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早稲田の学問

一流アスリートに学ぶ食事摂取

田口素子

スポーツ科学学術院 准教授 田口 素子(たぐち・もとこ)

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ科学)、管理栄養士、公認スポーツ栄養士、健康運動指導士。早稲田大学スポーツ栄養研究所所長。日本陸上競技連盟医事委員。専門分野はスポーツ栄養学。

アスリートの原動力となるエネルギーと栄養素。これは、一般人はもとより競技によっても大きく異なるのだ。

一般人とアスリートで食生活は大きく異なる

トップアスリートは、トレーニングにより消費したエネルギーと各栄養素が十分に含まれる食事を摂取している。表1に一般人とアスリートの身体組成とエネルギー消費量の違いを示した。アスリートは日々のトレーニングによって骨格筋量が増加し、余分な体脂肪をそぎ落としたカラダであるため、体重が同じでも身体組成は大きく異なることが分かる。1日の総エネルギー消費量は一般人(男性)では2300~2600kcal程度であるが、アスリートでは競技種目・練習状況と体格によっては5000kcalを上回ることもあり、一般人の2倍以上となることもある。骨格筋量を維持し、けがをしにくい丈夫なカラダをつくり貧血を予防するためには、たんぱく質やカルシウム、鉄などのミネラル必要量も増加する。さらに、エネルギー代謝を円滑にして抗酸化作用を発揮するビタミンもしっかり摂取し、コンディションを調整している。

キャプチャ

必要なエネルギーと栄養素を補うために、毎回の食事形態や食生活も同じではない。一般人の健康維持増進のためには、「食事バランスガイド」に沿って主食・主菜・副菜をそろえた食事を毎食摂り、1日1回乳製品と果物を摂取することが推奨されている。アスリートはこれでは不十分であり、写真の「アスリートの食事の基本形」のように主食・主菜・副菜・乳製品・果物を毎食そろえ、さらに食事だけでは不足しやすい糖質やビタミンなどの栄養素を補うための補食を活用することが基本である。

アスリートは競技特性や目的による食事ストラテジーがある

競技特性や目的によっても、食事は異なる。競技によって運動の持続時間や発揮するパワーの大きさが異なり、体内で消費されていく栄養素の種類と量にも差が生じるからである。例えばマラソン、トライアスロンなどの持久系競技では、発揮パワーは比較的小さいが運動の持続時間が長く、エネルギー源として筋グリコーゲンをたくさん消費している。そのため、筋グリコーゲンを回復させる糖質と、糖質の代謝に不可欠なビタミンB群が豊富な食事を摂取することがポイントとなる。また、筋力・瞬発力系競技の選手では骨格筋量が多く、発揮パワーも大きいことから、たんぱく質は持久系の選手よりもやや多めとなる。また、脂肪が多い食事では体脂肪を増加させ不利となるため、肉の部位や調理法などに注意が必要となる。なお、ボールゲームは持久系と瞬発系の両方の要素が混在していると考えられる。コンタクトによりけがをしやすいため、カルシウムやビタミン類も意識して摂取する必要がある。

増量や減量、試合前などの目的によっても食事の仕方は変わる。ウエイトコントロールとは、単に体重を減らしたり増やしたりすることではない。減量の場合は除脂肪量を維持したまま余分な体脂肪を減らし、増量の場合は余分な体脂肪の増加を抑えつつ骨格筋量を増加させるのである。したがって、極端な減食や欠食による減量や、過食やサプリメントの過剰摂取による増量を行えばよいわけではない。また、試合前には筋グリコーゲンのレベルを十分に回復させるために、試合数日前から糖質摂取を意識し、遠征先であっても食べ慣れたものを安全性に注意しながら摂取している。

キャプチャ2

健康維持の基本は共通

トップアスリートは、同じ競技であってもトレーニング内容や目的、体格、体調など個々人の要素が異なるため、栄養・食事摂取も個別にマネジメントする必要がある。公認スポーツ栄養士などの専門家のサポートを受け、食事について学んでいるのである。子どもから高齢者まで、健康維持・増進のための食事摂取も同様である。個々人の目的、体格、体調などに合わせて食生活のあり方を考えることから始めていただきたい。アスリートのようにはいかないが、できるだけ身体活動量を増やす努力も大切である。よく動き、よく食べ、よく休む。アスリートも一般人も、健康維持の基本はまったく同じなのである。

 

(『新鐘』No.81掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時のものです。

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