活動概要
訪問先:福井県
テーマ:福井県内各地でのフィールドワークを通して、地方の実態や地方が抱える課題を構想し、人口減少時代における地方のあり方・地域活性化の方策について考える
参加学生数: 10名
活動期間: 2024年 2月 28日(水) 〜2024 年 3 月 2 日(土)
活動報告
今回が初となる福井県各地域でのSIプログラム実地研修です。
本研修では国際学生寮WISHの寮生10名が、福井県各地でのフィールドワークを通して、地方の代表都市ともいえる福井県が抱える地方都市としての課題や地域活性化の可能性について理解を深めていきました。本研修には国内各地から海外まで、多種多様なバックグラウンドを持った寮生が参加し、参加者それぞれが「我がまち」と福井県との比較・検討を通して新たな視点・価値観を得ることができたようです。
参加寮生の体験記
幸福度日本一といわれる福井県の越前市と勝山市に3泊4日のSIプログラム研修に参加した。人口減少時代における地方の実態と抱える課題を捉え、地方創生に向けたアイデアを発表した。また、今回の研修では福井県を基準として自分たちの生まれ育った場所との比較をすることで両地域の魅力を発見し、当事者として地方創生に担うことを目指した。
今回の研修を通じ私の中でキーワードとなった言葉が二つある。それは「物語性」と「もやい」である。
私は福井研修に訪れるまで、それぞれの地方に個性があるのか懐疑的だった。地方のことを良く言う際に使われる三拍子でもある「ご飯がおいしい」、「自然がきれい」、「人々が温かい」、は実際に私の地元の好きなところとも重なってたが、果たしてその三フレーズが当てはまらない地域などあるのだろうか。一面に広がる水田に草木生い茂る山々、広い敷地をもつ家屋といった風景は日本の地方都市において典型的な光景とも言え、その地域にしかない良さなど存在しないのではないか、と思い至っていた。
しかし、福井研修に参加してすぐに私の懸念は杞憂に過ぎなかったと明らかになる。各地域には各地域にしかない色があり、個性があった。確かに、ある面に目を向ければ各地方同士の類似点は多い。けれども、各地方が独自に紡いできた歴史に、物語に目を向けるとそれぞれの地方は他のどの地域とも異なる色を持っていることが明らかになった。
2日目に訪れた勝山市のニンバス・中上邸、はたや記念館、恐竜博物館、越前大仏は全ての場所が勝山という土壌で育まれた物語を持っていた。例えば、ニンバス・中上邸は、世界的建築家である磯崎新が設計した数少ない個人住宅の内の二棟であるが、それは、福井県で1950年代から盛んになった創造美育運動のもと、小コレクター運動が推進され、美術作品鑑賞のための家を建てたいという考えに共感が得られ、磯崎氏による設計が叶った、という物語がある。また、はたや記念館は勝山市の地場産業である織物業を伝える生きた文化財として近代化産業遺産に認定されているが、その裏には戦後の不況からのめまぐるしい復興、地曳イベントなどを通じた建物保存に対する住民理解の獲得などの物語を経て今の姿がある。
3日目に訪れた越前市の63エステートワイナリー、もやいの郷、越前和紙の里、タケフナイフビレッジでも同様であった。白山といった急峻な山々に囲まれた越前の地では豊かな水資源をもとに和紙や打刃物といった伝統産業が根付き、現在はコウノトリの里として日本有数の有機産地形成が目指され、風土を活かした無添加のワインも製造されている。紫式部の暮らした土地でもある越前市の風土は和紙や打刃物といった“伝統”として、あるいはワイナリーといった“挑戦”として、地域の人々の手によって連綿と受け継がれている。
このように各地域にはその土壌で育まれた風土、産業、建物、観光資源がある。その一つ一つに過去から現在まで紡がれた物語があり、その継承の結果、それぞれの地域は今の姿で存在している。何か一つの地域資源に着目するだけでもその土地固有の物語は自然と発見される。物質的資源だけにではなく、語られることにより受け継がれる物語性に着目してこそ地域の固有性は表出し、その地域にしかない、その地域だけの資源が生まれるのではないだろうか。
二つ目のキーワードである「もやい」は三日目に訪問し、そば打ち体験をしたもやいの郷で教えていただいた言葉である。もやい結びとは一度結ぶと離れない結び方のことで、人と人の関係が一度繋がると離れないように、という意味を込めて「もやいの郷」と名付けられたと伺った。私はここに「幸せ」の極意があるのではないかと思う。福井研修を通して、福井県は東京に比べ人と人の繋がりが深いと感じた。例えば越前打刃物について学んだタケフナイフビレッジでは全国各地から職人たちが集まり、異なる会社の職人同士でも技術を教えあい、大量生産できない分、細かい用途に合わせた様々な刃物を作っていた。越前和紙の里では和紙の原料であるトロロアオイの栽培農家が減少しているというお話を聞いた。和紙の継承には紙を漉く職人だけではなく、それに関わる農家や道具の職人など多くの人々の存在が必要であるということに気が付いた。もちつもたれつの相互依存的関係の中で社会は回っているという当たり前のことではあるが、流動人口が多く、自分に対する相手の存在を感じずとも生活していける東京では気づけない感覚だった。「幸せ」とは他者との関係の中で自分が存在していると実感できることなのかもしれない。
この四日間の研修を通して様々な学びと発見があった。この経験を糧にこれからも地方創生について考え、行動していきたいと思った。
最後に本研修を支えて下さった関係者の皆様、ありがとうございました。