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早稲田のボランティア経験から無国籍問題の解決に奔走! 白石達郎の道筋

AIの最前線で無国籍問題に取り組む

ANOSUPO AI 共同代表 白石 達郎(しらいし・たつろう)

早稲田キャンパス 大隈記念講堂を背に

世界では、国籍を持たない「無国籍者」が把握できているだけで約430万人も存在し、国際問題の一つになっている。この問題にソーシャルビジネスの視点から向き合っているのが、ANOSUPO AI (以下、アノサポ)を立ち上げた、人間科学部出身の白石達郎さん。AI活用で雇用を生み出し無国籍問題を解決しようという取り組みは、海外メディアからも注目を集めている。その活動の原点には、早稲田大学入学早々の挫折と、そこから浮上のきっかけを作ってくれた、ある恩師の存在があった。

挫折で始まった学生生活 ボルネオで見つけた新たな扉

「箱根駅伝で走りたい。その一点だけが早稲田への志望理由でした」

現在は無国籍問題の解決のため、まさに国境を越えて東奔西走する白石さん。だが、大学入学当初の目標は、早稲田大学競走部で4年間を過ごし、箱根路を走ること。当時を振り返り、白石さんは「井の中の蛙(かわず)でした」と語る。

「高校では『楽しく走ろう』という環境だった自分にとって、早稲田の競走部は別次元。同期の太田智樹(2020年スポーツ科学部卒。パリ五輪男子1万m決勝出場)選手や先輩たちの走りに、『こんなにも住む世界が違うのか』とレベル差を痛感し、1年生の7月には退部を選びました」

競走部の寮も退去し、しばらくは何かをしたい気持ちも湧かなかったと言う白石さん。学部にもなじめず、高校時代の友人と無為に時を過ごす日々が続いた。

「夏休みも終わり、さすがに何かを変えなきゃダメだと焦りはじめた時期に、たまたま知った早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)。そこで出会ったのが、岩井雪乃先生(元平山郁夫記念ボランティアセンター准教授。2026年3月退職)でした」

アノサポ立ち上げ後に撮影した岩井先生との一枚。前列左が岩井先生、後列左が白石さん

白石さんは、WAVOCが主催する福島県浪江町への震災復興スタディツアーに参加。その活動をきっかけに、岩井先生と深く話す時間を得た。

「雪乃先生は、1時間以上も僕と向き合って話を聞いてくださいました。そこで、何かをやり遂げてみたいという自分の悩みを打ち明けたところ、『ボルネオプロジェクトという、学生ボランティア団体の活動に参加してみたら?』と提案してくださったんです。その言葉によって、自分の人生の方向性が一気に変わりました」

ボルネオプロジェクトは、マレーシアのボルネオ島へ渡航し、現地でマレーシア国籍を持つことができない無国籍の子どもたちに教育企画を行うWAVOC支援サークル。3週間のこの渡航が白石さんの人生の新たな扉となった。

「ボルネオ島の子どもたちは、国籍がないために学校に通うこともできず、警察から隠れて生きなければならない。そのことを知った時に衝撃というか、憤りにも近い感情があふれました。当初は、3週間の渡航期間でカンボジアをはじめ東南アジア各国を訪ねる予定でしたが、それを全部キャンセルしてボルネオ島に残り、帰国前には『休学してまたここに来よう』と決めていました」

白石さんは1年間大学を休学し、教師という立場でボルネオ島の子どもたちと向き合う日々を選択。だが、「このままで良いのか?」という衝動はおさまらなかった。

「長期間、子どもたちと過ごすことで子どもたちの成長を感じる日々は、ボランティア活動だけでは味わえない充実感はありました。しかし、『無国籍』である限り、子どもたちはどんなに学力が向上しても就職先はないし、警察から逃げる生活に変わりはない。大学に戻る頃には、また別の無力感も感じていました」

ボルネオプロジェクトにて、無国籍の子どもたちに勉強を教えている様子

根本的な解決のためには何を成すべきか…。そんな悩みを、WAVOCの活動で知り合い、後に事業を一緒に創業する河内将弘さん(2018年人間科学部卒)に相談したところ、新たな道につながったのだ。

「河内は私の三つ先輩で、当時すでに、社会課題解決のためのソーシャルビジネスを展開するボーダレス・ジャパンという会社に入社していました。河内に相談するうちに、『ボランティアでは限界があることでも、ここでなら挑戦できるかもしれない』と、自分も同じ道に飛び込むことにしたんです」

