2021年7月14日から27日にかけて、本学の早稲田キャンパス、戸山キャンパス、埼玉県川口市の青木町公園総合運動場において、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた難民選手団の事前トレーニングキャンプが行われ、本学は受け入れ対応を行った。
難民選手団は2016年リオデジャネイロ大会で初めて組織され、南スーダン、シリア、コンゴ民主共和国、エチオピアなど13カ国から集まった難民アスリートが所属している。事前トレーニングキャンプ受け入れについては、2019年に国際オリンピック委員会(IOC)から候補地として打診を受けたことから、国連難民高等弁務官事務所(UN[1]HCR)と日本オリンピック委員会(JOC)と本学が継続的に調整を進め、2021年6月に、本学とIOCとの間で正式な合意に至った。難民選手団が開催国で事前トレーニングキャンプを実施するのは、オリンピックの大会史上初めてのことだった。
本キャンプでは、大学施設の利用による大会・地域への貢献をはじめ、IOCとの連携強化を目指して、様々な取り組みが行われた。また、本学では2020年2月に、エチオピア出身の難民アスリートであるヨナス・キンディ選手が所沢キャンパスで東京マラソンに向けた事前トレーニングを行うなど、難民問題に積極的に取り組んでおり、本キャンプもそうした支援の一環として位置づけられた。学生にとっては、今回のキャンプが難民問題について考えるきっかけになり、より理解を深める機会となると考えられた。
2021年6月の合意後、IOCとJOC、本学、川口市、新宿区の5者間でキャンプ実施に係る覚書を締結。その後IOCと本学の間で正式契約を締結した。選手団の来日に向けて、学内での施設利用について、各授業や部活動との調整を行った。また、新型コロナウイルス感染対策については、受け入れ自治体である新宿区が中心となって感染防止マニュアルを策定。本学もそれに協力し、内容の遵守を徹底した。また、本キャンプの実施について、学内外への広報活動も行った。
事前トレーニングキャンプには、12競技29名の選手を含む、64名の関係者が参加予定だった。しかし、カタールのドーハでのトレーニングキャンプ終了後、来日前にPCR検査で役員1名に新型コロナウイルス感染症の陽性反応が出たため、日程を遅らせることとなった。7月14日には、ドーハでのトレーニングキャンプに参加していなかった選手2名とコーチ1名が到着。その後18日から20日まで、3つのグループに分けて後続の選手が来日し、選手、コーチ、役員含め27名が本学に滞在し、練習を行った。練習場所は早稲田キャンパスと戸山キャンパスの施設と、川口市の青木町公園総合運動場が使用された。本来の日程では、競技終了後に本学に数日間滞在予定だったが、感染対策のため競技後48時間以内での出国が義務付けられ、実施期間は短縮された。
難民選手団参加者概要
陸上競技選手・コーチ・・・9名
カヌー選手・コーチ・・・2名
柔道選手・・・1名
空手選手・コーチ・・・4名
テコンドー選手・コーチ・・・2名
レスリング選手・コーチ・・・2名
IOC役員・スタッフ等・・・7名
計27名
難民選手団使用学内施設
施設名称 | |
1 | 早稲田アリーナ(拳法場、トレーニングエリア、ウォーミングアップスペース) |
2 | 17号館(柔道場、レスリング場、空手場) |
3 | 99号館(STEP21) |
4 | 26号館11階会議室 |
5 | 大隈庭園 |
難民選手団使用学外施設
施設名称 | |
1 | 川口市青木町公園総合運動場 |
2 | リーガロイヤルホテル東京2階「ダイヤモンド」 |
トレーニングキャンプ中の新型コロナウイルス感染対策は、新宿区が策定したマニュアルに基づき、基本的事項、場面ごとの対策、選手団と受け入れスタッフの健康管理・行動管理、メディア対応、スクリーニング検査、感染疑い者発生時の対応など具体的な想定のもと実施された。また、感染拡大のリスクを避けるため、新規にボランティアは募集せず、専任のスタッフのみで対応した。
コーチやスタッフなど難民選手団の関係者、選手と近距離で接触するスタッフについては、毎日PCR検査を行い、感染の早期発見に努めた。接触度の少ないスタッフについても、期間中4日から7日に1回PCR検査を行った。キャンパス内の施設を利用することから、学生や教職員との接触を避けるため、選手の移動には専用のバスが用いられた。
VIVASEDAを中心とした学生ボランティアは、選手たちと直接交流することはできなかったものの、選手たちが滞在する施設に応援フラッグを掲示し、また宿泊する部屋にメッセージカードや折り鶴を贈るなど、工夫を凝らした応援を行った。また、新宿区の小学生からも、選手たちへ応援メッセージが贈られた。
事前トレーニングキャンプは27日に終了し、難民選手団の副団長を務めたオリビエ・ニアムキー氏と本学オリンピック・パラリンピック事業推進担当の恩藏直人常任理事が面会した。
オリビエ氏は、事前キャンプトレーニング受け入れへの感謝を伝えるとともに、今後の本学とIOCとの連携継続について語った。またキャンプ実施の記念に、難民選手団一人ひとりのサインが入ったポスターが本学へと贈呈された。さらに、8月7日付で、IOCバッハ会長から田中愛治総長宛に、感謝の書簡も届いた。(43ページに掲載)

サイン入りポスターを手に記念撮影する恩藏常任理事とオリビエ・ニアムキー氏
今回のキャンプでは、参加人数、日程が想定より縮小され、結果的に宿舎、競技会場、PCR検査、移動などについて、余裕を持って進めることができた。大きなトラブルもなく、東京2020大会に向けて十分な練習ができたとして、選手からの評判も良いものだった。外出ができない選手のために特別に開放された大隈庭園も、緑豊かな環境でリラックスできると選手たちに好評だった。今回の大会では、多くの難民選手が自己ベストを更新し、テコンドー女子57㎏級で、キミア・アリザデー・ゼヌリン選手が5位に入賞した。
大会期間中は学生ボランティア団体と選手が直接交流する機会はなかったものの、応援メッセージについて、選手がSNSを通じて感謝を伝えるなど、様々なやり取りが行われた。また、事後の交流活動として、シンポジウム等の企画についてIOC側と調整を進めており、2022年3月には交流イベントをオンラインで開催する予定でいる。今回の難民選手団事前トレーニングキャンプの受け入れは、東京大会後のIOCとの交流事業につながるよい契機となった。

トレーニングを行う難民選手団のアスリートたち