近年、国内で発生および摘発件数が増加している犯罪、「盗撮」と「詐欺電話」。スマホの普及や通信技術の発達に伴い、こうした犯罪はより身近で巧妙なものになっており、学生にとっても無縁ではなく、大学への相談も増えています。一方で、「まさか自分が被害に遭うはずはない」と油断してしまう人は多いのではないでしょうか。今回、早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)が弁護士法人早稲田大学リーガル・クリニックを訪れ、犯罪の実態や対策について、小西泰弘弁護士と宮野絢子弁護士にお話を伺いました。盗撮や詐欺電話に対してどのように向き合うべきなのか、一緒に考えてみましょう。
早稲田大学リーガル・クリニックにインタビュー
所属弁護士のお二人にお話を伺いました!
早稲田大学リーガル・クリニック
小西 泰弘(こにし・やすひろ)弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業後、会社員を経て、早稲田大学大学院法務研究科修了。2023年に早稲田大学リーガル・クリニック入所。2024年から早稲田大学大学院法務研究科アカデミック・アドバイザー。
宮野 絢子(みやの・あやこ)弁護士
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。刑事対応型の公設事務所である弁護士法人北千住パブリック法律事務所での勤務を経て、2024年に早稲田大学リーガル・クリニック入所。
早稲田ウィークリーレポーター
文化構想学部 3年 西村 凪紗(にしむら・なぎさ)
法学部 2年 金井 秀鴻(かない・すほん)

(前列左から)小西弁護士、宮野弁護士、(後列左から)金井さん、西村さん。早稲田キャンパス 28号館早稲田大学リーガル・クリニックにて
【盗撮】主なケースと対策から学ぶ、「撮影罪」のポイントと影響
ケース① エスカレーターで、すぐ背後に気配を感じ、振り返ると男性が手に持つスマホがスカートの真下にあった。
ケース② 更衣室の棚の上に、衣服で覆った小型カメラが設置されていた。
ケース③ スマホのカメラのズーム機能により、離れた場所から盗撮されていた。
西村:もしキャンパス内で盗撮被害に遭ってしまった場合は、どうすれば良いのでしょうか?
宮野:まず、加害者を観察する余裕があれば、盗撮したと思われる相手の顔や服装の特徴を確認しましょう。捜査機関でなくても現行犯逮捕は可能ですが、相手は逆上する可能性もあるので、自分の身の安全を最優先に考えるべきです。危険を感じた場合には、相手から少し離れたり人の多い方へ移動したりして、声を出して周囲に助けを求めましょう。近くにいる友人や警備員など周囲の助けを借りてその場で相手を拘束できたのであれば、直ちに警察に通報してください。
相手が逃げてしまったとしても、盗撮事案の場合、加害者の顔や服装などの特徴が説明できたり、防犯カメラに加害者の姿が映っていたりする場合には、警察の捜査の手掛かりになります。加害者の撮影に使用したスマホにも盗撮画像などの証拠が残り、多少時間が空いてしまっても犯人が捕まるケースもあるので、学部事務所や警察に相談しましょう。

宮野弁護士
西村:犯人が捕まらず、泣き寝入りせざるを得ないケースは結構あるのでしょうか? また、盗撮した相手がスマホから証拠となる画像を削除した場合はどうなりますか?