写真左:河内さん(左)との在学中の写真。マレーシアのコタキナバルにて
写真右:ボーダレス・ジャパン1年目に同期と撮った写真。左から2番目が白石さん

先の読めないAI時代を生き抜くためには

在学中からボーダレス・ジャパンの事業に参画した白石さんは、卒業後の2021年、24歳の時に河内さんとアノサポを創業。AI開発に必要不可欠な“アノテーション”を通して無国籍問題に取り組んでいる。

「アノテーションとは、AIが学習するための元データ(教師データ)を人の手で整える作業を指します。国籍がない子どもたちが母国に帰ることができたとしても、親は何の仕事をして生活していけば良いのか。突き詰めて考えた結果、教育を受けていなくてもオンラインで始められ、段階的にスキルアップもできる教師データ作成を通して雇用をつくり出すことに可能性を感じました」

無国籍だった子どもたちがフィリピンへ帰国し、国籍を取得できた時の一枚。内戦による治安悪化と経済の停滞から、安定した職を求めてボルネオに渡っていたそう

ChatGPTをはじめ、AI関連の新サービスが次々にリリースされたのは2022〜2023年。アノサポはそれ以前に、AIで新機軸を打ち出していたことになる。この事業内容は、2023年、Forbesが選定する「30 UNDER 30 ASIA(アジアを代表する30歳未満の30人)」に選出されるなど、大きな注目を集めた。

「自分たちだけで思いついたアイデアではなく、さまざまな人に相談した中で生まれたもの。自分たちがすごいことをやったという意識はなく、むしろ、根本課題である無国籍問題に向けてはまだまだ解決すべきことばかり。それでも、Forbesからの評価は自分たちの活動内容を広く知ってもらう上で励みになり、ありがたいものでした」

「30 UNDER 30 ASIA」では、ソーシャルインパクト部門で選出された

評価を受けたといっても、AIの進化は日進月歩。アノサポの取り組みも次なるステージを見据えている。

「現在はAIを開発している会社からアノテーション業務を委託いただいていますが、『教師データを作る』工程そのものが、いずれはAI自身に代替される可能性は大きいです。そこで、農業をはじめ今後AIによる自動化が求められる分野でのAI開発支援を通した雇用創出を、もう一つの事業の柱とすべく動いているところです」

2025年、フィリピンのダバオで行ったアノサポのミーティングにて。後列中央が白石さん

AIの最前線に立ち、無国籍問題に取り組む白石さん。その視点で、学生に向けてアドバイスしたいことがある。

「産業革命の渦中にいた人々がその後の社会変化を予見できなかったように、AI革命真っただ中のこれからの社会がどう進化・変化していくのか分かりません。そんな時代で大事なのは、従来の常識にとらわれず、さまざまな視点で物事を判断できること。ChatGPTに聞けば“良い感じの答え”は返ってくるでしょうが、本当にそれが自分にとって最適なのか。それを判断するためにも、自分の人生で何が大事なのかをしっかり確立する必要があると思います」

そのために、白石さんが在学時に選択した「休学」について、次のように語る。

「学生のうちは、本当に好きなことをとことん突き詰めるべき。ならば、大学は4年で卒業し、就職活動にも早めに打ち込んで…という流れにあらがう選択肢もあるかもしれません。私自身は、1年間の休学期間にボルネオ島で過ごした時間が今でも財産になっています。一度自分で立ち止まってみることも、その後の人生に大きな意味を持つはずです」

人生という長距離走。納得のいく目的地に到達するためにも、時には立ち止まって足元を見つめ直すことが必要なのかもしれない。

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:石垣 星児

【プロフィール】

1997年、東京都羽村市出身。早稲田大学在学中にマレーシア・ボルネオ島コタキナバルで無国籍状態となった子どもたちを対象に教育ボランティアとして約2年間従事。2021年に人間科学部を卒業後、ボーダレス・ジャパンでの活動を経て、24歳でANOSUPO AIを共同創業。無国籍問題を解決するソーシャルビジネスのパイオニアとして、Forbes「30 UNDER 30 ASIA」ソーシャルインパクト部門に選出。現在は原点の地、マレーシア・サバ州・コタキナバルを拠点に活動している。

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