
2008年度の活動予定・研究目標
本プロジェクトは金融市場の制度・環境とそこにおける経済主体の価格形成・予想形成の相互関係を、経済実験を通じて考察することを主たる目的とする。
先行研究の一つとして、ある金融制度のもとでの経済主体の期待形成が制度の安定性や維持可能性に大きな影響を及ぼすことの制度変化ゲーム(games of regime change)による分析による研究を挙げることができる(Angeletos, Hellwig and Pavan, Econometrica, 2007)。本プロジェクトには以下のいくつかのサブテーマがある。
(1)株式市場のバブルに関する実験。制度的な環境によって、株式市場に何らかの理由でノイズトレーダー(正確な情報をもたないトレーダー)が存在する場合、このトレーダにより価格形成がゆがめられバブルが発生する可能性はあるだろうか。この問題を確かめるために、実験室の中にノイズトレーダを作り、それが市場に与える影響を見る。
(2)不動産市場のバブルに関する研究。不動産市場において情報開示等の制度的な環境が整っていない場合、賃貸市場でのミスプライシングと売買市場でのミスプライシングが相互に補完しあってバブルが発生する可能性がある。この可能性を不動産取引の実験を通じて考察する。
(3)テークオーバーに関する実験。社会的に意味のあるテークオーバーが必ずしも成功しないことは、フリーライダー問題として理論的によく知られた命題である。そこで、どのような制度環境のもとでこのフリーライダー問題が解決されるのかを、実験を通じて考察する。
(4) 金融市場において規模の大きな経済主体(ヘッジファンド、IMF、中央銀行など)が他の経済主体に及ぼす影響。とくに、各投資家の保有する情報の正確さと投資家の取る行動の関係についてのCorsetti, Dasgupta, Morris and Shin (2004, Review of Economic Studies)による理論仮説の実験を実施、その妥当性を検討する。
(5)非対称情報とその下での人々の期待形成のあり方が金融市場の効率性にどのような影響を与えるか。さらに、この研究を基にして、より有効な金融制度のあり方を検討することが主要なテーマとなる。対象とする金融市場としてはほとんどの市場が含まれるが、まずは消費者を対象とする金融市場から始める。
(6)以上の実験研究の基礎となる理論研究