宮野:被害を受けた本人が盗撮されていることに気付いていないケースもあるでしょうし、気付いたとしても、その場で逮捕に至らなかった場合などは、電車内など防犯カメラによる証拠がなく、犯人を捕まえることができないケースも残念ながらあるとは思います。とはいえ、撮影した画像を削除された場合でも、警察などの捜査機関であればスマホを解析して写真を復元できる可能性がありますので、警察に相談するのは有効です。
撮影罪の制定 盗撮は犯罪! 未遂でも処罰の可能性
小西:2023年7月からは撮影罪(※1)が新たに法律として定められました。それまで盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例により取り締まられていましたが、地域によって規制の範囲や罰則が異なるなどの課題がありました。撮影罪が定められたことにより、これまでの条例違反に比べて全国一律で重い刑罰が科されるので、「盗撮は迷惑行為ではなく犯罪」という位置付けも明確化されたと思います。また、撮影罪の規制の範囲は盗撮に限定されるわけではなく、被害者を酔わせる、脅迫する、抵抗を抑えつけるなど、被害者の意思に反して性的な部位を撮影した場合にも成立します。
※1 「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」、通称「性的姿態撮影等処罰法」の施行により定められた処罰。違反した場合、最大で3年の拘禁刑、または300万円以下の罰金が科される。

図版提供:弁護士法人デイライト法律事務所
さらに、性的姿態撮影等処罰法では、盗撮画像を第三者に提供する提供罪や、提供目的で保管する保管罪、盗撮画像だと認識した上で記録する記録罪も新たに定められました。
宮野:撮影罪は、盗撮が未遂であっても罰せられる可能性があります。例えば、ケース①でシャッターボタンを押す前に被害者が気付いた場合や、ケース②の更衣室で録画状態になっている小型カメラに利用者が気付いて通報した場合など、何も撮れなかったとしても、撮影罪が成立する可能性は高いです。また、ケース③のカメラのズーム機能については、街中やキャンパス内の場合、着衣の状態を撮ったとしても原則として撮影罪には問われません。ただし、服の隙間から見える性的な部位や下着を撮ろうとしていた場合は「性的姿態」に当たるので罪になる可能性があります。顔の場合は「性的姿態等」には当たりませんが、不快感を与える行為であることに変わりはなく、刑事上のトラブルにはならずとも、民事上のトラブルの契機となる行為でしょうから、すべきではありません。
気軽にアップした写真が思わぬトラブルに
小西:スマホやSNSが普及した影響で、一昔前と比べると、驚くほど撮影自体のハードルが下がり、また、写真や動画を友人に共有することへの抵抗も無くなっていると感じます。そのため、興味本位や面白半分で「性的姿態」を撮影し、友人に共有してしまっていることがあるかもしれません。さらに、限定公開のSNSであれば友人にしか見られないと思ってアップしてしまうことも。確かに限定公開であれば特定のフォロワーにしか公開されませんが、そのフォロワーの誰かがスクリーンショットを撮って公開アカウントにアップする可能性もあります。SNSに一瞬でも情報をアップしたらもうコントロールできないと思って、想像力や危機感をしっかり持って対応してほしいですね。
西村:確かにInstagramには、“したとも機能(親しい友達まで公開する機能)”がありますが、この公開範囲であれば問題ないだろうと気軽に写真を上げてしまいますね。盗撮事案ではありませんが、そこから思わぬ画像が流出して友人とトラブルになったという話は聞いたことがあります。
【詐欺電話】主なケースと自己防衛の心得
ケース① 実在する警察署の代表番号(発信番号の偽装)や、+1や+44などから始まる国際電話番号から警察を名乗る電話があり、「あなたに犯人の疑いが掛かっているので確認させてほしい」などと言われ、取り調べの名目でSNSや通信アプリを使って接近してくる。
ケース② 主に中国からの留学生に対し、中国大使館や中国公安局、出入国在留管理庁などの公的機関の職員を名乗る者から電話があり、「あなた名義の口座が犯罪に使われている」「あなた名義の不正な郵便物が届いている」などと言い、通信アプリをダウンロードさせ、ビデオ通話で偽物の逮捕状を見せて「逮捕されたくなければ金を払え」と高額な金銭を要求する。(※2)
知らない番号からの着信は必ず調べてみる
金井:警察や公安など、公的な立場をかたるパターンが多いのですね。
