
2010年度の活動予定・目標
21-COEにおいて開発に成功したCASI調査(実験要素を導入したコンピュータによる全国世論調査)を、昨年度はG-COEとして読売新聞世論調査部と提携して衆議院選挙前後に実施した。その実績に基づき、今年度は7月の参議院選挙の前後に2波にわたり、CASI調査を全国120地点以上、サンプル数2000〜3000で行う予定である。2010度も読売新聞世論調査部と連携する。ただし、予算削減の影響で、同じ規模の紙媒体による全国世論調査(PAPI)は実施しない。本調査では、本拠点のテーマである「制度」と「期待」に関する仮説を検証するための調査票の設計を、大学院生と助手を中心に昨年度後半からずっと行ってきた。それの作業をもとに、調査票を確定し、CASIプログラムを作成し、平行してサンプルの抽出(多段層別全国無作為抽出)を行う。サンプリングと調査の実施は、外部の調査専門機関に競争入札を経て委託するが、その機関の調査員への指導・教育など、本拠点しか持っていない技術的な点の指導・教育は、本拠点の助手・院生が教員と共に全国7都市に出張して行う。
総選挙後は得られたデータの分析を院生が中心となって行うが、必要があれば補完的なウェブ調査等を院生が実施し、分析を確かなものにする可能性もある。
実験的要素を導入したCASI方式全国世論調査は世界で唯一のものである。さらに、世界的に類のない政治経済学実験を大規模サンプルのデータで検証することによって、これまで経済学で所与されてきた理論的前提を、政治学および認知心理学的な視点から、実証的に検証することも可能になってくると考えている。
同時に、このCASI調査の実施によって、本拠点にて研究に従事している大学院生に、してもらうことが可能になり、彼らを国際的競争力ある研究者に育成する事が可能になる。
火曜セミナーでは、総選挙前に調査実施の概要、総選挙後に簡単な分析結果を発表する。年度末に開催される予定のGCOE国際シンポジウムに向けて、教員および院生はこれらのデータを用いた分析結果を英語で報告するよう準備したい。また、国際シンポジウムの予算に余裕が出てくれば、ミシガン大学のArthur Lupiaら世界トップレベルの研究者を招聘し、調査自体や分析結果についてコメントを受けたい。
本プロジェクトにおいて、大学院生は世論調査の準備・実施・分析などあらゆる段階において積極的な関わりを持つことが期待される。これまでの調査同様、調査票を設計する際には、GCOE全体からテーマに沿った形で広く質問文が募集されるが、大学院生も教員の指導のもと、自分の研究関心に従って自由に提案することが可能である。この作業を通じて、大学院生は大規模世論調査に自分の研究に必要な変数を含めるという貴重な機会を得るとともに、調査票の設計という政治意識の研究者のキャリアにとって必要不可欠なスキルを身に着けることができる。また調査の実施に当たって、大学院生は委託業者との打ち合わせに同席するとともに、調査員に対するインストラクションを監督するために教員に同行して全国に出張する。こうした現場でのやり取りを通じて、世論調査を実施する上で発生しうる諸問題について身をもって学習するであろう。さらに、集められたデータの分析において、大学院生は主要な役割を果たす。自らの研究における仮説の検証作業を通じて、「期待」と「制度」というGCOE全体の課題に対するインプリケーションを導くとともに、その結果をできれば英語でまとめ、国際学会などで発表し、広く海外へと発信していくことが期待される。
こうした取り組みは全て、オリジナルな知見が最も重要である所の博士論文執筆の大いなる助けとなり得るし、先進的なCASIの手法を開発・学習することは、新しい社会科学の方法論の確立、ひいては新しい政治経済学の確立に向けての足がかりとなるであろう。