Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

自然と触れ合うライフスタイル

社会科学総合学術院 教授 黒川 哲志(くろかわ・さとし)

早稲田大学政治経済学部卒業、 京都大学大学院法学研究科博士課程単位認定退学。博士(法学)、 専門は環境法。著書に『環境行政の法理と手法』(成文堂)など。

私たちの体と密接な関係をも自然生態系。環境都市やライフスタイルの視点から、生態系のバランスを見つめ直そう。

昨年の夏、代々木公園などで起きたデング熱事件に接して、私は少し困ってしまった。私の専門分野の環境法では、生物多様性という概念が重要視されている。そこで、都市で人々が幸せに暮らすのにも、都市をコンクリート砂漠にするのではなく、都市緑地を保全・創造して、これらを生垣や街路樹などで結び付けて、生物の生息地として十分な広さを確保し、都市における生物多様性を実現することが大切であると、常々、述べてきた。しかし、優れた都市緑地である代々木公園に大量の蚊が生息し、デング熱ウイルス媒介者となることを突きつけられ、公衆衛生の確保と生活環境に自然を取り込むこととのバランスの難しさを感じた。自然生態系には、蚊など人に有害な生物やウイルスも存在しており、これらも含めてトータルに自然を引き受ける覚悟も必要になる。

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アメニティの視点からは、都市に居住しながらも自然生態系と触れ合うことが生活の質の向上に価値あるものと考えられるようになってきたが、個人のライフスタイルに目を向けたときには、自然の排除ともいえる清潔感の過剰を感じることが少なくない。ゴキブリや蚊を見つけたら殺虫剤を噴射する人、バイ菌を怖れて抗菌文房具を使用する人は極端な例ではあるが、一日に何度も石鹸で手を洗ったり、毎日風呂に入ってシャンプーしたりすることは、多くの人の習慣になっている。人間の身体には数百兆個の細菌が住み着いていると言われ、それぞれが人という生態系の中で役割を担っている。悪玉菌とされる大腸菌やブドウ球菌ですら、不潔というイメージの下で身体から排除すると、大変なことになる。大腸菌は食物の消化・吸収を助けるだけでなく、腸内でのその存在自体が他の有害な細菌の繁殖の場を奪うという役割を担っている。ブドウ球菌も体表に常在することによって病原菌の侵入を防ぐ保護膜となっている。手や身体を石鹸で洗うと、ブドウ球菌の保護膜を自ら破壊することになり、洗い過ぎは決して健康に良い行為でない。身体の生態系バランスを意識して、食事や医薬品の摂取、入浴や手洗いなどの生活習慣を見直してはどうだろうか。

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(『新鐘』No.81掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時のものです。

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