Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

生活における健康問題④ SNSの生み出すチャンスとリスク

文学学術院 教授 高橋 利枝(たかはし・としえ)

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学大学院博士課程修了Ph.D.取得。博士(社会科学)。専門はメディア・コミュニケーション論。著書にAudience Studies” (Routledge,2009)など。

コミュニケーションの形を変えたインターネットやSNS。いつの間にか依存や中毒に陥ってはいないだろうか

総務省の調査(2014年)によると、若者のスマートフォンの利用率は6割(10代63・3%、20代87・9%)、ソーシャルメディアの利用率は7割を超えている(10代76・3%、20代91・0%)。現在、最も人気があるソーシャルメディアはLINEであり、10代では7割、20代では8割が利用している(図1)。

こうした現代の若者は「絶え間ないコンタクト世代」と呼ばれ、頻繁にソーシャルメディアでコミュニケーションを行っている。この絶え間ないつながりは、新たなネットワークの構築や、写真による印象管理、音楽や動画の共創など、若者に新たな機会を与えている。特にLINEは、友達や家族との親密性を強化している。社会人類学者である中根千枝(『タテ社会の人間関係―単一社会の理論―』講談社現代新書、1967年)によると、日本社会において同僚や家族、友人のようなウチの同質性を保つためには「直接接触的(tangible)」で「感情的(エモーショナル)なアプローチ」がとられるという。インターネットが浸透した現代社会においては、LINEのような閉じたコミュニケーション空間の中での絶え間ない接触とスタンプを交えた感情の共有によって、友達や家族との親密性を強化しているといえよう。

しかしながらその一方で、アメリカの精神科医シェリー・タークルは、絶え間ないつながりに対する期待とともに育った10代の若者は、「(絵文字を濫用し、意見より即座の返信を期待しがちな)デジタル化された友情」(Turkle, 2011)によって新たな不安を抱えており、「ついにはロボットとの友情だけで十分だという考えを受け入れるようになる」と警鐘を鳴らしている。そして、ソーシャルメディアへの依存はアメリカばかりでなく、日本においてもLINEの既読機能による「LINE疲れ」や中毒などが指摘されている。

このようにスマートフォンやソーシャルメディアによる絶え間ないつながりは、新たなチャンスを生んでいる反面、いじめや中傷、プライバシーの侵害、デジタルタトゥー(永遠に消えない情報)、ストーカー、不安や孤独感、依存や中毒など新たなリスクも生んでいるのである。

リスク社会を生きるため必要なリテラシー

私たちが生きている現代社会は、デジタル化、グローバル化が急速に進み、リスク社会と呼ばれている。とくにスマートフォンやSNS依存に関しては、本人がそれに気づかないことが事態を深刻にしている。アメリカ、オーストラリア、韓国などでは深刻なネット依存に対して、ネット依存度検査の義務付けや深夜時間帯のアクセス制限、デジタルダイエットなど、さまざまな試みがなされている。デジタルダイエットとは、カロリー摂取過多や生活習慣によるメタボリックシンドロームと同じように、スマートフォンやSNSの利用過多や情報接種過多などデジタル生活習慣によるデジタルメタボを意識化し、デトックスする方法で、ネットへの依存に身に覚えがある人は、自主的にこの方法を試してみるのも手かもしれない。

リスク社会に生きている以上、一人ひとりがリスクを意識し、リスクマネジメントをしなければならない。今日の変動する世界をより良く生きるためには、新たなチャンスを最大限に享受し、リスクを最小限にするためのデジタル・リテラシーが必要とされるのである。

出典:総務省情報通信政策研究所『平成25年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』、2014年

 

(『新鐘』No.81掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位および学生の所属・学年などは取材当時のものです。

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