「大学に通いながらも強豪と対決し、多くの国際大会で優勝を勝ち取ったことは大きな自信につながっている」
スポーツ科学部 3年 中塩 佳那(なかしお・かな)

所沢キャンパスにて
高校生の頃からサーフィンのトップジュニア選手として活躍してきた中塩佳那さん。日本サーフィン連盟(NSA)年間ガールズランキングで5年連続1位を獲得するなど、優秀な成績を収めてきました。2021年の高校在学時に日本プロサーフィン連盟(JPSA)のプロ公認資格を得てプロに転向後も、国内外多くの試合に精力的に出場し、JPSAショートボード女子年間ランキング1位(2022年)を獲得。現在はサーフィンの聖地である千葉県一宮町に在住し練習に打ち込みつつ、往復6時間かけて所沢キャンパスに通い、スポーツ科学部でサーフィンのコーチングについて熱心に学んでいます。学業と両立しながら2028年のロサンゼルスオリンピック出場を目指す中塩さんに、その意気込みと学生生活について聞きました。
――サーフィンを始めたきっかけと魅力について教えてください。

一宮町に移住前は、出身地でもありサーフィンで有名な仙台新港で練習していた。写真は8歳の頃
物心付いた頃からサーファーの父や兄とよく海に行っていたので、サーフィンは身近な存在でした。4歳の頃、練習を始めたその日にボードの上に立てて、大人たちに褒めてもらえたことがうれしくて。その経験が、大きなきっかけになったと思います。出身は仙台なのですが、東日本大震災を機に、サーフィンのトップ選手が集まる千葉県一宮町に移住し、地元のサーファーの方々にいろいろアドバイスをいただきながら練習に打ち込んでいます。
サーフィンは、実際にライディング(波に乗る)して初めてその日の波の感覚がつかめるので、直前までどんなパフォーマンスができるか予測できない、まさに自然相手に挑む競技です。上級者でも海の状況によって結果が大きく左右されてしまう、スポーツの中でも難しい競技なのではないでしょうか。でも、自分は「この波を楽しもう!」「この波を乗り越えればもっといいライディングができるようになる!」というメンタルを常に保つようにしていますし、こんなふうに強い意志で挑めば強豪相手でも勝てるチャンスがあるのが、サーフィンの面白いところだと思います。
――大学に進学するプロサーファーは少ないそうですが、競技を続けながら早稲田大学に入学した理由は何でしょうか?
高校1年生の終盤からコロナ・パンデミックの影響で試合が開催されない状況が続く中、高校を卒業しても試合に出られず何も得るものがないまま月日が流れてしまうことに不安を感じ、大学に進学しようという気持ちが芽生えたんです。そんなとき、当時の担任の先生から早稲田大学スポーツ科学部のトップアスリート入試の受験を薦められました。サーフィンをしているからか、体を動かしたときにどこの筋肉が使われているかということに元々興味があり、そういう分野が学べて自分の競技に役立てられる環境に身を置きたいと思い、受験を決めました。大学でサーフィンのパフォーマンスの向上や指導法について研究するのは珍しいそうで、面接では教授がとても興味を持ってくれたのが印象的でしたね。
――大学生とプロサーファー、文武両道の学生生活について教えてください。
いつでもサーフィンの練習ができる環境の一宮町からは離れたくなかったので、そこから所沢に通うことを選びました。なので通学が大変で…。所沢キャンパスまでは片道3時間かけて通学しています。
あとは授業と試合の両立にいつも苦戦しています。国内外問わず出場する試合は、情報収集から渡航の手配までを全て自分でマネジメントしているのですが、授業の計画と試合のスケジュールを上手く組み立てるのは難しく、遠征先でも授業を受けられるようにオンデマンド科目を選択することもあります。授業を受けながらもなるべく多くの試合に出て戦績を残したいので、昨年度は国内外合わせて17試合出場し、海か大学にしかいないような、ほとんどオフがない年でした。でもその苦労のかいあって、地元で開催された「QS3000 BONSOY CHIBA ICHINOMIYA OPEN 2023」で初優勝を飾れたことや、国内外のトップ選手が集う「ラ・ウニオン・インターナショナル・プロ」で、東京オリンピック銅メダルを獲得した都築有夢路(あむろ)選手たちを始めとした強豪と対決して優勝を勝ち取ったことは、大きな自信につながりました。
写真左:QS3000 BONSOY CHIBA ICHINOMIYA OPEN 2023(2023年7月開催)では、地元一宮町で初優勝を飾れたことがとてもうれしかったそう
写真右:ラ・ウニオン・インターナショナル・プロ(2024年1月フィリピンで開催)では、名立たる強豪を圧倒して優勝したことに歓喜。写真中央が中塩さん
大学に通っていて良かったと思うのは、他のスポーツに励んでいる同級生と一緒に自分も成長できる環境にいることです。お互いの近況を伝え合い、自分もサーフィンを頑張ろう! と奮い立たせてくれるので、とてもいい刺激になっていますね。
――スポーツ科学部ではどんなことを学んでいますか?

