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地域が目指すべき未来はコンクリート張りの海岸だけではない

潜在的な地域の力を重視したコミュニティ開発

社会科学総合学術院・早田宰教授は、宮城県気仙沼市をはじめ、あらゆる被災地の復興計画・開発に取り組んできた。「私たちが重視しているのは、キャパシティ・ディベロップメントという概念。コミュニティが自立して復興する力を持つことができるように、地域の方々と協業で開発をしています」。震災から10年、被災地ではどのような街がつくられてきたのだろうか。
※写真上:気仙沼市の内湾ムカエル(写真撮影:阿部俊彦早稲田大学都市地域研究所招へい研究員)

 

Profile
早田宰
社会科学総合学術院教授
1966年東京都生まれ。1989年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1991年理工学研究科建設工学修了。1993年同研究科博士後期課程単位取得退学。バーミンガム大学都市・地域研究所(CURS)名誉研究員、北京大学環境学部都市・地域計画学科訪問研究員などを経て現職。早稲田大学都市・地域研究所所長。

民間事業の届かない地域で開発を担う政策デザインの専門家

防潮堤の建設、土地のかさ上げ、施設の復旧、交通網の整備……。東日本大震災の被災地で10年間進められた地域の再建は、現在も進行中だ。その計画や開発は、地域ごとに別々の形をとる。自治体はもちろん、国、民間企業、大学など、多くの機関が関わっており、体制やイニシアチブ、地域住民のビジョンが異なるからだ。コミュニティ開発などを専門とする早田教授は、長年被災地域の開発に携わってきた。
※写真左:釜石港の防潮壁

都市開発というと、建設や不動産など、民間企業によるプロジェクトを想像される方が多いと思います。しかし、例えば社会・経済・環境などの問題を抱える地域の開発は、民間は積極的に手を出さないので、政策主導で行うしかありません。被災地もその一つです。私はこうした『条件不利地域』を主な対象に、これまで国内外のあらゆる開発に取り組んできました」

早田教授が手がける開発には、建設・土木といった「ハード」面の開発だけでなく、防災計画や産業、教育、文化、観光など、地域に内包される「ソフト」も含まれる。プロジェクトは、政府や自治体からの依頼によるケース、大学の派遣によるケース、個人的なつながりから現地に向かうケースまで、さまざまだという。早田教授のような研究者は、「政策デザイン」の専門家として、一人で複数の地域を同時に担当している。
※写真右:災害復興公営住宅の調査 (南相馬市原町区大町) (写真提供:気仙沼市)

「東日本大震災のような大規模災害が発生すると、行政職員だけでは人手が足りなくなるのです。民間コンサルタントや政策デザインの専門家がそれぞれ地域を担当していかなくては手が行き届きません。組織の垣根を超え、その地域に必要な専門家を集めてチームを組み、学生なども総動員しながら、迅速かつ適切な対応をしていきます。プロジェクトごとに一応の持ち場はあるのですが、試合中におけるサッカーのポジションと同じで、実際はごった返しですね」

現場主義に立ちコミュニティの問題を解決する

組織的に地域課題の解決に取り組むため、早田教授は早稲田大学都市・地域研究所の所長を務める。早稲田大学の研究者はもちろん、他大学・海外大学・民間団体からあらゆる領域の専門家が集まる拠点だ。
※写真左:気仙沼市の内湾ムカエル(写真撮影:阿部俊彦早稲田大学都市地域研究所招へい研究員)

「人口減少と超高齢化の中で、地域の抱える問題はますます複雑化しています。災害地域の復興がままならない中で、新たな巨大災害の可能性も示唆されています。こうした問題に対処するためには、蓄積された学際的なアプローチと、社会との連携の両方が必要です。極力多くの専門知を集めることが、地域への貢献に不可欠なのです」

「社会との連携」という点について、早田教授は計画・開発に取り組み際、「アクションリサーチ」と呼ばれる手法を用いる。

「アクションリサーチとは、研究者が地域の一員となって、長所と短所、可能性と課題を分析・共有し、協同探求、問題解決していく研究手法です。ネガティブな観点だけでなく、地域の強みや資産も見出しながら、目標を定め、地域との人々と課題に一つ一つ取り組んでいく、現場主義の方法ですね」

防潮堤建設で激論が起こった気仙沼市のまちづくり

都市・地域研究所が開発に携わった地域の一つに、宮城県の気仙沼市がある。気仙沼は、イタリアで始まった、地域の個性を重視した新しい都市づくり「スローシティ運動」を進め、日本で初めて認定を受けた都市。東北の中でも、独自性・自立性の強い地域である。
※写真右:持続可能な開発のための教育・被災地の農園での実習( 宮古市)

「政策デザインの専門家が開発に携わる際、まず地域の課題のプロファイルを分析するのですが、気仙沼は震災前から重要な施策はほとんど着手しており、地域課題への個性ある取り組みが始まっていました。市長のリーダーシップや自治体の職員さんの気概などは万全だったのです。残された大きな課題の一つは、津波によって破損した空間の修復でした」

