演劇ワークショップ開催!
自己表現をテーマにした講演会の後、演劇サークルOBの鴻上尚史さんは現役学生に向けたワークショップを開催。表現の幅を広げる身体のトレーニングがゲーム形式で行われ、和やかな雰囲気の中にも、真剣な表情で鴻上さんの話に聞き入る学生の姿が見られました。
文化構想学部4年 田村 優依
演技をする側の私には、自分の動きを客観的に見てくれる人が必要です。サークルでは、先輩がよく見てくれています。今回は、鴻上さんの長年の経験に基づく視点を知ることができ、とても勉強になりました。例えば相手のセリフの受け方でも、ただ耳で聞くのではなく、心の中を読まなければならない。そうすると、自分の表現もよくなる。自分に足りない部分に気づけたので、今後演劇をするときに役立てたいです。
教育学部4年 海老原 圭介
これまで私は、演技において、声・身ぶり・感情を、独立したものとして考えていました。しかし鴻上さんのお話を聞いて、それぞれが密接につながっていることが分かりました。ある状況が与えられたとき、それにふさわしい感情が生まれ、身体が瞬間的に動き、演技になる。「こう演技しよう」と考えて動くわけではないのです。瞬時にさまざまな反応ができるよう、普段から自分の引き出しを増やしておくことが大事だと感じました。
人間科学部2 年 井上 貴彰
自分と、自分が演じる人物との距離をつかむことが重要だということに気づきました。それは、距離を近づければよいということではなく、その役の性格や体質、育った環境などを把握するということです。1カ月間も稽古をしなければならないのは、自分との違いを理解してから、芝居に臨まなければならないためだということも分かりました。これからは、そうした綿密な計算をもとに、よりよい演技をしたいと思いました。
身体表現の挑戦者たち
身体表現を駆使し、人を魅了する領域は、演劇だけにとどまりません。歌舞伎や日本舞踊といった伝統芸能や、ダンスやパントマイムなど、表現の形式は多岐にわたります。そして、どのジャンルにおいても、相手の感情を動かすための緻密な計算の上に成り立っています。ここでは、早稲田大学を代表する四つのジャンルの表現者に、日々のトレーニングでどのようなことを意識し、パフォーマンスに結び付けているのかを聞きました。
競技ダンス部(競技ダンス)
競技ダンスは、社交ダンスをスポーツ化したものです。身体表現を高めるためには体幹のトレーニングや足型(ステップ)の反復も重要ですが、どのような踊りをしたいのか、イメージを持つことも大切です。また、ペアを組む相手あっての踊りなので、コミュニケーションをとって、そのイメージを共有することも意識しています。フロアで感情を伝えるには、まず自分自身が楽しむことが重要と考えています。自分自身が集中して曲に入り込むことで、自分の見せたいものを理解してもらうことができます。そうした踊りほど、周りからも楽しく見えるもので、結果として評価され、高得点を取ることになるのです。競技ダンスは大学から始める人ばかりなのですが、みな、まず楽しむことから始めています。
舞☆夢☆踏(パントマイム)
私たちは、週に3回稽古を行い、プロの大道芸人であるハッピィ吉沢氏に指導いただいています。パントマイムの表現は、日常と異なる身体の使い方をするので、基本動作確認や体力作りなど、基礎練習を大切にしています。関節・筋肉一つ一つを意識し動かす訓練と、それらを連動させ、全身を動かす訓練を行います。感情を伝えるために顔の表情だけでなく、身体全体で表現したい感情をイメージさせる形を作ります。感情の変化の原因となるものをしっかりと示し、変化の瞬間の演技をスローモーションにし、感情の変化を大げさに示すことで、お客さんに分かりやすく提示することを意識して、表現しています。
中村 鶴松(歌舞伎)
毎月、25日間の公演の合間を縫い、芝居を観たり、日本舞踊などの稽古をしたりして、歌舞伎に必要な身体表現を磨いています。舞台の上では、一瞬の姿勢、視線、客席から舞台を観たときの全体のバランスなどが美しいものでなければならず、その美しさは、日々の稽古を積み重ねた役者だけが備えることができるものだと思います。歌舞伎は、決まった「型」もあるので、感情表現が難しいのですが、師から教えられた「心で芝居をしろ」ということを常に忘れず、集中してその役になりきることを心掛けています。そうすることで、どんな役柄でも、感情がおのずと「形」となり、観客に伝わるのではないでしょうか。
六代目 花柳 芳次郎(日本舞踊)
セリフを覚え、感情を込め、演者同士で演技のキャッチボールをする芝居とは異なり、日本舞踊は間を重視し、身体動作(振り)を通して一人で作品を表現します。そのため、自然と稽古の段階でも、その振りに対する意味や感情を作品そのものとして捉え、役に入り込んでいきます。公演の本番では重い衣装を身に着け、化粧をし、暑いスポットライトの中で緊張感を持って踊る必要があるため、日頃の稽古では120%の努力をし、本番では100%の確実なものを魅せられるように心掛けています。そして、舞台に立つ自分が楽しむことで観客に感情が伝わる踊りになるのではないかと思っています。
(『新鐘』No.81掲載記事より)
※記事の内容、教員の職位および学生の所属・学年などは取材当時(2014年度)のものです。