子どもたちにサーフィンを教えるのが好きだという中塩さん。教える子それぞれの技量に合った波の選び方のアドバイスをしている
スポーツコーチングコースに所属しており、今は藤田善也准教授のゼミで「測定評価とコーチング」を学んでいます。研究内容としては、自分の競技中の動画を他のサーファーに見せて指摘をもらい、技に入るまでの姿勢や目線、体の使い方、サーフボードの角度、水しぶきの大きさなどをまとめ、より効果的なパフォーマンスをするにはどうすれば良いかを模索しています。自然相手のサーフィンを科学で詳細に解析したいですね。
また、言葉にして教えるのが難しいサーフィンにはどのような指導法が最適なのか、コーチングの授業で学びながら考えています。普段の練習の合間に子どもたちにサーフィンを教えることがよくあるので、大学で学んだことが実践できる場となっていますね。
――今後の目標を教えてください。
競技の目標としては、4年後のロサンゼルスオリンピックの出場です! 今年のパリオリンピックは、競技会場がタヒチ島と3年前に発表された時点で出場を見送りました。タヒチの波は世界で最も危険な波と言われるほど大きく厚みがあり、自分の身長の何倍もある波を背にしてテイクオフ(ボードに寝た状態で手で漕ぎながら加速し、波の勢いに乗って立ち上がる)するには、国際大会のトップツアーの実力者並みの経験が必要だと考えたのが理由です。加えてタヒチは海底が砂ではなくサンゴ礁になっているため、最悪の場合けがをするリスクがあるほど。これらを踏まえて、自分のパフォーマンスが最大限に発揮できないと考え、次のオリンピックへ気持ちを切り替えました。やはりオリンピックに出るからには絶対にメダルを獲得したいですから。
今は、ロサンゼルスオリンピックに向けて世界のツアーに積極的に出場しています。国内では、JPSAの年間グランドチャンピオンと、ジャパンオープンに優勝して世界選手権代表になれるように頑張りたいです。これによりオリンピック出場がより近くなるので、大きな目標として掲げています。オリンピックは2032年開催のブリスベンまで視野に入れています。
写真左:国外ではアジアのツアーをメインに出場しており、「QS3000 Siargao International Surfing cup」(2023年10月〜11月フィリピンで開催)では3位となった
写真右:2023年、WSL(世界プロサーフィン連盟)アジア・リージョナルのジュニアツアー女子最終ランキング1位の成績を収めた。記念のトロフィーとともに
大学卒業後は、競技を続けていくのはもちろんですが、ゆくゆくはジュニアの指導に携われるようになりたいです。サーフィンの世界では、大学でコーチングを学んでコーチになっている人はまだいないようなので、その第一人者になれればと思っています。目指すは日本代表のコーチですね!
第871回
【プロフィール】
宮城県仙台市出身。千葉県立大原高等学校卒業。自然にたくさん触れていたいアウトドア派で、オフタイムは近くの海へ釣りに行くことも。水族館が大好きで、死ぬまでに国内の水族館を全て制覇したいという夢を持っているそう。