Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈都市社会学〉広がるイスラム世界と ムスリム・マイノリティ社会

関心を持つことから「共生」は始まる

人間科学学術院 教授 店田 廣文(たなだ・ひろふみ)

1949年福岡県門司生まれ。東京外国語大学外国語学部アラビア語学科卒業。早稲田大学文学研究科社会学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(人間科学)。専門はアジア社会論・エジプト地域研究。早稲田大学人間科学学術院教授。早稲田大学多民族・多世代社会研究所長。2001年に『エジプトの都市社会』(早稲田大学出版部、1999年)で日本都市学会賞。近著に『日本のモスク:滞日ムスリムの社会的活動』(山川出版社、2015年)。

今世紀末、キリスト教徒を抜いて世界最多になると予測されるイスラム教徒。実は、私たちの身近なところにもそのコミュニティは存在する。まずは自分の目と耳で彼らを知ることが、「共生」には不可欠だ。

世界に広がるイスラム世界

2016年に訪日外国人が2,000万人を超え、日本の観光地でイスラム教徒(ムスリム)の旅行者を目にすることも多くなっている。一方、東南アジアでは、ムスリム・ツーリストの増加が2000年代から顕著となり、中東からの観光客が、ショッピングを楽しみ、水タバコを嗜(たしな)む姿が見られる。200万人以上のムスリムが移動する毎年のメッカ大巡礼をはじめ、世界的なムスリム・ツーリストの増加は、国際観光市場でも注目されている。

世界のムスリム人口は、ここ数十年の間に世界人口の増加率を上回る水準で増加を続けてきた。2013年の世界のムスリム人口(推計)は16億、2050年には29億(世界人口の26%)に達する。アジア・アフリカ地域を中心として拡大しているイスラム世界には、21カ国の「ムスリム・マジョリティ社会(ムスリムが多数派の社会)」があり、消費市場として発展が予想されるインドネシア、パキスタン、バングラデシュ、エジプト、トルコ、イランを含め、12億ものムスリム人口を抱えている。

一人当たりGDPが日本をはるかに凌駕(りょうが)するサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートなど豊かな「ムスリム・マジョリティ社会」も決して少なくない。将来的な人口増加は、ムスリム人口の7割が住むアジアをはじめ世界の社会・経済に大きなインパクトを与えるであろう。

 

東京・新大久保の「イスラム横丁」にあるハラールショップ。 食品やスマートフォンなども販売(写真提供:店田 廣文)

 

「ムスリム・マイノリティ社会」

ムスリムは、世界の200以上の国・地域に住んでおり、「世界的な存在」である。ムスリムが少数派である「ムスリム・マイノリティ社会」でも、人口が増加しムスリムの存在や活動が社会的に大きな意味を持つようになった。西ヨーロッパ先進諸国は、第2次大戦後の経済成長期に外国人労働力としてムスリム移民を積極的に導入した経緯もあって、現在では1,500万以上のムスリムを抱えている。フランス、ドイツ、イギリスには、それぞれ数百万のムスリムが暮らしている。これら3カ国には各々2,000カ所以上のイスラム礼拝所があり、ハラールショップ(イスラムの教えに則った食品等の販売店)も多数営業していて、「イスラムの可視化」が進んでいる。

同じく「ムスリム・マイノリティ社会」である日本には、バブル経済期にムスリム移民が流入して、2016年末現在、約12万の外国人ムスリムと約1万の日本人ムスリムが暮らしている。その多くは三大都市圏に住んでいるが、全国にムスリム・ネットワークが広がり、地方で会社を経営するムスリム、地方の大学で研究に従事しているムスリムも増加している。

恒久的なイスラム礼拝所であるモスクは、1990年代初めから増加が始まり、現在では北海道から沖縄県まで全国に立地している。その数は90カ所を超えているが、多くの日本人はその存在には気が付いていない。しかし最近では、イスラム理解促進のため、日本人の見学受入やイベントを開き地域社会に「開かれたモスク」もある。

東京・代々木の東京ジャーミイ(モスク)。見学は随時可能、イベントも開催している(写真提供:岡井 宏文)

 

早稲田大学所沢キャンパス近くの一軒家を改装した所沢モスク(写真提供:店田 廣文)

多様でハイブリッドなムスリム

日本に住んでいるムスリムは、さまざまな国籍・人種・生活習慣・文化を有しており、決して一枚岩でもない。服装も多様で、信仰実践の取り組みも千差万別である。宗教儀礼を遵守する敬虔なムスリム、礼拝や断食などに無頓着なムスリムもいるが、皆、一様にムスリムである。ムスリムと会ったことも話をしたこともない人々が、誤ったイメージを増幅しがちだ。

現実のイスラムを知るためには生身の人間同士の交流が必要だが、ムスリムはごくごく少数で、地域社会の隣人であるケースは少ない。メディアが報ずる「イスラム」によって構築されたイメージを変えることは容易ではないが、「開かれたモスク」を扉にして、まずはイスラムに関心をもってほしい。

今後も、ヨーロッパや日本のムスリム人口は増加すると推計しているが、新たな「移民」の流入によって増加するだけではない。既にイングランドなどでは、国内ムスリム人口の半数近くは、現地で生まれ育ったムスリムである。日本でも、家族を持った定住する外国人ムスリムがムスリム人口の半分近くになっており、これからは2世・3世など日本に生まれ育ったムスリムが増えていく。彼らは、複数の文化を知るハイブリッドなムスリムであり、「ムスリム・マイノリティ社会」の課題となるイスラムとの「共生」において、両者を架橋する若者たちである。皆さんが近い将来、そんな彼らに出会い、共に学び、共に働き、心が通じ合うことを胸に刻んでおいてほしい。

行徳モスク(千葉県)のアラビア語教室。滞日ムスリム2世の子どもたちが成長している(写真提供:前野 直樹)

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2016年)のものです。

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