小西:近年は公的な立場になりすましてお金をだまし取る手口の詐欺が急増しているようですが、詐欺師がどのような立場になりすましたとしても、ウソを言ってお金をだまし取ろうとしている点は不変です。公的な立場以外にも、時には子ども、時には金融機関と、その時々でなりすます役割を変えます。そのため、「公的な立場の電話に注意する」とかではなく、そもそも「知らない人から電話が掛かってきたこと自体を疑う」ことが必要です。仮にそれが公的な立場の人を名乗っていたら、番号と担当者名を聞いて、実在する番号か調べてから掛け直せば済む話です。
昔から電話は「詐欺の三種の神器(他人名義の預金口座、他人名義の電話、電話をかける名簿)」の一つと言われています。電話は相手の顔が見えず、詐欺師の言うウソの状況を想像して話を聞いてしまうため、客観的な判断に誤りが生じやすいツールだといえます。その上、詐欺師は電話を切らせないように次々いろんなことを言ってきて、冷静な判断をさせないようにします。

小西弁護士
詐欺というのは結局お金を目的としているので、どこかのタイミングで必ずお金の話になります。電話の中でお金の話が出てきたら、「なぜ、この人は会ったこともない私にお金の話をしているんだ?」と、一度冷静に考えてみてください。会ったこともない人からお金の話が出ていること自体おかしいんです。
金井:実は、実際に警察をかたる詐欺電話が掛かってきたことがあります。気付いたら3回着信があって…電話番号を調べると大阪の警察署からだったので動揺したのですが、友人に話すと「詐欺っぽいね」と言われて。念のために交番へ行って相談したら「それは無視してください」と言われました。結局何事もなかったのですが、本当に掛かってくるものなんだと驚きましたね。
小西:知らない電話番号からの着信には応じないというのは一つの手ですね。マナーとして、電話が掛かってきたら出ないといけない、掛け直さないといけないと思う心理を利用されているんです。
金井:確かに、僕は今都内在住なのですが、大阪からではなく都内の警察署の電話番号だったら掛け直していたような気がします。
宮野:詐欺電話という古典的な手法ですが、時代に合わせて設定を変え、犯罪グループはどんどん新しい手口を考えています。かつて横行した子や孫をかたるオレオレ詐欺から、医療費や年金などの還付金詐欺、そして警察をかたる詐欺など、数年でトレンドが変わり、かつ巧妙化していくのでだまされる人はなかなか減らないのだと思います。
詐欺から身を守るためには?
金井:次々と新たな犯罪の手口が編み出されるのは詐欺電話に限ったことではないと思いますが、私たちはどのように身を守っていけば良いでしょうか?
小西:それぞれの犯罪の手口を知ることも重要ですが、そもそも、知らない人から連絡が来ることや、平穏な生活を送っているのに突然事件の内容が電話で告げられることについて、純粋に怪しいというアンテナを張るべきだと思います。大学生であっても18歳以上は大人として扱われますから、冷静に考える判断能力を高めて、自分の身を守ってもらう必要があります。
宮野:民法が改正されたことにより大学生は成人の扱いになりましたが、まだまだ守られなければならない存在でもあります。「こんなことがあったけど、変じゃないかな?」という小さな違和感があったら、周りの大人に相談することを恐れないでください。友人でも先生でも交番でも、まずは相談ということを心掛けてもらえたらと思います。
取材・文:桑本 薫平
撮影:橋本 千尋
インタビューを終えて、どんなことを感じましたか?
西村さん
撮影罪については初めて知りましたが、厳罰化により盗撮は犯罪であるという認識が広がることは良いことだと思います。また、撮影や限定公開のSNS投稿に対する抵抗感が少なくなっているという指摘にはハッとさせられました。詐欺電話については、とにかく冷静に、「なぜこの電話が自分に?」と一歩引いて考えることを心掛けたいと思います。
金井さん
スマホの普及により、ある意味、盗撮可能な小型カメラをみんなが持っている状況に、責任や危機感を持つ必要があると感じました。詐欺に関しては、はやりのケースを理解し警戒するだけでは不十分だということを学びました。「どこかのタイミングで必ずお金の話になる」といった、抽象的な警戒を意識するようにします。
弁護士法人早稲田大学リーガル・クリニック
法律版「大学附属病院」を目指してつくられた法律事務所。良質の法律サービスを提供する法律事務所として活動をしながら、学生の臨床法学教育を目的とした教育機会を提供する教育機関としての役割も担っている。所属弁護士の多くは早稲田大学における法曹教育に関与している。
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1丁目1番7号 早稲田キャンパス 28号館 4階
TEL:03-5272-8156
Webサイト:https://www.waseda-legalclinic.com/
【次回フォーカス予告】10月13日(月)公開「所沢キャンパス祭」特集