした役割を担ってもらっています。特に日本とのコミュニケーション、つまりパイプ役としての期待が大きいですね。

海外赴任で大切なのは「土地っ子になれ」の精神

──海外で活躍する人材になるために必要なことは何だとお考えですか。

当社では、その土地でコミュニティーの一員になるという「土地っ子になれ」の精神を大切にしています。そのために私はよく「赴任先を生まれ故郷と思え」と言っています。現地に溶け込み、土地の人々に好かれる人間でなければ、海外ではまず活躍できません。要は相手の文化や習慣を尊重し、同じAttitude(姿勢)を持つことが大切なんです。しかし、海外で生活する人はよく「日本の飯はうまいのに、こっちの飯はまずい」といった愚痴をこぼします。でも自分の故郷だと思えば、そんな文句は出てこないでしょう。むしろ積極的に現地の人々と交わり、マナーや価値観を学ぼうとするはずです。

また、海外では日本と勝手が違うために、当然うまくいかないこともたくさん経験します。そうやって壁にぶつかっても、あきらめず乗り越える粘り強さも大切です。

──最後に、異なる習慣や価値観を持つ相手と向き合い、協働していくためのアドバイスをお願いします。

善悪二元論で切り分けられるほど、世界は単純ではありません。表面的には自分の価値観では受け入れがたいような文化・習慣があっても、その裏側までしっかり掘り下げれば、意外と納得できたり、共感できたりするものです。ですから、これからグローバルで活躍したいと思っている人には、一側面だけで物事を決めつけずに、多面的な視点から見るようにしてほしいと思います。

>> 後編へ続く(12月8日掲載予定)

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位および学生の所属・学年などは取材当時(2016年度)のものです。

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