「前近代イスラーム社会知識人再考」第1回研究会(2017年4月15日開催)
◆場所:早稲田大学120-4号館311教室
◆参加人数:9名
◆内容:イブン・ハルドゥーンの証言を通して、軍事技術と知識人との関わりについて検討した。 ティムール朝軍がマムルーク朝軍兵がこもるダマスクスの城砦を包囲した際、すでにティムールに投降していたイブン・ハルドゥーンは、ティムールの軍営にあってその様子を実見しており、自伝にも書き残している。それによれば、ティムール軍にはmuhandisinと呼ばれる土木の専門家がおり、彼らは城砦の堀から水を抜くための技術的検討をしていたという。現代アラビア語では一般的にengineer(技術者、工学者)の訳語として用いられるmuhandisinは、元来は幾何学handasaに携わる者の意である。イブン・ハルドゥーンは『歴史序説』の中でもこの学問について説明しており、それが建築や測量に応用できるものであるとしている。イブン・ハルドゥーンが多様な知のあり方に関心を示していたことを示す好例であるといえよう。 また、この包囲戦の記述の中では、火器と思われる兵器への言及も見られる。この兵器についてはイブン・ハルドゥーンの史書本編の中でも言及があり、この軍事技術の世界史的転換点を知識人としてのイブン・ハルドゥーンがどのように認識していたかについても、検討の必要があろう。 (文責:佐藤健太郎)