
2009年度の活動報告
本研究は、選挙をはじめとする集団意思決定の場で、人々はどのような条件下において、自らの個人的選択に関して納得しやすいか検証するために社会科学実験を行った。われわれが注目したのは人々の選択の主体性である。選択に際して、必要な情報を取得するための情報源、選択肢の数など、選択における個人の自由意思が介在する程度が大きくなればなるほど、人々は結果の如何に関わらず自分の投票に納得し、集団的決定の結果を自らの選択の結果として受け入れると考えられる。
昨年より継続のプロジェクトであるため、4-6月に数回の実験準備のための会合を持ち、そこで実験デザインの吟味が行われた。6月下旬から7月中旬にかけて、プログラマの小池修平氏の協力のもと、実験プログラムの改良がおこなわれた。プロジェクトメンバー全員でプログラムや動作性やデザインのチェックを行い、気付いた点は各自が逐次メーリングリストでコメントし、それを飯田助教がまとめて、小池氏に修正リクエストを送るという形式で進められた。
実験は2009 年7 月20 日〜22日に202名の早稲田大学学部生を対象に行われた。そこでは、被験者たちは4つのグループにランダムに分けられた。一つのグループは4人の候補者で戦われる仮想的な選挙において、各候補者のマニフェストから閲覧する争点を自分で選んだ上、好きなだけ見ることができる(CCグループ)。二番目のグループはマニフェストから閲覧する争点がランダムに与えられた上、20秒間しかそれを見ることができない(TTグループ)。第三、第四のグループはそれぞれ第二のグループに与えられた処置のうちどちらか一方だけを与えられた(CTグループと、TCグループ)。これらの処置の後、投票する候補者を決めるわけだが、ここでポイントはマニフェストは全ての候補者について抽象的で一般的で同じ内容であるため(プレテストで確認済み)、投票選択の決め手とはならないということである。最後に被験者は各候補者のマニフェストを好きなだけ見ることができ、最初の投票決定を変えたいかどうか聞かれる。ここでの仮説は「情報がランダムに開示された上、開示時間が20 秒に制限されたグループの被験者(情報取得の自由度の少ない)は、マニフェストを全て開示された後、投票先を変えたいと思いやすい」というものであった。実験時間は20-40分であり、被験者は参加費謝礼として800円の報酬を得た。
8月―9月には実験データ分析の報告会とさらなる分析についての議論が行われた。そしてその成果は12月に行われた火曜セミナーおよび若手国際カンファレンスで発表され、それらの場でのフィードバックをもとに、10年1月にアトランタで行われたアメリカ南部政治学会にて発表された。これらの発表は尾崎氏が中心となって行った。英文論文にまとめるため、現在は実験結果をサポートする調査データの2次分析を行っている。