「自分たちの活動を通して、“カッコイイ人間”を増やしたい」
人間科学部 4年 有山 蒔恩(ありやま・じおん)

活動の一環でリノベーションを行った空き家にて
2021年、友人と2人で地元神奈川県相模原市に社会人サッカークラブ「Saltista橋本FC」を立ち上げ、現在副代表を務める有山蒔恩さん。社会人サッカーとしては珍しく約9割が学生で構成されたこのクラブでは、監督やコーチなどのフィールドでの仕事から、会計やWebサイト運営などの裏方まで、活動のほとんどを学生主体で行っています。さらに、昨年はサッカークラブ運営の域を越え、市内の空き家のリノベーション事業を行い地域に貢献。活動の幅を大きく広げています。今回はその活動を中心に、サッカークラブを立ち上げた経緯や、その思い、今後の展望について聞きました。
――まず、社会人サッカークラブ「Saltista橋本FC」を立ち上げた経緯を聞かせて下さい。
前々から組織を立ち上げたいという漠然とした思いはあったのですが、大学1年生のときにパンデミックで活動が制限され、このまま大学生活が過ぎていくことに焦りやもったいなさを感じていました。そんなとき、小中時代にサッカークラブで一緒だった友人から、サッカークラブの監督をやりたいから一緒にクラブを立ち上げないか、という相談があったんです。
私はどちらかというと、何か特殊なスキルがあるタイプではなく、周りにいるさまざまな能力を持った友人をうらやましいと感じていました。しかしそれと同時に、そういった周囲の人たちが才能をアウトプットしていないことにモヤモヤした思いもありました。友人の相談をきっかけに、サッカーという競技だけにとどまらずクラブチームを舞台に、そのような可能性あふれる学生たちに実践環境を提供できるのではないか、と考えたのが「Saltista橋本FC」を立ち上げた大きな理由です。

友人2人で立ち上げた社会人サッカークラブ「Saltista橋本FC」のメンバーと
――Saltista橋本FCの活動内容について教えてください。
私たちのクラブは現在競技志向の「TOPチーム」に31名、エンジョイ志向の「Lightチーム」に26名、そして運営20名の合計77名で構成されており、社会人サッカーとしては珍しく全体の9割が学生です。現在は神奈川社会人リーグの3部リーグに所属し、2部昇格に向けて活動を行っています。選手はもちろん、会計や栄養管理、Webサイト管理などを始めとした運営もほとんど学生主体で行っており、クラブで自分のかなえたい夢につながるような活動をしたいという学生を募り、輪を広げていきました。
パンデミック期間に長期インターンに参加した友人の話を聞いたことがあるのですが、実際は営業のテレアポなど単調な業務をすることが多く、自分の大学での学びを最大限に実践できる環境とは言い難く、将来に生きる体験は得にくいと感じていたそうです。だからこそ、私のクラブに参加する学生には本当にやりたいことを追求してもらい、活動を通していかに自己成長につなげていくかを一番大切にして欲しいと考えています。そのため、このサッカークラブではお互いがフラットな関係で、多くの学生が自身の希望するポジションに就き、自身の成長を実感できるような経験を積めるようにしています。

