Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

人はなぜ風邪を引くのか?

風邪という身近な病気の正体を知っていますか?その正体をひもといていくと、人類がさらされている感染症の脅威が現実のものとして見えてきました。

赤間教授

スポーツ科学学術院 教授 赤間 高雄(あかま・たかお)

1982年筑波大学医学専門学群卒業、88年同大学院医学研究科修了、医学博士。筑波大学講師、日本女子体育大学助教授を経て、2004年早稲田大学スポーツ科学部助教授、06年同教授。専門はスポーツ医学、スポーツ免疫学、アンチ・ドーピング。

似ているようでまったく違うウイルスと細菌

誰もが知っている身近な病気「風邪」は、正式には「風邪症候群」といいます。主にウイルスや細菌により、上気道で引き起こされる炎症を伴う病気で、その症状を指して、急性上気道炎または上気道感染症と称することもあります。喉が痛くなったり、鼻水が出たりといった体の異常は、皆さんもよく覚えがあるでしょう。それでは、風邪の原因であるウイルスと細菌とでは、一体何が違うのでしょうか。

図1を見てください。生物の大まかな分類を示した図です。一番上の原始的な生物から下へ行くにつれ、だんだん複雑な構造を持つ生物になっており、今回問題にするウイルスが地球上で最も単純な構造の生物で、次に単純な構造の生物が細菌であることを示しています。注目すべき点は、ウイルスと細菌の間に引かれたラインです。ウイルスは、細胞を持った生物の中に侵入し、その細胞に寄生することではじめて増殖できます。つまり、生命としての仕組みを欠く、不完全な生物といえます。対して、ラインから下はいずれも細胞を持つ生物。生きるのに適した環境や栄養があれば、自分で分裂して増えていくことができるのです。

病気を引き起こす微生物としてひとまとめにされがちなウイルスと細菌ですが、ここまでの説明で、ウイルスと細菌よりもむしろ細菌と人間の方が似た構造を持つことを分かっていただけたと思います。

四日熱マラリア原虫。赤血球に侵入するほどの小ささだが、単細胞生物で、生物に寄生し増殖する

ウイルスのイメージ図。電子顕微鏡でのみ見える。構造はシンプルだが形は種類によりさまざま

カビの顕微鏡写真。食べ物に生えるなど身近なカビだが、体内に入ると病気の原因となりうる生物だ

 

 

ウイルスや細菌の侵入経路と免疫の働き

ところで、ウイルスや細菌は、どうやって体の中に侵入してくるのでしょう。

図2は、口や鼻の粘膜に風邪ウイルスが侵入したときの免疫の働きを示しています。粘膜表面に存在する分泌型免疫グロブリンA(SIgA)抗体はウイルスと結合することで、ウイルスの侵入をブロックするのですが結合性が弱いと、ウイルスが粘膜細胞にまで侵入し、そこで増殖を始めます。増殖が進むと細胞は破壊され、散らばったウイルスが周囲の細胞に侵入し、また増殖して……ということが繰り返されます。しかし、人間には自己防衛機能である免疫系がもともと備わっています。その存在は、対峙するウイルスや細菌に免疫系が最初に起こす応答の一つ、炎症によって確認することができます。つまり、喉の痛みや鼻水などの風邪諸症状は、免疫系が機能している結果で、免疫系が風邪のウイルスを駆逐して風邪が治るのです。

それでは何のために風邪薬を飲むのか、疑問に感じた人もいると思います。ウイルス性の風邪は、既述のように3〜4日で免疫系によって抑えられますが、その間に引き起こされる各種の炎症に対し、薬による対症療法がとられます。いい換えれば、症状を抑えることはできますが、風邪ウイルスそのものに効く薬はありません。

一方、細菌性の風邪は症状が重いのですが、抗生物質という細菌を直接退治する薬があります。ただし、1種類の抗生物質が全ての細菌に効くわけではないため、医師が診察して適切な抗生物質の種類を決め、処方しています。

ウイルスなどが侵入すると見張り役であるマクロファージが急行し、取り込んで処理し警報を発する。それを受けたヘルパーT細胞が指令を出し、敵を攻撃するCTLを増やし、Bリンパ球に抗体を作らせる。NK細胞は常に体内をパトロールしており、外敵を見つけると即攻撃する

運動しすぎると免疫力が下がる? 意外な研究結果

図3を見ると、スポーツの国際大会に参加した日本選手団が大会期間中、上気道炎、いわゆる風邪に一番よくかかっていることが分かります。このように上気道炎が罹患した疾患全体の約3分の1に上るという結果は、他のどんな大会でも変わりません。つまり、トップアスリートのコンディション維持で大切なのは、第一に風邪予防なのです。

免疫力は栄養不足、睡眠不足、ストレスといったさまざまな要因で常に変化します。運動との関係でいうと、ほどほどの運動なら風邪を引きにくくなるのですが、運動をしすぎるとかえって風邪を引きやすくなるという学説が20 年ほど前に発表され、今も有力視されています(図4)。ゆえに、運動が過度になりやすいアスリートの場合、一般の人よりも風邪を引きやすい傾向があるといえるでしょう。私は、アスリートの免疫機能の変化をモニタリングして、コンディションの評価に応用する研究を続けています。

各大会の日本代表選手団報告書から作成

「Nieman DC. (1994)」より改変

アスリートも悩ませる風邪、予防の手立ては?

感染症対策の基本は、ウイルスや細菌の体内への侵入ルートを絶つことで、風邪の場合、「手洗い」が最も効果を発揮します。空気感染は、感染者の咳やくしゃみで飛散したウイルスを含む微粒子(飛沫核)を、周囲の人が鼻や口から吸い込むことによって起こりますが、このときの飛沫核は空気中を漂う小さなもので、含まれるウイルスの量はごくわずかです。従って、風邪ウイルスが空気感染することはまずないと考えられています。

話を「手洗い」に戻しましょう。感染の原因となり得る、ウイルスを多量に含む大きな飛沫は、その重みで空気中を漂うことなく落下します。例えば落下した先にテーブルがあれば、そのテーブルに触れた人の手にウイルスが付着。そして、知らず知らずのうちに手を鼻や口に持っていき、粘膜からウイルスが侵入してしまう。そこで、「手洗い」が重要になってくるのです。日本などの衛生環境の良い国以外に滞在する際には、下痢の予防としても「手洗い」という自己防衛を徹底してください。

新たな脅威になる?新型ウイルスの登場

ここ数年、高病原性の鳥インフルエンザが問題視されています。毎年冬から春先に患者の発生が報告され、2014年は中国で100人ほどの死者が確認されました。今のところ、人から人への持続的な感染が起こっていないため「新型インフルエンザ」とは呼ばれていませんが、いつ性質を変えてもおかしくありません。国は新型インフルエンザによる死亡者を最大64万人と想定して政府行動計画を策定し、抗インフルエンザ薬の備蓄も行われています。

20世紀以降に流行した新型インフルエンザとしては、スペインインフルエンザ(スペインかぜ)、アジアインフルエンザ、香港インフルエンザなどがあり、中でも1918 年のスペインインフルエンザの感染者は約6億人、実に全人類の約3割が感染したとされています。死者の大半が若者だったことから、スペインインフルエンザでは「サイトカイン・ストーム」と呼ばれる免疫系の暴走が起こったという見方が有力です。つまり、多くの若者がその免疫反応の活発さゆえに、全身に炎症が起こり、死に至ってしまったわけです。サイトカイン・ストームの予防法や治療法はまだ十分には分かっておらず、この脅威は今なお続いています。

(『新鐘』No.81掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2014年)のものです。

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