「犬も、人も、毎日をより楽しめる世界を実現したい」
政治経済学部 4年 阪上 愛莉(さかがみ・あいり)

戸山キャンパス 戸山の丘にて。西陣織ドッグウエアを手に
西陣織ドッグウエアブランドlocoを展開する株式会社loco y tanto(ロコイタント)を起業した阪上愛莉さん。動物保護活動にも力を入れて取り組んでおり、保護犬の譲渡会開催などに携わっています。そんな犬との関わりを大切にしている阪上さんに、loco y tantoを起業した理由や早稲田大学での学び、今後の展望などを聞きました。
――loco y tantoを起業した理由を教えてください。
初めて起業したいと思ったのは、小学校5年生の時です。私の父が起業家だったのですが、そのビジネスに関する話を詳しく聞く機会がありました。既存のレールに乗らずに、新たなことにチャレンジしている父の姿がカッコよく映り、起業家という存在に憧れを抱いたんです。
自分はどのようなビジネスを行いたいか考えた時に、真っ先に犬が頭に浮かびました。生まれた頃からずっと家に犬がいる環境で育ち、犬が大好きだったんです。小学生時代には、毎日『犬種図鑑』を抱えて学校に通い、隅から隅まで覚えてしまうほど熟読していました。
大学入学後には、ご縁があって青山学院大学ボランティアセンター所属の学生動物愛護団体「きすあに」代表を務めるなど、動物保護活動にも携わってきました。しかし、その活動の中で、社会貢献をしながら利益を生み出すということの難しさも痛感したんです。そこで、犬に関わる何かでビジネスを成り立たせたいと考えるようになりました。
写真左:実家の愛犬との一枚
写真右:動物保護活動の一環として、企業や芸能人と犬の譲渡会を開催した時の様子(2022年1月頃)
ちょうど同じタイミングで、京都の西陣織に携わっている私の知り合いが、日本の伝統工芸品としてより多くの人に認知してもらいたいと考えていることを知りました。西陣織産業は衰退傾向にあり、職人の技を次の世代に受け継ぐために、新たな市場を開拓していきたいという意向があったのです。京都府出身の私は、小さい頃から学校の授業などで西陣織に親しんできたこともあって、その一助となりたいと感じました。そこで犬と西陣織という、一見結びつきにくいもの同士を掛け合わせてみようと思い立ちました。
――locoの西陣織ドッグウエアの特徴を教えてください。
シルクで作るため、他のドッグウエアにはないような光沢が出るのが特徴です。また、西陣織は丈夫な生地でシワになりにくいので、生涯に渡って着用でき、サステナブルな商品であるとも言えます。オーダーメードで一つ一つ手作りするので、サイズや形、デザインに至るまで、お客さまの全ての希望をかなえることができ、世界に一つしかないドッグウエアが完成します。
――反響はどうですか?
2024年10月には西陣織ドッグウエアの試着&撮影会を初開催しました。価格が安くはない商品なので、まずはお客さまとの接点を持つ場を作り、素材の良さや細かなこだわりを伝えたいと思ったからです。お客さまからは「かわいい」「すごい」といった声をいただくことができ、手応えを感じました。また、改善点など新たな発見を得ることができる貴重な機会にもなったので、今後も積極的に開催していきたいと思います。

西陣織ドッグウエアの試着&撮影会にて
――大学での学びが起業や経営に生きている点はありますか?
これまで学部の授業の他に、「起業家養成講座I」(商学部設置科目)やリーダーシップ開発プログラム(LDP)など、ビジネスに関する授業を数多く受講してきました。実際に社長の方に直接お話を聞ける機会もあったので、自分自身でビジネスをする上で、とても参考になりました。私は猪突猛進タイプで、やりたいと思ったことに突っ走ってしまうことが多いのですが、授業ではビジネスを展開する際の手順などを順序立てて教えてくれるため、一度立ち止まって冷静に考える機会を提供してもらえています。

「起業家養成講座I」でのグループの仲間と。作成したビジネスプランが評価され、授業と連携している「第24回早稲田大学ビジネスプランコンテスト」(2021年)の出場資格を得て、準優勝という成績を修めた
――今後の事業展開はどのように考えていますか?
現在はオンラインでの販売が中心なのですが、百貨店への出店も視野に入れています。ただし、規格商品を販売するのではなく、これまで通りオーダーメード商品を提供する予定です。百貨店はサンプルを展示する場として活用し、お客さまに直接見て、触れてもらって商品の良さを伝えることで、購入のきっかけになればと考えています。
また、海外の方向けの販売に力を入れていきたいと考えています。西陣織という日本の文化に海外の方にも触れてもらいたいからです。2024年12月にはアメリカの富裕層が集まる、カリフォルニアのビバリーヒルズにリサーチに行こうと思っています。アメリカのペット産業がどのようになっているのか、現地の飼い主たちの間ではどういったペット用品が人気なのかを、自分の目で見て確かめたいです。
現在はドッグウエアのみを販売していますが、リボンやチョーカーといった小物も展開していこうと考えています。西陣織は生地が厚いという特徴があるため、現段階では細かい商品を作るのが難しく、試行錯誤中です。
写真左:西陣織の制作の様子。阪上さん自身が京都の工房に行って、直接発注をしている
写真右:取材時の様子。一着10万円以上するため、七五三や誕生日などのお祝いの際に購入してもらいたいそう
――今後の展望を教えてください。
最終的な目標は、日本における犬の社会進出を実現することです。例えばヨーロッパでは、犬が当たり前のように電車やカフェ、オフィスに入ることができます。一方で日本では、犬が電車に乗る際には重量制限などの条件があり、気軽に利用できません。犬好きな人ばかりではないので難しいことは確かですが、犬が自由にいろいろなところへ出掛けられる社会を構築できれば、犬と人間の生活がより豊かになるのではないかと考えています。
現在行っている事業は、私が描いている構想の序盤に過ぎません。今後さらに事業を拡大していくことで、最終的にはその目標を達成し、私の大好きな犬も、人も、より毎日を楽しめる世界を実現したいです。
第889回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
文化構想学部 3年 浮谷 雛梨
【プロフィール】
京都府出身。府立嵯峨野高等学校卒業。好きなことは犬と関わることの他に、旅行、音楽、読書。一人でバックパックをするなど、好奇心旺盛な性格の持ち主で、ヨーロッパからインドにかけて、2カ月にも渡る旅をしたそう。現在実家で飼っている犬は、イタリアングレーハウンドとボストンテリア。
株式会社loco y tanto公式ショッピングWebサイト:https://l.locoytanto.com/
Instagram:@locoytanto