「ちょっとくらい調子が悪くてもいつものこと」「大きな病気なんてしたことがないから大丈夫」と、自分の健康を過信していませんか。年1回の健康診断を勧められる理由、そもそもなぜ健康が大事なのかについて、保健センター所長の井上真郷理工学術院教授に聞きました。
理工学術院 教授、保健センター所長 井上真郷(いのうえ・まさと)
1997年京都大学医学部卒。97年医師免許取得。京都大学、理化学研究所などを経て、2005年から早稲田大学理工学部専任講師、07年より同准教授、10年より同保健センター副所長、13年より同理工学術院教授、14年より現職。
自分のためだけの健康ではなく社会の一員としての健康を意識する
早稲田大学では毎年4月に学生定期健康診断(以下、学生定健)を実施しています。近年、受診率は上昇傾向にありますが、約6割程度に留まっているのが現状です。受診しない理由としては、学生定健のスケジュールが合わない」「先輩に“毎年受けなくていい”と言われた」といった声が聞かれます。学生定健期間中、日時ごとに対象学生(学部・性別)が指定されていますが、都合のつかない場合は指定日以外でも受診は可能です。また、年1回の受診は、学校保健安全法で定められていますので、「毎年受けなくていい」ということはありません。
このような声が上がってくるのは、健康を単に自分のためだけのものと捉えている人が多いからではないでしょうか。国民の三大義務の1つに、勤労の義務があります。社会を構成する労働者の一員であることを自覚し、近い将来就く仕事に支障が出ないよう健康づくりに努めてください。
そして、皆さんが気にしなければならないのは、将来の健康状態だけではありません。学生定健で要再検査の判定が出る人の割合は、胸部X線で0・2%、心電図は5%。一次、二次と2段階で実施される尿検査の場合は、一次が10%、二次が5%で、肺結核や心臓疾患のような重篤な病気が疑われる人が、皆さんの中に一定数いることを示しています。
中でも、結核(約8割が肺結核、残りが肺外結核)は、患者本人の健康問題だけにとどまらず、飛沫核感染による周囲への二次感染の危険があります。たくさんの人が集まる大学ではとくに注意が必要です。
学生定健では、既述の3つの検査に加え、身長・体重や血圧、視力を計測します。これらの数値を毎年測ることに、どんな意味があると思いますか?
病気の診断においては、測定値そのものよりも、測定値の変化が重要な位置を占めています。例えば、仮に学生定健の血圧測定で正常値から多少外れていても、データをさかのぼって血圧がもともと高め・低めという傾向がつかめれば、医師は経過観察にできる。ところが、データが欠けていると、病気を疑わざるを得ません。経年変化が分かるのは、診察する立場からすると非常にありがたいことなのです。
最後に心に留めておいてほしいのが、学生定健の結果に基づいて発行される健康診断証明書は、一部の奨学金の申請に際して、アルバイト先・就職先から提出を求められることもあります。学生定健の所要時間は混雑時でも1時間程度です。ぜひ受診しましょう。
定期健診Q&A
Q1健康個人カードって何?
「健康個人カードには、学生定健での測定値と検査結果が記入されます。『問診』欄には、健診結果や健康調査票を参考に保健師が『異常なし』や『再検査』などを記入します。血圧や尿検査が『再検査』の場合は、必ず二次検査を受けましょう。健康個人カードは毎年の学生定健で使用するだけでなく、保健管理室やトレーニングセンターの利用にも必要です。在学中は大切に保管してください」
Q2最後の問診(保健師面接)では、何を話せばいいの?
「健康調査票への記入内容を基に、健康状況について保健師が質問します。睡眠や対人関係のことなど、日ごろの気がかりや心配事なども話してください。皆さんの年代の、とくに女性はBMIの数値(肥満度)を気にする人が多いようですが、BMIはいくつもある判定方法の一つにすぎません。体質によるところが大きいので、問診を利用して、個人的なアドバイスをもらってもよいでしょう」
学生定健以外の健康チェックにも参加しよう!
早稲田大学には、早大生による早大生のための健康増進をモットーに活動する「学生早健会」があります。学生早健会の主催する各種健康チェックを利用して、学生定健では行われない検査項目もしっかり押さえましょう。
アルコールパッチテスト
アルコールを代謝できる体質か否かが分かります。もともと日本人は欧米人に比べてアルコールに弱く、飲酒により誰に中毒が起こっても不思議ではありません。中でも、お酒に弱い人はお酒を飲み続けることで重篤な肝障害(脂肪肝、脂肪性肝炎や肝硬変)だけでなく、がんの発症率が高くなる傾向があるとされています。
ヤニ検査
たばこの煙による肺の汚染度をチェックできます。たばこの煙に含まれる有害物質は200種以上、うち40種以上が発ガン物質とされています。さらに、喫煙者が直接吸い込む主流煙よりも、たばこの先端から立ちのぼる副流煙の方が有害物質を多く含み、ヤニ検査を通じて、受動喫煙の被害についても認識する必要があります。
体組成測定
筋肉量の他、体脂肪量、基礎代謝量をはじめとする、さまざまな体組成の項目が瞬時に数値化されます。脂肪が多すぎる、筋肉が少なすぎるといった体組成の乱れは生活習慣病につながることが指摘されており、体組成測定を行うことで、運動や食事の摂り方などの生活習慣を見直すきっかけとなることが期待されます。
歯科検診
歯科医師による口内検診に加え、歯科衛生士による正しいブラッシングの指導が1対1で行われます。正しいブラッシングが行われていないと、虫歯、歯周病の蔓延はもちろん、放置された虫歯が原因で重大な病気を引き起こす可能性もあります。虫歯は自覚症状がなく進行しているケースも多く、歯の健康に関する意識づけが大切です。
(『新鐘』No.81掲載記事より)
※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2014年)のものです。