時と所が移ろえば、伝統行事も様変わりする。たとえば七夕。行事としての七夕の主役は、万葉の昔からずっと未婚の女性であった。七夕の晩、五色の糸を針の穴に通して将来の幸福を祈る「乞巧(きっこう)」の儀式が行われた。七夕はもともと中国起源の節日なので、むろん中国でも同様である。
今日の日本では、「乞巧」の儀式は完全に廃れ、竹の小枝に願い事を記した短冊をつるすのがもっともポピュラーであろう。幼稚園や小学校の行事として行われることが多いせいか、子どもたちが主役という印象が強い。
一方、現代の中国で、「七夕」はさしずめ中国版バレンタインデーである。天上の織姫と彦星は年に一度の逢瀬しか許されないはずだから、それで不足はないのだろうかと要らぬ心配をしてしまうが、中国の若者たちはこの点だけは都合よく無視を決め込んで、男性が思いを寄せる女性に愛を告白したり贈り物したりする日と目している。「乞巧」は日本同様、もはやまったく行われなくなった。
日中の間の相違をもう一つ。日本の七夕は陽暦で行うため、日本の現代版七夕に月は登場しない。一方、中国では今でも陰暦で行う。今年は八月七日が陰暦の七夕であった。陰暦は月の満ち欠けを基準とする暦なので、七夕の夜空には毎年必ず半月に近い形の月が上る。ところが、中国版七夕のカードをネットで眺めていたら、驚くべき新手のデザインが出現していた。若い男女が寄り添うシルエットの背景になんと満月が明るく輝いていたのである。どうやら、中国でも陰暦そのものが形骸化しつつあるようだ。
(s.u)
第1055回