選手の9割が学生で構成されている「Saltista橋本FC」の選手たち
――2022年7月から空き家リノベーション活動を始めたと聞きました。なぜ、サッカーのクラブチームがそのような活動を始めたのですか? きっかけを教えてください。
より多くの学生に実践経験を提供したいという目標を掲げる一方で、サッカークラブの運営だけでは仕事の幅が狭いということが課題でした。そこで、地元の相模原市をより活性化させるような、地域貢献ができる新たな事業ができないかと考えていたときに、建築学部に所属するクラブメンバーがいたので、近年社会問題となっている空き家のリノベーションを行えば、良い学びのアウトプットにならないかという私の提案がきっかけです。
実際、相模原市にも空き家が多く存在しており、改修費などの問題でそのまま放置されている現状があります。学生がボランティアとして活動し、廃材を使用するなどのエコなリノベーションを行えば、クラブと空き家の持ち主、地域がwin-winの関係になれるのではないか。学生の成長としても地域貢献としても良い機会になるに違いない! ということで活動をスタートさせました。
――空き家リノベーションはどのように進められたのですか?
クラブの大学生3人で始めた活動ですが、知人やインターネットでの呼びかけで最終的には15人の仲間が集まりました。人件費はボランティアで行うため削減できましたが、問題となったのは材料費。まず行政に協力を求めましたが、学生のみで経験もないことから信用が得られず、クラウドファンディングでの資金調達を決意。公民館や自治体へ働きかけたり、ポスティングをしたりなど積極的に広報活動を行い、主に地域の方からご支援をいただいた結果、最終的には目標額の60万円を達成することができました。また、安全面を担保するため地元の建築会社にも相談を持ちかけ、専門的なサポートをいただきながら学生主体でリノベーション作業を行いました。
現在ではコワーキングスペースとして貸し出す傍ら、地域交流や運営スタッフが地元の小学生に勉強を教える宿題塾などのイベントも行っています。各種イベントは学生主体で企画するなど、積極的な実践環境の提供を意識しています。
空き家のリノベーション前(左)、とリノベーション後(右)。和のテイストは残しつつ、モダンな雰囲気に
――地域や学生から何か反響はありましたか。
地域の方からは「今まで学生が地域振興に関わる機会が少なかったので、若者が地域に関わるインパクトは大きい」と言っていただけました。また、地元企業の方からは、「ベッドタウンである相模原市では、今後多くの空き家が抱える老朽化問題解決の一助となり、安心な街づくりにつながるのでは」とのうれしい声もありました。さらに、先日は相模原市の中で最もSDGsに貢献した団体に贈られる「さがみはらSDGsアワード2023」にて審査員特別賞を受賞し、その成果を実感しています。
学生からも自身の活動が形になることにやりがいを感じるとの意見をもらい、最近では活動を知った学生から「『Saltista橋本FC』と関わりたい」という声、また相模原市からはフードロスに関するコラボ企画を打診されるなど、多方面から連絡をいただくようになりました。
写真左:SDGsに最も貢献した活動をした団体に贈られる「さがみはらSDGsアワード2023」授賞式の様子
写真右:空き家リノベーションに携わった学生メンバーと有山さん(写真左端)
――これまでの一連の活動の中で有山さんが最もやりがいを感じたことはなんですか。
メンバーが「活動に関わって良かった」と話してくれるときに1番やりがいを感じます。特に、初期メンバーの4人はそれぞれ就きたかった企業に内定をもらったり、大学院に進学したりするなどそれぞれの夢に向かって歩みを進めています。その4人からも「やって良かった」と言われたのは、とても嬉しかったです。

共に「Saltista橋本FC」を立ち上げクラブ代表を務める友人・横山颯さんとの写真(右が有山さん)
――団体として、そして有山さん個人として、今後の展望をお聞かせください。
クラブとしては、日本一地元を盛り上げるサッカークラブになることを目標として「関わる全ての人に飛躍のきっかけと兆しを提供する」という理念を掲げ、現段階ではその第一歩として若者支援に力を入れていきたいと考えています。今後は、起業家育成などの教育観点からの支援や、学生主体でまた新たにイベントを開催し地域を盛り上げるような、そんな活動をしていきたいです。
私個人としては、クラブの収益性や影響力を上げられるよう経営者として成長したいと思っています。また、より多くの人を巻き込んで相模原を盛り上げていきたいという思いもあります。「カッコイイ人間を増やす」というのが私の今の将来的なビジョンで、その実現を目指し努力をしている最中です。私の中で「カッコイイ人間」とは、何かに熱中する人、人を大切にする人、そして何事にも真摯(しんし)に向き合っている人で、こんな人がだんだんと増えていけば、社会はより良いものになっていくと考えています。

地域の「橋本七夕祭り」にも協力。今後はさらに活動の幅を広げたいという(左が有山さん)
第854回
取材・文:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
社会科学部 3年 堤 壮太郎
【プロフィール】
神奈川県出身。県立相模原高等学校卒業。のびのびとした校風に魅力を感じ早稲田大学に入学。小学校から高校までサッカーを続け、大学でもサッカーサークル(早稲田大学HUMAN F.C.)に所属。趣味は旅行やドライブ。
X(旧Twitter): @JionAriyama_
Webサイト(Saltista橋本FC ):saltista.com