沿岸都市である気仙沼では、防潮堤の建設について大激論が交わされていた。防潮堤を推進する国や宮城県と、「海と生きる」というスローガンのもと、巨大な防潮堤に頼らない復興計画を進めていた気仙沼市。早稲田大学の都市・地域研究所のスタッフは、気仙沼市の方向性をさらに高める防災を取り入れたまちづくりを全面的に支援する。

「防潮堤そのものは必要ですが、それを望まない地域だってある。三陸は津波常襲地域であり、防潮堤さえ造れば永遠に安泰というわけでもありません。大切なのは、地域に合った方法で防災対策をすることです。防潮堤を低くするのであれば、それに合わせた避難計画を作成する。災害が起きた際にしっかりと対応できる『持続可能な開発のための教育(ESD)』などを地域に取り入れる。このように、地域そのもののキャパシティを高めることが大切なのです。この『キャパシティ・ディベロップメント』という考えを重視し、計画を進めた結果、地域の方々の理解も得られたと考えています」

こうして気仙沼は、東北の沿岸都市では数少ない、巨大な防潮堤がそびえるだけではない海と一体化した景観の街となった。港町の景観は美しい。その特徴は、防潮堤の上にウォーターフロント商業施設、海の見えるウッドデッキテラスがあること。なだらかな傾斜を通じて海岸と市街地を行き来でき、フェリー乗り場や交流施設、商業施設などを、海を眺めながら散策できる。観光と防災の両立を実現させているのだ。

政府と地域のギャップをいかに埋めていくか

さまざまな地域の開発に携わった早田教授は、この10年の復興を、「力の及ばないこともあった」と振り返る。
※写真左:田野畑村グランドデザインの検討風景

「政府が復興計画で打ち出した「二度と繰り返さない復興」「国土強靭化」の結果、東北の400kmにわたる海岸線は、コンクリートで固められてしまいました。海の見えなくなった海岸線、憩いや活躍の場が無くなって移住した住民、経営も立ち行かなくなった民宿や温泉などの海沿いの観光施設、自立した生活へのモチベーション自体を失った方……。こうした状況を省みると、復興がどれだけ地域の方々の暮らしの場を復興できたかという問いに、胸を張って答えることはできません。中央の政府や省庁が、基本となる復興メニューした用意できないのは仕方のないこと。画一化された計画をカスタマイズするためには、各地域が潜在的な可能性を引き出す『地域力』が必要です。それこそ真の『強靭化』であり、私たち政策デザインの専門家の役割であるべきだったのですが、力が及ばない部分もあったと感じています」

では、次の10年、被災地の開発はどのように進展するのだろうか。

「専門家としても研究者としても、政府にキャパシティ・ディベロップメントの重要性を説いていくことは、いうまでもありません。もう一つは、地域に対する提案力をアップデートすること。今後はビッグデータの時代です。現在、世界各地の現場や研究機関ごとにバラバラになっている知見をクラウドに集約し、プラットフォームとして誰でもアクセスできるようになれば、世界中のアイデアをプランに集約でき、地域や政府により良い提案をすることができる。この構想を実現すべく、新しいラボのプロジェクトを始動しました」

被災地の風景、巨大な防潮堤の写真

釜石港の防潮壁(高さ6.1m。景観配慮型で窓があり海側の様子がわかる)

まったく配慮のない悪いものばかりではない、というのはわかるが、ただし、本当にこれでいいのかという意味を込めました。

現地調査の様子

災害復興公営住宅の調査 (南相馬市原町区大町)
写真提供:気仙沼市

気仙沼市の内湾ムカエル

写真撮影:阿部俊彦早稲田大学都市地域研究所招へい研究員

防潮堤の上にウォーターフロント商業施設、海の見えるウッドデッキテラスを配置している。
設計:SMDW+DEKITA。中心メンバーが早稲田大学都市・地域研究所の阿部俊彦研究員。
日本都市計画学会 計画設計賞、日本建築学会作品選集入選、これからの建築士賞、グッドデザイン賞。

持続可能な開発のための教育・被災地の農園での実習( 宮古市)

復興りんご「大夢」(おおゆめ)。岩手産の新種。特徴は平均450gもある粒の大きさと甘さ。
生産者山崎慎弥さんの果樹園を訪ねた学生たち。
早稲田大学は震災後、JA共済寄附講座を解説。CAS教育(クリエイティビティ、アクション、サービス)の融合プログラムが特徴。
学生たちは、現地を訪れ、新種開発関係者へインタビュー、その想いと環境を理解し、さらに自ら農産品を仕入れてイベントを開催し販売する。
東京永田町JA共済ビルで「東北まるしぇ」を開催、見事50分で完売。

田野畑村グランドデザインの検討風景

田野畑村では、2019年「暮らしやすい村のグランドデザイン構想」を9ケ月かけて、延べ200名程が参加しまとめた。
写真は市民参加の討議に自ら加わって対話する石原弘村長。早田宰はアドバイザーで参加。